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『恋するプリテンダー』感想(ネタバレ)…恋は「きゅん」ではなく「きょうはん」で!

恋するプリテンダー

恋は「きゅん」ではなく「きょうはん」で!…映画『恋するプリテンダー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Anyone But You
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2024年5月10日
監督:ウィル・グラック
恋愛描写
恋するプリテンダー

こいするぷりてんだー
『恋するプリテンダー』のポスター。白人の男女が見つめ合うデザイン。

『恋するプリテンダー』物語 簡単紹介

ロースクールに通っているビーは、街角のカフェで偶然に金融マンのベンに助けてもらい、ちょっとした小芝居じみた嘘から関係を深め、一夜のデートで楽しい時間を満喫する。しかし、その翌朝、些細な行き違いが原因で燃え上がった恋心も一気に冷めてしまった。それからしばらく後、そんな2人がオーストラリアで同じ結婚式に出席することになる。そして状況から恋人同士のふりをするハメになり…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『恋するプリテンダー』の感想です。

『恋するプリテンダー』感想(ネタバレなし)

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なんでも”きゅん”では表現できない

いつ頃からか、世間は恋愛感情が芽生えて心がときめく現象を「きゅん」なんて日本語で表現するようになっているのですが、なんなんだ「きゅん」って…。私にとって「きゅん」は小動物が絶命するときの断末魔なのだけどなぁ…。

別に「きゅん」というバリエーションがあってもいいのですけど、正直、今の日本はなんでもかんでも「きゅん」と言い表そうとしすぎな気がします。恋愛なんてただでさえ多様なのだから、恋愛絡みのエンターテインメントの宣伝もいろいろな言い回しがあった方がいいですよ。

今回紹介する映画も、日本の配給側がどうにか「きゅん」で宣伝しようと意地になって結局思いつかなかったのか「XXきゅん」というわけのわからないぶん投げをみせているのがすでにシュールです。

それが本作『恋するプリテンダー』

本作はアメリカ映画で、原題は「Anyone But You」。邦題に唐突に出現した「プリテンダー(pretender)」は「詐欺師」の意味です。日本の宣伝は「恋プリ」って略して宣伝してるんですけど、この略称で売り出したいからこの邦題にしたのか…?

『恋するプリテンダー』はロマコメ(ラブコメ)で、近年作で言えば『ショットガン・ウェディング』と同じリゾート・ウェディングが主な舞台となりますが、主人公の男女がひょんなことから恋人同士というフリをすることになり、そうこうしているうちになんだか気になってきて…というベタな展開です。

というか、これはもう書いていいと思いますけど、この『恋するプリテンダー』は”ウィリアム・シェイクスピア”による名作喜劇『空騒ぎ(から騒ぎ)』のプロットをおおまかに土台にしており、ちゃんと引用もあります。キャラクターの名前だって受け継いで(部分的にもじっている)、これ見よがしです。

その『空騒ぎ』を現代劇にしますってところがこの映画の売りですね。本当は宣伝でもそこを全面に打ち出せば、シェイクスピアのファンダムとかを客として呼び寄せられるのに…。日本の配給はどうしても若者世代に売りだしたかったらしいけど…出演俳優の顔触れといい、洋画を普段みない日本一般人にはリーチさせるのは厳しそうだ…(「恋プリ」なんて打ち出しても空振りではないか)。

でもハリウッドでは今や人気急上昇の俳優2人の共演で、本国アメリカでは若者層をガツンと狙い撃ちしているんですけどね。

『恋するプリテンダー』で主演するのは、ひとりはドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』で大ブレイクし、『マダム・ウェブ』のようなエンタメ大作から、『リアリティ』のような社会派映画まで、幅広く演技の才能を発揮している“シドニー・スウィーニー”。なんかZ世代のセックス・シンボル的にメディアでもてはやされることもありますけど、本人は固定的ではない仕事の幅を見せています。

その“シドニー・スウィーニー”と対峙するのが、『トップガン マーヴェリック』で話題をかっさらった”グレン・パウエル”『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』など以前から映画のキャリアは着実に積んでいましたけど、やっぱりアイツと空を飛んだのはデカかった…。今作では自身の筋肉イケメンっぷりを最大限バカっぽく活用して遊びまくっています。

共演は、『tick, tick… BOOM! : チック、チック…ブーン!』”アレクサンドラ・シップ”『モキシー 〜私たちのムーブメント〜』”ハドリー・ロビンソン”、ドラマ『私の”初めて”日記』“ダレン・バーネット”『マッドマックス フュリオサ』”チャーリー・フレイザー”、ラッパーとして活躍する“GaTa”『ベスト・フレンズ・ウェディング』“ダーモット・マローニー”など。

『恋するプリテンダー』を監督するのは、ハチャメチャ実写映画『ピーターラビット』シリーズを手がけた“ウィル・グラック”『小悪魔はなぜモテる?!』なども監督してきたので、コミカルな推進力はじゅうぶん磨き抜かれています。

脚本には、ドラマ『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』の若手である“イラナ・ウォルパート”が参加しています。

ロマコメ好き、俳優ファンはぜひどうぞ。

なお、異性愛カップルを主軸にしていますが、その舞台の結婚式は女性同士の同性愛カップルで進行しているということも付け加えておきますね。

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『恋するプリテンダー』を観る前のQ&A

✔『恋するプリテンダー』の見どころ
★俳優の身体を張ったギャグ。
★定型の恋愛喜劇を現代風に。
✔『恋するプリテンダー』の欠点
☆展開は王道なので新鮮さはやや薄い。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:気楽に眺めて
友人 3.5:笑い合って
恋人 3.5:喧嘩せずに
キッズ 3.0:やや性的なギャグあり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『恋するプリテンダー』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

ボストン大学のロースクールに通うビーは、少し駆け足で手近のコーヒーショップに入り、「トイレいいですか?」とお願いします。しかし、お客様だけしか利用を認めないと見向きもせずに店員に告げられ、だったら何でもいいので買おうとするもレジは長蛇の列。なんとか交渉しますが、店はポリシーを曲げる気はないようです。

そのとき、レジに並んでいたひとりの背の高い男が機転を利かせて助け船をだしてくれます。その優しい男、ベンからトイレの鍵をもらい、思わずトイレの中でステキな出会いがあったことに大興奮。興奮しすぎて服を盛大に蛇口の水で濡らしてしまい、必死に乾燥させようと奮闘。ベンはその間もずっと待ってくれていました。

トイレも無事に終わり、ビーはお礼を言って立ち去ろうとしますが、ベンにまた声をかけられ、あらためて自己紹介。2人はその後も一緒に街を歩き、瞬く間に仲良くなっていきました

金融企業で働いているベンは落ち着いた生活を送っており、家に招かれてもリラックスした時間を過ごせました。楽しく喋り明かし、気が付くとベンに抱かれてソファで眠っていたビー。

朝、ゆっくりと起き上がり、ビーは上着を手に邪魔にならないように外へ出ます。最高の一夜でした。これ以上ないほどに。ビーとして大満足で、夢のような気分。

一方、ベンはビーが起きて出ていくあたりで起きており、そこにピートという友人がすぐに現れます。ビーがそそくさと出ていってしまったことに少し傷ついていました。

出会いを忘れられないビーはアパートに戻ってきますが、ちょうどベンがピートと喋っているところで、ビーとの出会いを大したことはないと随分と冷たく評する言葉に、ビーは固まってしまいます。浮かれていたのは自分だけだったのか…。そのままショックを受けて引き返し、その出会いはそれっきりです。

6カ月後、ベンとピートはバーで、ピートの妹のクラウディアからハルというガールフレンドを紹介されます。その流れでいろいろな女性と対面しますが、その中にビーがいました。ハルはビーの姉だったのです。

ビーとベンは2人とも目を合わせ、たまたま以前に会ったことがあると穏便に説明します。顔を見つめながらも、目は笑っていません。なぜ何も言わずに出ていったのか、なぜあんなことを言ったのか…互いに根に持っています。

それから後、クラウディアとハルの結婚式はシドニーで行われることになり、当然、ビーもベンも招待されます。

飛行機も一緒です。ここでもビーとベンは火花を散らしています。

祝いの場であるビーチに到着すると、さすがに晴れやかな観光地の雰囲気で気分も良くなります。

しかし、ベンは元カノのマーガレットがなかなかに筋肉質でカッコいい男と仲良さそうにしているのが気に入りません。ビーも両親の激推しで元カレのジョナサンとの復縁を強要されるような空気にイライラします。

これは…またちょっと手を取り合う瞬間が来たのかもしれない…。

この『恋するプリテンダー』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/11/13に更新されています。
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シチュエーションシップ

ここから『恋するプリテンダー』のネタバレありの感想本文です。

『恋するプリテンダー』は先に説明したとおり、”ウィリアム・シェイクスピア”による名作喜劇『空騒ぎ(から騒ぎ)』のプロットをおおまかに土台にしています。

貴族のベネディックとベアトリスが丁々発止の口喧嘩を交わすほどに当初は不仲なのですが、しだいに周囲の密かな後押しもあり、いつの間にか結ばれていく…というストーリーです。『恋するプリテンダー』のベンがベネディック、ビーがベアトリスですね。

この定型が16世紀から親しまれていたのですから、よっぽど大衆にウケがいいのでしょうね。もちろん現代でもこのタイプの物語は好まれるでしょう。『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』なんかはわりと『空騒ぎ』ベースですし、オタク・カルチャーな日本の人気作品でもそのルーツがあるものが散見されます。

『恋するプリテンダー』は脚本の“イラナ・ウォルパート”の手腕もあって、その古典恋愛喜劇をしっかり現代風に変えており、その主軸になっているのが、作中でビーも口にする「シチュエーションシップ(situationship)」という言葉。これは英語圏のZ世代でよく使われるスラングで、2022年くらいから一気に流行りだしたようです。当事者同士がお互いに対して特定の意識的な感情を抱いているものの、その感情が明確に定義されていない曖昧な恋愛に近い関係性を指します。デートするかしないかの狭間にいるみたいな感覚です。日本語で言うところの「友達以上恋人未満」というフレーズが一番似ているかもしれません。

ビーもベンも本当に些細なことですれ違っており、そこまでの深刻さはありません。邦題があれですが、そんな重大な事件になるほどの詐欺とかやっているわけではないです。なので観ているこちらとしては随分と気分が楽です。「早くくっつけばいいじゃないか」と眺めていられます。

今やマッチングアプリが出会いの主流の場になっている現代社会において、リアルで対面し合うことでの意思疎通の恐怖感というのは、共感を与えやすいと思います。誤解されたらどうしよう…伝わっていなかったらどうしよう…あんな反応ということは嫌われてしまったのではないか…。恋愛に限らずこの気持ちは抱いたことがある人は多いのでは?

シチュエーションシップはその状態が居心地がいいというよりは、踏み込むのが怖くてそれ以上進めないという、現代人の対人恐怖の現れなのかな。

無論、恋愛に到達することが唯一の正しさなのではなくて、それぞれの理想とする関係性があるんですけどね。

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一緒に共犯になって社会を変えよう

『恋するプリテンダー』におけるビーとベンの関係は「きゅん」というよりは「共犯」という衝動的契約で始まっています。

最初はトイレを利用するために小さな嘘。小芝居で夫婦のように振舞いました。次に互いの狙いを達成するためにもっと大舞台で嘘をつくことになります。

これは私の考えですが、人間の恋愛関係の動機っていろいろで、こういう風に何かしらの共犯関係という軸があることも珍しくないと思うのです。何でもかんでも純粋な感情が原点にあるわけでもない。むしろほんのちょっぴりの打算的な狙いがあるほうが目的が明確化されて、共同の行動を起こしやすかったり…。

『恋するプリテンダー』はその共犯となったビーとベンの姿をとことんアホに描いてくれるので、好きなだけ笑えます。

“シドニー・スウィーニー”も”グレン・パウエル”も体を張ってギャグをすることに何の躊躇もないです。コアラ注視の裏での互いの身体まさぐりからのクモ全裸ギャグとか、こういうくだらなさはハリウッドの良いチープな伝統ですよ。

ちなみに“シドニー・スウィーニー”のほうが撮影中に本当に蜘蛛に噛まれたらしいです。オーストラリア、蜘蛛がいっぱいいるからね…。動物ギャグが入るのはオーストラリアである以上は鉄板か…。

船上パーティーでのタイタニック真似からの海中落下、そして空中熱唱と、脈絡もなく好き勝手やっているのもこのジャンルならでは。みんなで各シーンで歌うエンドクレジットはもはや恒例行事ですが、これはやっておかないと…。お祝いの場だからね。

基本的に最終のゴールは『空騒ぎ』どおりなので着地は予定調和。そういう点では何かしらの捻りや皮肉がもっと欲しかったのもありますが、”グレン・パウエル”の全裸に免じて許してあげましょう。

予定調和的と言えば、本作で背景に描かれているレズビアン・ウェディング。脚本の“イラナ・ウォルパート”も同性の恋人がいるみたいですが、表象としては極めて平凡です。取るに足らない描写とも言えます。別に本作はこのクィアネスを論争的なものとして取り扱ってはいません。

これはわりとLGBTQフレンドリーな地であるオーストラリアを舞台にしているからというのもありますが、一方で『空騒ぎ』プロットは異性愛者でも同性愛者でも何の問題もなく互換性があることを平然と示しています。よくできた面白い恋愛喜劇は性的指向に左右されません。

背景とは言え、しっかりあのレズビアン・カップルも、リゾート・ウェディングの場でささやかに互いの食い違いが浮き彫りになって、ちょっと一瞬危うくなりかけたのかもしれないけど、それでもまた丸く収まっているあたり、ちゃんと王道の恋愛ストーリーを通過していました

日本から本作を観ると、早くこのステージに立ちたいなと思うところです。日本、信じられないことに2024年になってもまだ同性結婚が法的にできないのでね(強調)。法的な同性結婚ができないままにウェディング体験するのと、法的な同性結婚ができる環境でウェディングするのは全然構造が違いますから。から騒ぎしたい人はいっぱいいます。

『恋するプリテンダー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 55% Audience 87%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)Sony Pictures エニワン・バット・ユー

以上、『恋するプリテンダー』の感想でした。

Anyone but You (2023) [Japanese Review] 『恋するプリテンダー』考察・評価レビュー
#シドニースウィーニー #グレンパウエル #ロマコメ #結婚式 #レズビアン