あらすじも何もサンタが殺るだけだ!…映画『バイオレント・ナイト』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2023年2月3日
監督:トミー・ウィルコラ
ゴア描写
バイオレント・ナイト
ばいおれんとないと
『バイオレント・ナイト』あらすじ
『バイオレント・ナイト』感想(ネタバレなし)
クリスマス映画、日本では配送は遅延中
2月になりましたね。メリー・クリスマス!
え? 2月なのに? まあ、雪も降ってるし、2月だってクリスマスってことでもいいでしょう。サンタクロースのプレゼント配送だって遅延することもありますよ。
だいたい全部のプレゼントを12月24日のクリスマスイブの夜に届けるなんて無理難題です。年賀状よりも高難易度じゃないですか。サンタをなんだと思っているんだ。サンタは昔から置き配スタイルですけど、それでもこの労働は過酷すぎる。最近は燃料費高騰のせいで、トナカイの餌代も物価上昇しているから、キツイんですよ。
愚痴ばっかりになってしまいましたが、そんな2月に愚痴まくりなクリスマス映画が日本で劇場公開されました。
それが本作『バイオレント・ナイト』です。
『バイオレンス・ナイト』ではないので混同しないように注意してください(よく似たタイトルの映画がある)。原題も「Violent Night」です。
『バイオレント・ナイト』は完全に“やりがい”を失って惰性で仕事するだけになってしまったサンタクロースが、ひたすらに飲んだくれて醜態を晒しながら自暴自棄にプレゼント配りをしていると、とある豪邸を占拠した窃盗団と遭遇してしまうという、クリスマス・ブラックコメディ映画です。
本国アメリカでは2022年12月にちゃんとシーズンを合わせて劇場公開されたのですが、日本ではなぜか翌年の2月に公開。せめて来年でもいいから12月に公開してやればいいのに、もしかしたら配給の「東宝東和」は本当に「2月は雪も降ってるし、クリスマスっぽい雰囲気はでてるでしょ!」みたいに思ったのかもしれない…(たぶん興行においてベストシーズンである12月は自社の映画の枠だからこの作品はスケジュールできないという理由なのかもだけど)。日本でも12月公開なら宣伝を上手くやればバズるチャンスはある映画だと思うのですが…。
そんなこんなで日本では公開時期からしてやる気の無さが映画の中身とシンクロしてしまったこの『バイオレンス・ナイト』。こういうダメダメなサンタクロースを描く作品自体は珍しくないです。というか、世間はこういう堕落したサンタを眺めるのが好きなのか、よく題材になります。
例えば、2003年の『バッドサンタ』は金庫破りしか能がない落ちぶれた中年男がサンタになるハメになるというコメディ映画で、こちらも結構ヒットしました。『悪魔のサンタクロース 惨殺の斧』は完全に殺人鬼になっていたからちょっと違うか…。
そういう意味では既存の堕落系サンタの系譜にある『バイオレント・ナイト』なのですが、この映画の最大の特徴はアクションです。
なにせ手がけるスタジオがあの『ジョン・ウィック』でおなじみの“デヴィッド・リーチ”が設立し、『Mr.ノーバディ』や『ブレット・トレイン』など勢いのあるアクション映画を連発している「87North Productions」なのですから。
なのでこの『バイオレント・ナイト』もその名のとおり、バイオレンスです。ゴア描写たっぷりな暴力アクションでサンタクロースが暴れまくります。
もうこの暴力的なサンタクロースの絵面だけで押し切っているような映画ですね。他に特筆すべきあらすじも何もないです。この映画の紹介をしてと言われても「う~ん、サンタが暴力しまくっている映画だよ」くらいしか言えない…。
やっぱり本作はクリスマス・シーズンの頭が軽率になっている状態で観るべき映画だったな…。2月はちょっとズレてる…。
そんなぶっ飛んだサンタクロースを熱演しているのは、『ブラック・ウィドウ』やドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』でおなじみの“デヴィッド・ハーバー”。今回もとても彼らしい役どころです。
共演は、『ザ・メニュー』の“ジョン・レグイザモ”、ドラマ『ダーク・マテリアルズ/黄金の羅針盤』の“アレックス・ハッセル”、『ハリエット』の“アレクシス・ラウダー”、『お!バカんす家族』の“ビヴァリー・ダンジェロ”、『デンジャラス・ライ』の“カム・ギガンデット”など。
『バイオレント・ナイト』の監督は、『ヘンゼル&グレーテル』『セブン・シスターズ』『ザ・トリップ』などを手がけてきたノルウェーの“トミー・ウィルコラ”。脚本は『ソニック・ザ・ムービー』の“パット・ケイシー&ジョシュ・ミラー”です。
1月にさっそく溜まったストレスはこの『バイオレント・ナイト』で発散しましょう。
『バイオレント・ナイト』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :気楽に見れるエンタメ |
友人 | :アクション好き同士で |
恋人 | :ベタな家族モノです |
キッズ | :残酷な暴力描写あり |
『バイオレント・ナイト』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):ファッキン・クリスマス!
クリスマスイブのパブ。そこでサンタクロースの格好をした男が飲んでいました。隣にはサンタの衣装の別の男も。こちらはイベントでこんな姿で仕事した後らしく、同業者だと思って気楽に話しかけてきます。
サンタ男はクリスマスやサンタへの敬愛が失われていることを嘆き、ただただため息交じりに愚痴りながら、アルコールを流し込んでいました。
おもむろに立ち上がり、バーテンダーの孫へのプレゼントを置いていくサンタ男。なぜ孫の名前を知っているのかと不審に思ってバーテンダーが屋上まで追いかけると、信じられない光景に空を見上げて唖然とします。そりに乗って飛んでいる…。あれは本物のサンタなのか…。
なんて素晴らしいのかと思った瞬間、そのサンタが上空で吐いたゲロが落ちてきます。
ところかわって、コネチカット州。ジェイソン・ライトストーンは頭にクリスマスの飾りをつけて、傍に来た車に乗ります。中には別居中の妻のリンダと7歳の娘のトゥルーディ。夫婦としては気まずいですが、今日はジェイソンの実家にクリスマスで集まるのです。ジェイソンは無理やりテンションをあげていきます。
ジェイソンの実家は超裕福で、その邸宅もゲートを通ります。ジェイソンの母で経営者であるガートルードがこの主です。すでにジェイソンの妹のアルヴァ、そのカレシで俳優のモーガン・スティール、調子に乗ってスマホで配信している10代の息子のバートも到着しています。
屋敷内ではクリスマス・パーティの準備がたくさんのスタッフの働きで豪勢に整い始めていました。
ガートルードがやってくるとアルヴァたちは揃って出迎えますが、お構いなしで電話しているガートルードはクリスマスを家族と団欒する感じでもないです。
トゥルーディはハグしにいき、こうしてクリスマスは始まりました。この夜のディナーも終わり、ジェイソンは娘にトランシーバーを渡して、ベッドにひとりにさせます。サンタと通話できると信じさせて夢中で話し出すトゥルーディを扉で聞き耳をたてていた夫婦。また家族になってほしいとの言葉に複雑な気持ちになります。
一方、あのサンタクロースはやさぐれながら泥酔しつつプレゼントを配っていました。ライトストーン邸の屋根に到着し、魔法で煙突から暖炉を通って部屋に侵入。用意されたお菓子を食べ、くつろぎ始め、マッサージチェアでのんびり。
しかし、邸内では異変が発生していました。警備のふりをしていたジンジャーブレッドが警備室の人を殴り殺し、合図を送ると屋敷で働いていた人たちが続々と本来の仕事に移ります。実は傭兵の窃盗団が紛れていたのです。
Wifiがオフにされ、窃盗団リーダーのスクルージがのんびりと門の守衛を射殺。殺しに慣れた傭兵たちは本来の警備スタッフを華麗に始末し、占拠。ガートルードの前にスクルージが現れ、家族は集められて軟禁となります。
サンタはこの事態に困惑していました。暖炉から逃げようとしますが魔法は上手くいかず、傭兵に見つかり、銃をつきつけられ、思わず殴られたので反撃してしまいます。トナカイは驚いて飛んでいってしまい、サンタは孤立。
こんな家はさっさと立ち去るべきか…。しかし、サンタの良心がわずかに彼の心を揺らし…。
ダイ・ハード・ホーム・アローン
『バイオレント・ナイト』は序盤からシュールな構図です。
邸宅を計画的に占拠したスクルージらの傭兵窃盗団が当然犯罪なのですが、サンタクロースも状況としては邸宅に無断で侵入している点では同じであり、「どっちもどっち」な感じが漂います。サンタクロースはプレゼントを置いていくので窃盗ではないですが、今回のサンタクロースは随分と自由気ままなので、見方によってはじゅうぶんに仕事上の特権を活かして荒らしているように見えるし…。傭兵窃盗団が別の侵入者(サンタクロース)にあたふたする姿は「お前が言うな」的な反転としても滑稽です。
そして見どころのアクション。ここはさすがの「87North Productions」。アクションの組み立て方も、その段階的な見せ方も、発展のさせ方もきっちり面白く作りこんでくれています。
いちいちクリスマス関連のアイテムを駆使するのが芸の細かさ。星のオーナメントはあんなに凶暴な武器だったのか…。確かに痛そうなかたちしてるもんなぁ…。
それにしても、くるみ割り人形を使った拷問はなかなかに悪趣味ですが(普通に手頃な道具で拷問した方が早いのに)、その後にもっと残酷な『ホーム・アローン』パロディが待ってました。屋根裏に籠城するトゥルーディによる窃盗団撃退のトラップの数々(殺傷率高め)。
どおりでこの窃盗団は癖のある『ホーム・アローン』的な悪者っぽいデザインになっているんですね。
窃盗団のボスの名もスクルージで、クリスマス嫌いということで、「クリスマス・キャロル」のパロディになっているし、本作はとにかくあらゆるクリスマスのネタを全部突っ込むぞ!という気合いを感じる…。
しつこいくらいにクリスマス・ソング由来のセリフを連発したり、「Ho Ho Ho」って言えばいいと思っているかのようなサンタの振る舞いだったり、露骨に遊びまくっていますが、まあ、クリスマス映画だし、これでいいかという気分にもなる…。
それにしてもイマドキの子どもはテレビゲームをディスクで欲しがるものなのかな。最近は何でもダウンロード購入なんだと思ってたけど…。
以前に見かけた統計では、アメリカでは子どもにはオモチャを贈る習慣がまだ根強いけど、大人は「現金」を欲しがるという話を見た気がする…。クリスマスの心が汚れてしまっているのはむしろ大人の方かもしれない…。
サンタは実在する! 人も殺す!
『バイオレント・ナイト』は後半からはあのサンタクロースの真価が発揮されます。
というか、『ノースマン 導かれし復讐者』に引き続き、今作もヴァイキング映画だったのかよ! なんかもうとりあえず野蛮で暴虐な動機づけとしてヴァイキングを都合よく使っているだけだな…。ヴァイキングさん、ごめんなさい…。
物置小屋からハンマーを手にして、暴力の本能を覚醒させたサンタクロース(?)は、窃盗団をボッキボキのバッキバキにさせていきます。まあ、その前からわりと惨殺してましたけどね…。
ラストのとどめはまさかの魔法惨殺技でした。全然ヴァイキング関係ない! そもそもスクルージだけ物理的ダメージが入るのはなぜ…。もう考えてはダメな映画です。
そんなビジュアル的に凄惨な幕引きをしていく『バイオレント・ナイト』ですが、基本はおおむねベタなファミリー映画です。夫婦仲がまた回復したり、子どものクリスマスへの愛が実ったり、いかにもクリスマス映画の定番どおり。むしろ保守的と言っていいくらいに平凡です。普通にやっていたらありきたりすぎる舞台ながら、なんとかバイオレンスなアクションで装飾してイメチェンを計った感じでしょうか。
ここまでくるとファミリー映画風の体裁なのに、遠慮なくR指定にしているので、よくこの企画が通ったなというほどに、内容とターゲット層がチグハグですよね。ベタなファミリークリスマス映画なら、家族客を呼び込みたいけど、これだと小さい子は見れないし…。
ただ、本作はアメリカ本国では劇場公開からすぐに配信も始まっているので、あまりそのへんのレーティングとかも気にしなくていいのかもしれません。
こういうハチャメチャに尖ったクリスマス映画が作れるのは、クリスマス・ムービーの主流となるステージが動画配信サービスに移行したからでしょうし、『バイオレント・ナイト』はこの時代らしいクリスマス映画なのでしょう。
個人的にはトナカイがアクションに参戦しなかったのが残念なのですが、それは次回作に期待することにしましょう。この『バイオレント・ナイト』、続編も企画が動いているようですからね。
サンタクロースじゃなくても冬は危険がいっぱいです。有名な俳優も除雪機に巻き込まれて大怪我しましたけど、除雪中の事故は本当に恐ろしいです。凍った路面での交通事故も危険極まりないので、悪天候以外の日でも警戒は怠ってはいけません。
バイオレンスは映画の中だけにしておきましょう。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 73% Audience 88%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
クリスマス映画の感想記事です。
・『スピリテッド』
・『シングル・オール・ザ・ウェイ』
・『ジングル・ジャングル 魔法のクリスマスギフト』
作品ポスター・画像 (C)2022 Universal Studios. All Rights Reserved. バイオレントナイト
以上、『バイオレント・ナイト』の感想でした。
Violent Night (2022) [Japanese Review] 『バイオレント・ナイト』考察・評価レビュー