偉大な国には嘘がある…Netflix映画『ダムゼル 運命を拓きし者』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本では劇場未公開:2024年にNetflixで配信
監督:フアン・カルロス・フレスナディージョ
恋愛描写
だむぜる うんめいをひらきしもの
『ダムゼル 運命を拓きし者』物語 簡単紹介
『ダムゼル 運命を拓きし者』感想(ネタバレなし)
今度のお姫様は?
現代の幼い子どもたちにも「プリンセス(お姫様)」の物語は人気です。私が最近見かけた本『よみきかせえほん プリンセスのおはなし』(成美堂出版)には、西欧から日本までよく知られた12のお姫様の物語が収録されていて、1冊でお得に子どもの好みに対応できるものでした。
収録されている物語は以下のとおり。
「シンデレラ」「しらゆきひめ」「おりひめとひこ星」「エンドウ豆の上にねたおひめさま」「ねむりひめ」「はちかづきひめ」「おどる十二人のおひめさま」「白鳥の王子」「虫めづるひめぎみ」「にんぎょひめ」「ラプンツェル」「かぐやひめ」
どれもお姫様がでてくると言ってもそれぞれで独自の持ち味がある物語です。最近の子どもはどれがお気に召すのかな。やっぱりその子しだいですかね。もう3歳くらいとかでも、自分の好みが確立して、どの作品が好きか嫌いか主張してくるし…。
そんな小さな批評家さんのためにも、世の中にはいろいろな「お姫様の物語」があったほうがいいでしょう。
今回紹介する「Netflix」独占配信の映画も新たに加わるお姫様物語です。
それが本作『ダムゼル 運命を拓きし者』。
ただ、紹介しておいてなんですが、今回のこの『ダムゼル 運命を拓きし者』、小さい子に見せるにはちょっと暴力的で怖いシーンもあるので、あんまりオススメできないかもしれない…。教訓としての良さもしっかりあるので、小学生中学年から高学年くらいならいいかもだけど…。
本作は、ひとりのお姫様が主役。あるとき、遠くにある繁栄した王国からこちらの王子と結婚してほしいという縁談が舞い込んできます。主人公のお姫様の国は弱小で貧乏でもあったので、これは良いチャンスだと飛びつきます。ところが予期せぬ事態が待ち構えていて…。
何が起きるかは観てのお楽しみ。でも「Netflix」サービス内の作品ページでネタばらしちゃってるんだけど、いいんですかね? 私はあの最初のひっくり返しも含めて鑑賞者は知らずに観たほうが絶対にいいと思う…(あれ以上の展開が二転三転するわけでもないのだから…)。
このネタバレ無しの前半感想では言及はしません。これから観る人は「Netflix」で作品を検索しても紹介文を見ないように薄目で再生ボタンをタップしてください。
原題の「Damsel」は古めかしい言い方で「乙女」という意味です。未婚の女性のこと。まあ、それだけです。
言ってもいいことなら、『ダムゼル 運命を拓きし者』を引っ張る主演の“ミリー・ボビー・ブラウン”。主演作『エノーラ・ホームズの事件簿』シリーズを成功させ、『ダムゼル 運命を拓きし者』も製作総指揮を兼任して、若手としてはなかなかに積極的なキャリアを積んでますね。今回もアグレッシブで、あれやこれやと何でもやってみせます。
共演は、『キング・オブ・シーヴズ』の“レイ・ウィンストン”、『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』の”アンジェラ・バセット”、ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の“ロビン・ライト”、ドラマ『Love, ヴィクター』の“ニック・ロビンソン”、ドラマ『ペリフェラル 接続された未来』の“ブルック・カーター”など。
『ダムゼル 運命を拓きし者』を監督するのは、『10億分の1の男』(2001年)、『28週後…』(2007年)、『イントルーダーズ』(2011年)、ドラマ『サルベーション 地球の終焉』のエピソード監督を務めたスペイン人の“フアン・カルロス・フレスナディージョ”です。今作でも職人監督な仕事でしょうか。
そこまで必見!ってほどの映画ではないですけども、暇なときに、気軽に視聴してみてください。
『ダムゼル 運命を拓きし者』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2024年3月8日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :お姫様物語好きなら |
友人 | :俳優ファン同士で |
恋人 | :気楽にエンタメを |
キッズ | :少し暴力的だけど |
『ダムゼル 運命を拓きし者』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
隊列を作って馬で駆け抜ける精鋭の騎士たち。それを先導するのは王冠を被った王です。上空には巨大なドラゴンの影が不気味に飛び去っていきます。
部隊は薄暗い洞窟へと降り、松明に照らされます。慎重に進むと雄たけびと共に溶岩の息吹が襲ってきて、あっという間に隊列の騎士を溶かしてしまいました。さらに鋭利な攻撃を受け、次々と絶命。王は残され、絶望にひざまづきます。そして唸るドラゴンが迫り…。
数世紀後、エロディは妹のフロリアと薪割りをしていました。土地は貧相で、草木もなく、生活は苦しくなるばかり。飢え死にしか待ち受ける運命はなく、民はどんどん減っていきます。
エロディとフロリアはベイフォード家のプリンセスでした。民のためにできるかぎりのことをしようと、献身的でした。
城へ戻ると、何やら大人たちが語り合っています。父と継母もいます。父に事情を聞くと、縁談らしいです。相手は王子。「世界を見てこい、民のために」…そう言われると断れません。
こうして船で海を渡り、異国の地へと向かうことになったエロディとフロリア。エロディとしては、聞いたこともない国の名前で、実態もわからずに不安を抱えていました。継母は身だしなみに気を付けろと小言が止まりません。
船は霧を直進し、相手の国の領地へと到着します。ここがアウレア国です。その光景に一同は絶句します。ドラゴンの威圧的な像が立ち並んでいたのです。
しかし、そこを抜けると緑に覆われた街並みが見えてきました。エロディたちの国では考えられない豊かさです。
豪華絢爛な馬車で城に案内され、壮観な敷地に圧倒されつつ、丁寧な出迎えを受けます。王家は礼拝中だそうで、明日の朝にヘンリー王子も含めて対面できるとのこと。
夜、エロディは眠れず、バルコニーから外を眺めていると、遠くに火が見えた気がします。フロリアも寝れないようで、一緒にベッドで会話。「お姉さまならきっと大丈夫」
そして翌日、王家と対面。物腰柔らかな印象で、麗しい姫だと褒められます。
王子と2人っきりになり、エロディは率直に相手の心を探ります。ヘンリー王子は手紙と雰囲気が違うと気さくに言い、互いに少し打ち解けます。こっそり馬に乗って大地へ駆け出し、窮屈な監視を逃れて自由を満喫。
王子に夜に見た火の話をすると、古い儀式で祖先を敬う日だったとヘンリーは説明します。
一方、継母は女王の態度に不信感を覚えます。夫がこの国の女王と2人で奥の部屋で話し込んだ後もなんだか少し荒れていました。自分の知らないところで何かあったのか…。
継母はこの結婚は過ちではないかと夜に部屋にいるエロディのもとを訪れ、懸念を示しますが、いつの間にか現れた父に遮られてしまいます。これ以上は何も話せません。
結局、結婚の儀は始まりました。指輪を授かり、誓いのキス。温かい祝福に包まれます。
エロディはヘンリーに導かれて、街から少し離れた険しい山へ連れていかれます。価値ある務めだと王女は言い、3人の姫を捧げて王国が誕生した逸話を語り、犠牲を忘れないためとして、手のひらにナイフで傷をつけさせます。それを互いの手に重ね…。
そして足元の大きな底の見えない穴に金貨を投げる。これで終わり。
王子に抱きかかえられ、後は帰るだけ…と思いきや、エロディは穴に投げ捨てられてしまい…。
ミリー・ボビー・ブラウンならできる
ここから『ダムゼル 運命を拓きし者』のネタバレありの感想本文です。
「世界には勇敢な騎士が、か弱き乙女を救う物語が無数にある。これはそういうものではない」との明確な宣言で始まる『ダムゼル 運命を拓きし者』。
序盤を簡潔に説明するなら、「昔々あるところにお姫様がいました。そしてステキな王子様に出会い、結ばれました。穴に投げ落とされました。めでたしめでたし」となります。
わざわざお姫様抱っこからポイっ…ですからね。悪趣味さが全開です。
ただ、ここでツッコミたくなった人は私だけではないはず。「それ、ドラゴンに生贄に捧げる前に落下死して終わりじゃない?」…と。結構な高さから不意打ちの不安定姿勢で投げ落とされますからね。普通はズタズタのボッキボキになります。
しかし、今作の主人公であるエロディは頑丈でした。
ここからドラゴンの溶岩ブレスを狭い洞窟であるにもかかわらず見事に回避し、鋭利なクリスタルの壁面を垂直に登りきり、断崖絶壁に絶望することもなく、助けに来た父が抉り殺されるところを目撃しつつ、外へ脱出。さらに妹のフロリアが今度は穴に落とされたので、躊躇なく自分も穴にダイブです。
壮絶なんだけど、それを上回る不屈の精神。強すぎる…。
本作のエロディは『トゥームレイダー』みたいなスタイルのフィジカル化け物なパワーファイターで、そこがアウレア国の連中の誤算でした。まあ、“ミリー・ボビー・ブラウン”はだいたい「強い」と相場が決まってますから。
“ミリー・ボビー・ブラウン”はドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』でイレブンという脱規範的なキャラクターで鮮烈に話題を集めてブレイクしたせいか、その後のキャリアも含めて、主体的にステレオタイプでない役柄を選んでいるのかな。いずれにせよ非常に今のZ世代を象徴する若手ですよね。
今回の映画でも自分でスタントをしたそうですが、かといって事前にトレーニングしまくってボディを引き締めて筋力をつけまくったりもせず、スタジオ主導で女優が体型をコントロールされるような風潮には毅然と従うことはない姿勢をみせています。消費されることに徹底して抗っている俳優です。
こういう映画も“ミリー・ボビー・ブラウン”だから説得力をだせるようなものであり、製作総指揮でがっつりプロダクションに関与できる若手の代表として頼もしいです。
“アンジェリーナ・ジョリー”の『トゥームレイダー』(2001年)の時代と比べると本当に激変したなと痛感する…。
それでもSNSで嫌がらせを受けたりと“ミリー・ボビー・ブラウン”も苦労はしているんですけどね…。
もう少し物語を掘り下げてほしかった
『ダムゼル 運命を拓きし者』は「王子様と結ばれてハッピーエンド」の「プリンセス・ストーリー」のカウンターとなる「自立型戦闘系プリンセス」のグループ群に属する作品です。
ディズニーも『ラーヤと龍の王国』なんかを作っていますし、今はもう珍しいサブジャンルではありません。
『ダムゼル 運命を拓きし者』はそうした作品群と比べると、やや物語がストレートすぎて展開が読めやすいのがちょっと残念かなと思います。
あの序盤の祖国からの描写もあそこまで丁寧に描く必要はなかったのではないかな。だいたい観客は「王道のプリンセス・ストーリーがひっくり返される」とわかっていると、この序盤さえもまどろっこしく感じます。
映画冒頭でいきなり王子様との婚約シーンで始まり、お姫様抱っこ放り投げでスタートしてもいいんじゃないか? その点、似たような立ち位置の『ザ・プリンセス』はオープニングの省略が潔くてよかったな…。
あとひとつ気になるのは、終盤の展開。ドラゴンに騙されていると教えて逆に味方に加え、あの詐欺王国を一緒に攻め込んで焦土と化すというのは、リベンジとしては気持ちのいいオチです(もっと早くにドラゴン単独で燃やしてしまえばいいのにね)。ラストのドラゴンを連れ立っての世界見物出航は『ゲーム・オブ・スローンズ』みたいな構図で、本作は実質ティーン向け『ゲーム・オブ・スローンズ』だったかもしれません。
ただ、あれだと圧倒的な武力で問題を解決したことにもなるので、侵略正当化にもみえてしまって、いささか素直に喜べない気持ちも…。
もともとエロディは祖国で国家的な貧困状態という課題を抱えていました。それがなぜそうなってしまったのか具体的には描かれていません。自然環境上の問題なら解決は時間がかかりそうですし、政治的失策が要因ならそれはあの統治者に責任があります。
『ダムゼル 運命を拓きし者』は序盤でその祖国の状況の描写を入れてしまったがゆえに、観客にその問題を浮上させるのですが、残りのパートは「戦闘系プリンセス」のジャンル的な快感を重視してそこばかり描くことに偏っているので、「で、どうなったの?」という疑問が残ったままという…。
やりようはあったと思います。例えば、本作はキャラクター・アークの主題を姉妹の絆にしていますが、もっと庶民型の立場から主要キャラクターを追加して、エロディの国とアウレア国の庶民同士の交流で相互協力の関係を構築させるとか。その際に何かしらの持ちつ持たれつの地域特有のメリットを交換し合えるとフェアですよね。
全体的に本作は市民描写が乏しすぎました。今はますますこういう包括的視点が大事になっているので…。
それとこれは完全に私の好みですけど、本作のドラゴンは人語を話せるのでコミュニケーションがかなりやりやすいのですが、私はドラゴンは人語を話せないほうが好きです…。人間の言葉を話せないけども頑張って交流できることに感動があったりするじゃないですか…。ね?(わかる人にしかわからない)
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 59% Audience 77%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix ダムセル
以上、『ダムゼル 運命を拓きし者』の感想でした。
Damsel (2024) [Japanese Review] 『ダムゼル 運命を拓きし者』考察・評価レビュー
#ミリーボビーブラウン #プリンセス