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アセクシュアル・アロマンティックを作品で描くときの注意点とは?【クリエイター向け】

アセクシュアル・アロマンティックを作品で描くときの注意点

アセクシュアル・アロマンティックを描く

他者に対して性的に惹かれない「アセクシュアル(アセクシャル)」、恋愛的に惹かれない「アロマンティック」…これらの用語は日本でも徐々にですが知られ始めてきました。そうなってくるとアセクシュアルやアロマンティックのキャラクターを描いた小説・漫画・ドラマ・映画などの創作物も数が増えていくものです。

しかし、当事者にとってその現状は素直に喜べないモヤモヤがあります。なぜか。それはそうした創作物の中でアセクシュアルやアロマンティックはちゃんと描かれているだろうかと不安になるからです。「嫌なら見なければいい」という主張は通用しません。間違った描写は誤解や偏見を助長し、当事者の実生活に悪影響を与えます。大問題なのです。

こうした問題は「レプリゼンテーション(表象)」としてLGBTQ界隈では以前からよく議論されてきました。詳しくは『テレビが見たLGBTQ』や『トランスジェンダーとハリウッド 過去、現在、そして』といったドキュメンタリーを観るといいでしょう。その影響の重大性がよくわかるはずです。

アセクシュアル・アロマンティック界隈でも海外では当事者たちの間で議題になってきました。けれども日本ではまだまだ情報は乏しいです。

そこでこの記事ではクリエイター向けとして「アセクシュアル・アロマンティックを作品で描くときの注意点」を整理しました。あくまで私のまとめたものですが、独断的主観にならないように先行の海外の議論を踏まえて紹介するように心がけています。

もちろんこれはガイドラインではありません。強制はできませんが、それでもより良い作品になればと思って公開しています。あくまで参考にどうぞ。

そもそも言葉の意味をわかっている?

ちょっと待ってください。そもそもアセクシュアルやアロマンティックという言葉の意味を理解しているでしょうか。その理解がないなら話になりません。

アセクシュアルは同性愛や両性愛と同じく「性的指向」であり、アロマンティックは「恋愛的指向」です。アセクシュアルだけの人もいれば、アロマンティックだけの人もいるし、両方の人もいます。アセクシュアルの他にデミセクシュアルグレイセクシュアル、エースフラックスなどいろいろあり、アロマンティックも同様です。日本ではノンセクシュアルなんて言葉も使われますね。これらを包括的にまとめて「Aスペクトラム(A-spec)」と呼んだりします。

詳しく説明しだすとキリがないので、学びたいときは個人的には『13歳から知っておきたいLGBT+』という本がオススメ。セクシュアリティやジェンダーに関する用語が網羅的にわかりやすく紹介されていますし、当事者の声も豊富に掲載されています。

↑内容の易しさもさることながら、情報量の充実性が素晴らしい入門的な本です。

こう描くのはマズい…!

ではさっそく以下にて「アセクシュアル・アロマンティックを作品で描くときの注意点」(正確にはA-specを描くときの注意点ですね)をいくつかに分類して紹介していきます。これらはいわゆる「Aphobia」(アセクシュアルの場合はAcephobia、アロマンティックの場合はArophobia)と呼ばれるA-specに対する典型的な偏見や嫌悪などと密接に関係したものです。その全てを紹介していませんが、主要なものはピックアップしています。

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治療できる・克服できる

当事者がもっとも拒絶したい描き方…それがこれでしょう。A-specを治療したり、克服したりできるものとして描くということ。

ハッキリ断言しますが、A-specは精神疾患でも身体的病気でも障がいでもありません。欠けているものはありません。いたって健康であり、正常です。アレルギーでもコンプレックスでもないのです。なので治療したいとか克服したいとも望んでいません。余計なお世話です。

これはA-specに限らずLGBTQ界隈では深刻な問題です。特定の性的指向や性自認は治せるという思想が一部の人によって流布され、実際に実行された歴史があります。これは「コンバージョン・セラピー(転向療法)」と呼ばれます。しかし、これは極めて有害です。当事者の健康を害し、自殺などに追い込む危険性が高く、学会や研究機関などはこうした「治療できる」という意見を全面的に否定する声明を出しています。現在では特定の性的指向や性自認は治せると語ること自体が「ヘイトスピーチ」に認定されることもあり、創作物と言えどもそれを推奨すれば責任を厳しく問われるでしょう。

「コンバージョン・セラピー(転向療法)」の実態を描いた映画として『ある少年の告白』という作品がありますので(ゲイを描いたものですが)、ぜひ観てみてください。

病弱的・障がい者的な描写
こうした「治療できる・克服できる」という思い込みがあるせいか、A-specのキャラクターを描くとき、やたらと病弱的・障がい者的な描写になってしまう事例も散見されます。いわゆる「難病モノ」みたいなフォーマットです。例えば、キスされたら嘔吐してしまう…など。常識的に考えて、キスされて毎度嘔吐するならば、それはもともと体調不良か、緊張で動揺したか、毒を盛られたか…ですよね。
矯正レイプ
「まだ良い出会いがないだけだよ」「セックスを経験すればわかるよ」といった親切のつもりで言い放たれる言葉の数々はA-spec当事者にとってはナイフで刺されるも同じ。ましてや強引に恋愛や性行為を経験させようとするのはいわゆる「矯正レイプ」と呼ばれる非道な行為です。美談のつもりでも、作品内でそれを肯定的に描くことは極めて有害です。
性欲がない?
アセクシュアルは「性的に惹かれない」と説明しましたが、「性欲がない」ということと同じでしょうか。基本的に多くの当事者コミュニティや専門家は「性欲がない」とは説明しないようにしています。なぜなら「性欲減退」などは病気の症状として医学的に用いられるので、アセクシュアルが病気であるという誤解につながるためです。アセクシュアルは病気や老化で性欲が減退した人ではありません。
メンタルヘルス
A-spec自体を病弱的に描くのはステレオタイプなNGですが、一方でA-specの人は現実では鬱や摂食障害などメンタルヘルス上の問題を抱えやすく、A-specではない人と比べて性犯罪に遭いやすく、自殺率も高いことがわかっています。だからといって悲劇性ありきのキャラにされても当事者は喜ばないでしょうが、こうしたメンタルヘルスに向き合うストーリーはリアリティがあります。
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感情がない・冷たいキャラ

A-specのキャラクターを無感情的で冷たさのあるキャラクターとして描こうと思ったなら、それが本当に必須なのか一旦立ち止まってみませんか。というのも当事者は現実社会でもそういうふうなレッテルを貼られやすいのです。「恋やセックスをしないなんて人の心が理解できないんだろ」とか「人付き合いが悪いだけだね」とか、あれこれと好き勝手に言われることもしばしば。

でも実際のA-specの人たちの性格や人柄なんて決まりきっていません。千差万別、多種多様です。お喋り好きな人も、社交的な人も、リーダーシップが強い人も、笑いをとりまくる人も、何だっています。

キャラクターデザインをするときは「アセクシュアルならこうだ!」などと先入観に染まっていないか、慎重に見直すことが大事だと思います。

ロボットでもスポンジでもないよ
当事者コミュニティの間でよくネタにされるのは、A-specキャラクターがロボットみたいに描かれるということ。無感情キャラの定番です。また、『スポンジ・ボブ』というアメリカのカートゥーンアニメのキャラがアセクシュアルであると製作者が言及した際も「え、私たちはスポンジなの…」と当事者界隈はやや微妙な反応になりました(「スポンジ・ボブ」自体は面白いのですけどね)。日本だったらオタク文化によくありがちなクール系キャラにA-specを当てはめがちになるかもしれないですね。
服装について
キャラクターを描くのに服装は大切な要素です。このとき、恋愛やセックスに興味ないならA-specの人は服装も露出度が少ない地味なものだろうと考えるのは早計です。ファッションは恋や性的アピールのためにあるとは限りません。A-specの人の中には自己表現を楽しむべく、露出度のある恰好だってする場合もあります。例えば、著名なアセクシュアル・アロマンティック活動家である「Yasmin Benoit」という女性はランジェリーモデルをしています(以下の動画を参照)。
Life without sex – what is asexuality?
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アンチ恋愛

アロマンティックの人は恋愛映画や恋愛小説、恋愛ソングを嫌うものなのでしょうか。答えは「NO」です。もちろん嫌いな人もいるでしょう。でも嗜む人もいます。これは恋愛的指向ではなく、「趣味」の問題です。だからアロマンティックであっても恋愛モノを楽しむ人はいますし、アロマンティックではない人でも恋愛モノが嫌いな人はいるものです。アロマンティックだからって過度に恋愛作品アンチを全開にしたキャラにするのは、アロマンティックを描写しているというよりも「単に趣味に一家言を持つオタク」という感じにも思えます。自分は恋愛しなくても他人の恋愛を応援するのは好きなアロマンティックだっています。

当事者の中には恋愛作品を作る人も
A-spec当事者の中には恋愛小説や恋愛漫画を創作している人も珍しくありません。例えば、映像化された経験もある作家兼イラストレーターの「Alice Oseman」はヤングアダルト作品を手がけており、中には甘酸っぱい恋愛モノもあります。俳優をしている人もいますし、恋愛作品だろうと出演するでしょう。
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性嫌悪

アセクシュアルの人は性嫌悪があるのでしょうか。これは難しいテーマです。「アセクシュアル=必ず性嫌悪感情を持つ」ということではありません。でもアセクシュアルの人の中には性嫌悪を何よりも強く表明する人もいます。ただ、性嫌悪ありきで描写するのはアセクシュアルとしての論点がズレやすくなることも多いので、あまりオススメしません。性嫌悪というのはアセクシュアルだけに見られるものではありません。

アセクシュアル女性の中には性嫌悪というよりは“性的に消費されること”の嫌悪を訴える声は大きく、これはアセクシュアルに限らず多くの女性が直面している差別的問題です(もちろんA-spec女性はその指向ゆえにさらに立場が苦しかったりしますが)。

プールに例える
アセクシュアルと性嫌悪の関係を他人に説明するのは難しいです。私は「プール」の例えをよく挙げます。学校のプールがあります。その水面に虫の死骸が浮いてたら“嫌悪感”がありますよね。でもそのプールで泳ごうと思えば嫌悪感をこらえて泳ぐこともできる人もいるでしょう。この例えでアセクシュアルに該当するのは、虫に嫌悪感がある人でもなく、運動能力として泳げない人でもなく、消毒塩素で肌が荒れてしまう人でもない…プールにワクワクした興味が全く湧かない人です。
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童貞・処女 / 独身主義

いきなり人の性経験を聞いてくる人とはお友達になりたくないものですが、創作の参考としては知りたくなるもの。アセクシュアルってことはセックスの経験はないのか? 答えは「NO」です。経験のない人もいます。でも過去に経験ある人もいますし、今も性行為をしている人もいます。「アセクシュアルなのに?」と疑問に思うかもしれないですが、性的に惹かれていなくても性行為ができる人はいるのです(だからといって性行為を強要したらダメですよ。後述の矯正レイプになります)。また、自慰をする人もいますし、ポルノを見る人もいます。アセクシュアルの人を「童貞・処女」と同義とするのは誤りです。

関連してA-specだからといって独身主義というわけではありません。異性・同性いろいろでパートナーを持つ人もいます。他者に感じる魅力は「恋愛的魅力」や「性的魅力」だけではないので、繋がりを持つ手段はいくらでもあります。デートする人も、子育てをする人だっています。もちろんパートナーを持たないことにしている人もいます。

セックス・キス・ハグなどの扱い
どこまでが性的で、どこまでが恋愛的行為なのか、この判断は極めてプライベートな認識に左右されます。例えば、あるアセクシュアルの人は「キスは性的じゃないから全然平気」という考えを持ちます。でも「ハグすらも嫌だ」という態度をとる人もいます。ちなみに私は「くすぐられる」のが性的な感じがして嫌です(だから自分から他人をくすぐることも絶対にしない)。ありきたりな言い方ですけど「人それぞれ」ですね。
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都合のいい普遍化・美化

「よ~し、だんだんわかってきたぞ、A-specをネガティブに描くのはマズそうだな…じゃあ、ポジティブに描こう!」…おっと、ここにも落とし穴が。

気を利かせたつもりでA-specを事実を無視して都合よく普遍化してしまったり、美化してしまうことは多々あります。過剰なまでに尊く儚い存在のように持ち上げられたり、清廉潔白な存在として崇められたり…。A-specだからってみんながみんな聖人君子というわけではありません。性差別的な人もいますし、性犯罪をする人もいるでしょう(性的に惹かれなくても性犯罪行為はできるのです、残念ながら…)。

女はみんなアセクシュアル?
これは非当事者やアセクシュアル男性が口にすることが多い意見なのですが、ナンセンスです。「女性は全員アセクシュアルだ」という主張は、「女性=性欲がない=性欲は男だけのもの」という女性蔑視な偏見が根底にあり、事実ではありません。
セクシュアリティは変わる?
アセクシュアルでない人がアセクシュアルになったり、アセクシュアルだった人が性的に惹かれるようになったり、そういう変化が起きたりするのでしょうか。答えは「YES」。セクシュアリティが流動的に変動する人はいます。ただし、これを作品で描写するときは相当に慎重になる必要があるでしょう。下手をすれば前述したように「A-specを克服することは正しい」という思想を補強することになるからです。また、流動するといってもセクシュアリティを当人の気分で自由自在に選べるわけではないので注意してください。

こう描いてほしい

注意点はこれくらいにして、ここからは創作におけるポジティブな意見提案を書いていきます。

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創作の参考になるもの

A-specを描くときの参考になるものはたくさんあります。

A-specやLGBTQを解説した書籍はとても役に立ちますし、教養にもなります。私のセレクションになりますが、以下の本(すべて邦訳あり)がオススメです。

  • 『イラストで学ぶジェンダーのはなし みんなと自分を理解するためのガイドブック』
  • 『LGBTヒストリーブック 絶対に諦めなかった人々の100年の闘い』
  • 『LGBTとハラスメント』
  • 『日本と世界のLGBTの現状と課題』
  • 『見えない性的指向 アセクシュアルのすべて 誰にも性的魅力を感じない私たちについて』
  • 『13歳から知っておきたいLGBT+』

英語ですが以下の本もオススメ。

  • 『How to be Ace』(Rebecca Burgess)

リアルタイムでA-specに関連した情報を知りたければ専門の団体や組織のSNSをフォローしたりしましょう。以下にオススメの一部を掲載しておきます。

  • @niji_koou(NPO法人にじいろ学校);日本のA-spec支援団体
  • @asexuality(AVEN);最大規模のA-spec団体【英語】
  • @aromantic_aurea(AUREA);アロマンティック団体【英語】

専門家の監修を受けるのは最も理想的ですが、一般の当事者の声を参考にするのも良い手です。ただし、その当事者の声はあくまでその人のストーリーであり、A-specコミュニティ全般の総意ではないですし、その当事者も表象に関しては専門外かもしれません。また、当事者の声を聴く際は絶対にプライバシーを尊重し、強引に話を聞きだそうとしないように注意してください。

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デザインの材料に

A-specの人々を類型化することはできませんが、A-specコミュニティを覗いているとわかると思いますが、当事者の間で共通のお約束になっているアイテムやトレードマークがあったりします。

例えば、アセクシュアルのフラッグ(旗)には「紫色」が使われており、アロマンティックのフラッグには「緑色」が用いられているため、それらをマイ・カラーする当事者は少なくありません。また、ケーキ、ドラゴン、ブラックリングなど当事者コミュニティの間で一定のお決まりアイテムとなっているものもあります。

それらをキャラクターデザインの参考にするのもいいかもしれません(無理して取り入れる必要性はないですけどね)。

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AはLGBTの一員です

日本でも認知が高まるようになった「LGBT」ですが、アセクシュアルやアロマンティックのようなA-specも「LGBT」に含まれます。海外では「LGBTQ+」や「LGBTQIA」と呼ぶことが多いです。そもそも「LGBT」は単に頭文字をくっつけた言葉ではありません。“連帯”を意味します。これは性的少数者同士で差別し合うことはせず、互いに助け合おうという意図があります。プライドパレードにA-specの人も参加していますし、参加は歓迎されます。

A-specの人の中には他の性的指向or恋愛的指向や性自認を合わせ持つ人もいます。例えば、アセクシュアルかつレズビアンであったりとか、デミロマンティックかつパンロマンティックとか、アセクシュアルかつアロマンティックかつノンバイナリーとか…。こういう複雑性を反映した表象は残念ながら少ないです。

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支援者になろう

アセクシュアルやアロマンティックを作品で描いて「はい、おしまい」だと、当事者にしてみればそのクリエイターの創作自己満足やキャリアに利用されただけに思えて不快に感じる人もいます。できれば支援者(アライ)になってみてください。

支援の方法はいろいろあります。寄付でもいいですし、積極的に正しい知識を広めたり、活動家をサポートするのも良いでしょう。SNSで「私はA-specを全面的に支持する」と表明するだけでも違ってくると思います。

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最後に

なんだかごちゃごちゃと書いてしまって混乱させたかもしれませんが、創作は基本は自由です。アセクシュアルやアロマンティックを描くときも変わりません。A-specはどんな描写もできます。部活に青春を捧げる学生でもいいし、推しアニメに全力を投じるオタクでもいいし、起業家でもいいし、大統領になってもいいし、悪を倒すヒーローでもいい。何でもいいのです。その世界に当たり前にA-specがいてくれるなら。

私はクリエイターの皆さんには特別なパワーがあると思います。それは言い換えると「特権」とも言えます。素晴らしいイラストやストーリーを創作できる才能があるということは、社会に大きな影響も与えられます。問題は、マイナスの影響を与えるか、プラスの影響を与えるか…です。

エンパワーメントをもたらし、多様性を育み、魅力あふれる連鎖反応を生む…そんなクリエイティブな力を私は信じています。

関連作品

私が感想を書いた作品記事の中で、アセクシュアルやアロマンティックに関連するものです。褒めたり、批判したり、いろいろです。

・『17.3 about a sex』

・『それでも僕らは走り続ける』

・『やがて君になる』

・『ボージャック・ホースマン』

・『アンモナイトの目覚め』