韓国呪術廻戦が解き放たれる…映画『破墓 パミョ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:韓国(2024年)
日本公開日:2024年10月18日
監督:チャン・ジェヒョン
ぱみょ
『破墓 パミョ』物語 簡単紹介
『破墓 パミョ』感想(ネタバレなし)
次元の違うお墓じまいスリラー
「お墓じまい」にはものすごくおカネがかかるらしいですね。私はやったことがないのですけど、墓には関わりたいものではない…。
ただの墓石じゃないか、骨だって年数経ったら分解されて何も残ってないよ!…と思うのですが、埋葬は法律でいろいろ規制されているせいで、とにかく煩雑でおカネを必要とする作業になってしまうのが現状です。
もちろん法律と資金だけの問題ではなく、その埋葬された死者に対する遺族側の想いとか、あれこれが交錯して関わってくるのも厄介なところ。みんながみんな「お墓とかどうでもいいです」となっているならまだしも、それぞれにいわくつきの因縁でもあったりしたら、面倒な状況が増してしまいます。
私、何でもかんでもIT化するのは反対ですが、墓こそ真っ先にバーチャル化していいんじゃないかと思っている…。だってどうしたって死者の数は時代が進むにつれ積み重ねっていくばかりで、墓に入る人は増していき、存命の人だけで支えるには限界がきます。負担ですよ。もう墓には負の遺産のイメージしかわかない…。
だから墓も省エネでいきましょう。こういうときに「SDGs」だ「カーボンニュートラル」だと言えばいいんです(そうか?)。
今回紹介する映画は、正確には墓じまいではないのですけども、先祖の墓にまつわるとんでもない事実が存命の人たちに想像を絶する負担を与えていく、衝撃のお墓スリラーです。
それが本作『破墓 パミョ』。
なんか映画のタイトルが音の響きだけ聞くと、「きゃりーぱみゅぱみゅ」とか『崖の上のポニョ』感があって可愛いのですが、中身はゾっとする恐怖が詰まっています。
主人公は4人の韓国人。ひとりは巫堂(韓国のシャーマン)、ひとりはその弟子、ひとりは風水師、ひとりは葬儀師。この4人はアメリカにいる韓国系アメリカ人の裕福な家族から依頼を受けるのですが、それは代々で後継ぎの子が謎の病気にかかるという謎の現象を解決してほしいというもの。すぐにこれは先祖の墓にまつわる呪いだと判断し、その墓がある韓国の山中に向かい、墓を掘りおこして改葬しようと試みます。
本作の英題の「Exhuma」は主に死体などを掘りおこすことを意味する単語です。
ところがやすやすと上手くいきません。この墓にはとんでもない事実が隠されていることが判明し、想像を超える恐怖が襲いかかってきます。
ジャンルとしてはオカルト・スリラー。韓国映画界ではこのジャンルはおなじみであり、得体のしれない祟りにみんなで立ち向かっていく話と言えば、『哭声 コクソン』なんかもありましたが、今作『破墓 パミョ』は「墓」を基点としており、そこからブレません。
そしてネタバレになるので伏せますが、ちゃんと恐怖の正体も明かされますし、全てが謎のままで意味深にミステリーを放置することもないです。ジャンル的には明快にエンターテインメントになっているほうだと思います。しっかり怖いシーンもあり、アっと驚く展開もあり、目が離せません。
この『破墓 パミョ』を監督したのは、『プリースト 悪魔を葬る者』(2015年)、『サバハ』(2019年)の“チャン・ジェヒョン”。オカルト・スリラーが大得意な監督ですが、確実にスケールアップしながら実力を積み重ね、今作『破墓 パミョ』も才能をいかんなく発揮しています。“チャン・ジェヒョン”監督はオカルトの胡散臭さをエンターテインメントで押し切る豪快さがある人だなと思っていましたが、『破墓 パミョ』のパワープレイもガツンときますよ。
『破墓 パミョ』の俳優陣も豪華なアンサンブルで見どころ。『コインロッカーの女』やドラマ『シスターズ』などで研ぎ澄まされた名演をみせた“キム・ゴウン”、ドラマ『ザ・グローリー 輝かしき復讐』などの若手先鋒の“イ・ドヒョン”、『不思議の国の数学者』やドラマ『カジノ』の大ベテランである“チェ・ミンシク”、『梟 フクロウ』など多彩な演技で魅了する“ユ・ヘジン”。この4人が揃うだけでもじゅうぶん最高です。
「細かいことは気にしない」精神のオカルト・スリラー好きはなんだかんだで楽しい『破墓 パミョ』。本作を観た後は、墓じまいもついでに考えましょうか。
『破墓 パミョ』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :じっくりスリルを堪能 |
友人 | :エンタメとして満喫 |
恋人 | :一緒に怖さを体感 |
キッズ | :やや怖いかもだけど |
『破墓 パミョ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
韓国の巫堂ファリムと弟子のボンギルはアメリカ行きの飛行機に乗っていました。ある依頼で呼ばれたのです。それは不動産業で財を築いた韓国系アメリカ人の家族からのもの。高額な報酬が提示されています。
何でも生まれたばかりの息子の謎の病気を突き止めてほしいそうです。跡継ぎが代々謎の症状に悩まされるらしく、家族は深刻に困っていました。実際に見てみると、ベッドですやすやと眠っている赤ん坊がひとり。穏やかそうですし、検査でも異常はないです。それにもかかわらず、瞼を開くことはなく、確かに触っても無反応でした。
さっそく2人は病室で儀式に取りかかり、これが呪いで、墓に関するもの、つまり家族の先祖である祖父の霊に関係していると推理します。墓を掘り起こしてその祖父の遺体をまともな土地へ埋葬し直せば、改善する可能性があります。一家の長であるパク・ジヨンは任せると頼んできました。
韓国へ戻ったファリムとボンギルは馴染みの風水師サンドクと葬儀師ヨングンも参加させることにします。
サンドクとヨングンは2人でコンビを組み、各地の墓を遠慮なく掘り起こしては商売にしていました。今日も2人は墓から骸骨を掘りだし、地面に並べて遺族たちの前でひと仕事。サンドクの腕は確かで生死にまつわる人間の感情と自然との作用を熟知しています。
仕事後の2人がのんびり食事中にファリムとボンギルは会いに行き、例の話を持ちかけます。おカネがいる私情もあって、2人はこの仕事に関わることにします。サンドクは娘の結婚式が控え、資金が要るのです。
とりあえず計画としては4人はお祓いと改葬をそれぞれ行うことにします。サンドクは墓についてジヨンと話し合いますが、妙な空気を放つ人物で警戒するサンドクでしたが、高額報酬を無視できません。
墓は北朝鮮国境近くの人里離れた山にありました。滅多に人が立ち入らない場です。
そして4人で墓の場所に到着。山中にポツンとありました。何も豪華でもなく、地味な墓石が小さく建っているだけ。墓としてはあまりに平凡で、そこまで恐ろしい雰囲気もありませんが、何か嫌な空気だけは漂っています。
いつものように土を舐め、分析を始めたサンドクは不吉な気配を感じてすぐさま車に戻ります。この場所は最悪で祟りがあるとサンドクは撤退します。あれほど恐怖を感じているサンドクの姿はそうそうないので、残りの3人も今は従います。
しかし、後でジヨンに説得され、赤ん坊の命を無下にできないと同情し、やはり考え直して依頼を引き受けることにします。ファリムは墓を掘っている間に呪いを退ける儀式を執り行えると主張し、その作戦でいくことにしました。
準備を整え、墓を掘り返す儀式を始めます。穴を掘っていき、ついにその棺が土から現れます。まだ一同はこの場所の本当の秘密を知らずに…。
歴史の呪いは深く埋まっている
ここから『破墓 パミョ』のネタバレありの感想本文です。
『破墓 パミョ』は悪霊退散のオカルト・スリラーとしては正統派なエンターテインメントですが、その背景には朝鮮半島の歴史が敷き詰められています。具体的には日本による朝鮮半島への侵略の歴史です。
後半までそれは明かされませんが、冒頭で飛行機内で巫堂のファリムが客室乗務員に日本語で話しかけられ、韓国人だと言い返すシーンが何気なく挿入されますが、それが伏線になっています。
あの謎の墓の秘密。それは1910年から1945年まで大日本帝国の統治下にあった朝鮮半島にて、その支配を揺るぎないものにすべく、日本軍が朝鮮半島の要所要所に霊釘を置いてこの大地の生命力を歪めていたという事実でした。しかも、その霊釘にはおそらく1590年代の日本による朝鮮への侵攻に関わったであろう武人も守護霊といて祭られています。かつての侵攻の失敗を霊的な力技に悪用するという禁じ手です。
1590年代の日本による朝鮮への侵攻は『戦と乱』などで、1900年代初めの日本の朝鮮支配はドラマ『Pachinko パチンコ』などで、それぞれ作品で描かれることはありますが、本作『破墓 パミョ』は2つの時代を引き継いで現代の韓国に繋がるという壮大な時代背景のある設定になっていました。
しかも、その墓のある場だけでなく、朝鮮半島全体に関わる呪いがあるというわけですからね。韓国のオカルト・スリラーの中でもスケールが特大級です。
依頼者である今は韓国系アメリカ人として生きているあの家系は、大日本帝国時代はいわゆる「親日派(チニルパ)」だったのだと思われます。これは日本に友好的みたいな意味ではなく、「日本の植民地支配に協力した人物やグル-プ」を指す言葉であり、その歴史ゆえに、韓国国内では非常に忌み嫌われます。元ナチスみたいなものです。
現在、あの韓国系アメリカ人家族はその自身の家系の歴史の汚点を隠してきましたが(裕福な財を築いているのも昔に日本との癒着があったからなのだろうと推測できる)、呪いとしてそれは発現し、苦しんでいきます。一族の過去の悪い行いが代々その子孫を呪っていくという、呪いとしては定番のやつですね。
本作が興味深いのは、その韓国系アメリカ人家族に雇われるかたちで、あのファリムら4人も関わっていくわけですが、結局は4人もカネ目当てで行動してしまっており、少なからずその「親日派」と類似した動機を持ってしまったという点。結果、4人も呪われるにはじゅうぶんな足を突っ込んでしまいました。
本作は歴史を過去のことで今は関係ないものとせず、いつ誰だってまたあの「親日派」みたいな立場になるとも限りませんよという警告を映し出し、その恐怖が映画の核心部分にあります。だからこれは朝鮮半島の当事者だからこその体感できる恐怖だなと思います。日本人がこの映画を観ても基本は植民地支配した側の立場ですから、受け手としてそこからして違ってきますからね。
もうこれは茫然と見上げるしかない
あまりに祓うにしてもスケールがデカすぎる『破墓 パミョ』。とりあえずあの墓だけでも事態を鎮静化しようと4人は奮闘しますが、とんでもないものを目にして愕然とします。
本作はオカルト・スリラーのギアが一段一段と上げてかかっていく展開が気持ちよく、まずはおなじみの除霊の舞い。除霊じゃなくて耐悪霊の時間稼ぎなのかな。ともかくファリムの憑依したかのような渾身の舞いが映像としてこちらのテンションを高めます。豚もいい小道具になっているのですが、後半で豚が全く別次元の凄惨な目に遭うので、これは前菜みたいなものなんですけどね…。
続いて人の頭の蛇の不気味な悲鳴で、惨劇の開幕を告げる。この突発的な演出もまた良かったですね。
ここからあの一家の者たちが続々と悲惨な死を遂げるのですが、この死に方はいかにもオカルトでショッキングな死亡シーンばかり。これだけでもホラー映画としては成り立つレベルです。
しかし、この映画はそこで満足しません。メインはここからです。
第2の棺を掘りおこした4人は寺でひと休み。その深夜に目にしたのは、まさかの侍鬼。ほぼモンスター映画ですよ。さらにその侍鬼が火の玉となって頭上を飛び交い、消えていきます。
比喩とかでもなく、薄っすらと匂わせて演出するでもなく、本当に火の玉が夜の空をぐるぐると飛ぶ映像をお見舞いします。「嘘っぽくなるからやめよう」なんてせずに、この堂々たる映像化。“チャン・ジェヒョン”監督の勢いまかせの技が炸裂してます。
でもやはりこの豪快な火の玉は圧巻で、夜の闇を火の玉がぶわっと照らす演出(遠景で撮るのもいい)がその禍々しさをことさらに強調しますし、4人がなすすべもなく茫然と見上げるのも納得。もうこれは金儲けがどうとかいう次元じゃない…本当にヤバイものを掘りおこしたんだ…と痛感するにはじゅうぶんすぎる体験です。
『呪術廻戦』案件ですよね。対処するにはそれくらいのファンタジーな奴らを動員しないと…。
“チャン・ジェヒョン”監督は荒唐無稽なオカルトを笑いものにせず、真面目に映像化してくれるので信頼が持てますね。
ラストはサンドクの娘の結婚式の写真撮影で締めます。この終わり方もテーマ的にしっくりきます。歪んだ家族の歴史ではなく、善良な家族を繋いでいこうという姿勢が現れていますから。
ということで『破墓 パミョ』はオカルト・スリラーとしてエンタメも歴史の教訓も楽しめる一作でした。日本もどこぞの負の歴史を有する人物を英霊だなんだと祭っていると国全体が呪われるだけなので、そろそろ墓じまいするといいんじゃないですか?
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)2024 SHOWBOX AND PINETOWN PRODUCTION ALL RIGHTS RESERVED.
以上、『破墓 パミョ』の感想でした。
Exhuma (2024) [Japanese Review] 『破墓 パミョ』考察・評価レビュー
#韓国映画 #オカルト #植民地主義