LGBTQ(セクシュアル・マイノリティ)は映画にはあの1年でどれくらい描かれてきたのか?
それに関心がある人にとって、必見のレポートが毎年公開されています。「GLAAD」による「Studio Responsibility Index(SRI)」です。
そこで今回はこの「GLAAD」による「Studio Responsibility Index」について、2023年の概要を日本語で私なりにまとめて紹介することにします。あくまで概要なので詳細は実際の「Studio Responsibility Index」を確認してください(ネット上で公表されています)。
「GLAAD」とは? 「Studio Responsibility Index」とは?
「GLAAD」という組織や、「Studio Responsibility Index」というレポート自体についての詳細は、去年の記事(以下)で整理しているので、そちらを参照してください。「GLAAD」独自の評価方法「Vito Russo Test」についてもその記事内で解説しています。
毎年、前年の映画の状況をまとめた「Studio Responsibility Index」が公開され、2024年も2023年を扱った「Studio Responsibility Index」が公表されました。
以下に詳しく内容を紹介していきます。
全体の概要(割合・性別・人種など)
2023年の「Studio Responsibility Index」では、対象となったハリウッドにおける映画の総数は「256」でした。2023年は業界内でストライキがあったので、公開映画数は少し減ってます。
ここからどれくらいのLGBTQ表象があるのかを集計しています。
2022年の映画「256」のうち、LGBTQのキャラクターが認められた作品の数は「70」、割合では「27.3%」でした。前年の「28.5%」と比べて減少しました。
2023年の映画では「Vito Russo Test」に合格した映画は全体の20%(LGBTQ映画100作のうちで71%)でした。
LGBTQキャラクター数は「170人」(前年は「292人」)。
このうち、95人(56%)が男性、67人(39%)が女性、8人(5%)がノンバイナリーでした。女性キャラクターのうち2人がトランスジェンダーでした。トランスのキャラクターは2023年は非常に少なかったとのこと(前年は13人でした)。やはり男性に偏っているのがわかります。
38作品(54%)にゲイ男性、22作品(31%)にレズビアン女性、19作品(27%)にバイセクシュアル+、2作品(3%)にトランスジェンダー、3作品(4%)にラベル特定できないクィアなキャラクターが含まれていました。前年よりはバイセクシュアルは増えましたが、女性やトランスの扱いは悪くなりました。アセクシュアルの明確な表象はひとつもありませんでした。アセクシュアル表象のハリウッド映画での少なさは常に改善されない課題です。
有色人種は78人(46%)。白人が88人(52%)に対して、黒人は29人(17%)、ラテン系は14人(8%)、API(Asian/Pacific Islander:アジア・太平洋諸島系)は14人(8%)、マルチレイシャルの人は17人(10%)、MENA(Middle East & North Africa:中東・北アフリカ地域)は4人(2%)、先住民はゼロでした。ハリウッド映画はアメリカに限らず世界中を舞台にすることも多いので、もっと白人以外の有色人種のLGBTQ表象があってもいいのですが…。
LGBTQキャラクターが登場するジャンルとしては、43%が「コメディ」、29%が「ドラマ」、29%が「ホラー」、15%が「アニメ(ファミリー)」、13%が「アクション/SF/ファンタジー」でした。大作化しやすい「アクション/SF/ファンタジー」で最も割合が少ないというのが、いかにも今のハリウッドの消極姿勢を物語っています。
2人(1%)のLGBTQキャラクターが何かしらの障害者であるとカウントされました。HIVとともに生きているキャラはゼロでした。障害者かつLGBTQであるキャラクターというのは滅多に描かれないということです。
スタジオごとの評価
次に映画スタジオごとの評価を見ていきましょう。
「GLAAD」の「Studio Responsibility Index」では、単純にLGBTQキャラクターが描かれていたかという有無だけではなく、その量や質、多様性なども評価項目として、映画スタジオに「Excellent」「Good」「Fair」「Insufficient」「Poor」「Failing」の6段階評価を与えています。
2023年の結果は以下のとおりです。
2023年は「Good」評価を得たスタジオは「Amazon」だけでした(相変わらず「Excellent」評価はひとつもないです)。
「Amazon」は『ボトムス 最底で最強?な私たち』、『カサンドロ リング上のドラァグクイーン』、『赤と白とロイヤルブルー』、『アメリカン・フィクション』など、2023年は主体的なクィア映画が充実しており、評価を後押ししました。『赤と白とロイヤルブルー』は続編も予定されており、好例となりそうです。ただし、これらの映画はとくに日本では全然劇場公開されておらず、Amazonプライムビデオでの配信扱いにとどまっています。そのため、目立っていません。
他のスタジオは全体的に前年よりも評価が下がったところが多いです。
ただ、2023年は賞レースに立った、ディズニーの『異人たち』、Netflixの『ラスティン: ワシントンの「あの日」を作った男』、『ニモーナ』などもありました。決してLGBTQ映画の影が薄かったわけではありません。
具体的な映画ごとの評価は「Studio Responsibility Index」内の各スタジオのページで確認できます。
2023年のレポートを振り返って…
この「GLAAD」の「Studio Responsibility Index」はあくまでアメリカのハリウッドにおける映画の状況を集計したものです。ドラマシリーズは含んでいません。
とはいえ、おおまかな現状を把握する資料にはなると思います。
世の中には「ハリウッドはLGBTQを無理やり登場させている! ポリコレの押し付けだ!」と騒ぎたてている人もいるのですが、このレポートを見れば全くそんなことはないことがわかります。むしろLGBTQ表象は年単位ではあまり改善できていません。2022年から2023年にかけては表現が悪化しているスタジオのほうが多いくらいなのです。
このレポートはクリエイターの皆さんにとってはLGBTQを作品で描く際の参考にもなるでしょう。「この性的マイノリティはあまり描かれることはないのか…。だったら登場させてみようか…」ときっかけにすることもできます。その際はぜひ、専門のレプリゼンテーション考証ができる人に相談をしてください。
このレポートを熟読することで、「どんなふうに表現をすればより豊かで魅力的な表象になるのか」という分析もできます。
多彩な表象が増えることを願っています。
以上、「GLAAD」の「Studio Responsibility Index」の概要のまとめでした。
私が独自に2023年のLGBTQ作品を振り返った記事も以下に紹介しておきます。