感想は2000作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

ディズニーアニメ映画ではどれくらいロマンス(恋愛)が描かれてきたのか【検証】

ディズニーアニメ映画の恋愛描写の推移
スポンサーリンク

ディズニー映画はロマンスが多いのか?

ディズニー・アニメーション映画は子どもにも大人にも大人気です。

そんなディズニー・アニメーション映画ですが、世間一般には「ロマンス」が特色として挙げられることが多いように感じます。ネットで検索してみても「ロマンチックなディスニーアニメのベスト10」だとか「最もロマンチックなディズニーアニメ映画のシーンをランク付け」だとか、そういう記事が頻繁に確認できます。

確かにディズニー作品でキャラクターがロマンチックな恋をしているシーンはすぐに思い浮かびます。定番と言えるでしょう。

でも実際のところ、ディズニー・アニメーション映画はロマンスが多いのでしょうか。

スポンサーリンク

調べてみました

ということで、調べてみました。

対象とするのは「ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ」が制作した「長編アニメーション映画」のみとします。なのでピクサーやディズニーの他のスタジオが制作した作品は含みません。ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオが制作した長編アニメーション映画とされている公開済みの作品は、2022年2月時点で60作品あります。

さすがに全ての登場キャラクターを細かく見ていられないので、とりあえず主人公キャラクターを中心に調べることにします。主人公キャラクターに関して作中でロマンス描写があるかどうかを以下のように評価しました。

◎:恋愛描写あり。恋愛が成就する
○:恋愛描写あり。恋愛は成就しない
△:恋愛かどうか判断しづらい
×:恋愛描写なし

なお、作品の多少のネタバレがあるので、そこは留意してください。

スポンサーリンク

各作品のロマンス描写検証

以下が作品ごとの検証の結果です。

『白雪姫』(1937年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「1」番目。主人公の白雪姫は14歳の少女。ラストの王子のキスで永遠の眠りから目覚めるシーンは有名。しかし、現在では未成年への性的暴力ではないか等いろいろ指摘され、ロマンチックな評価とはいかない反応も。王子に城に連れ帰られるので、おそらく恋愛関係に至ったと推察しておきます。

『ピノキオ』(1940年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「2」番目。主人公は命が宿った人形の男の子。そもそもまだ命を与えられたばかりで日常さえもおぼつかなく、良心を学んでいる最中。恋愛について考えるなんてまだまだ先の話かもしれないです。

『ファンタジア』(1940年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「3」番目。セリフ無しのかなり特殊な作品。主人公は一応、魔法使いの弟子であるミッキーマウスということにしておきます。ちなみにミッキーにはミニーマウスというガールフレンドのキャラクターが初期の『蒸気船ウィリー』の頃から登場済み。『ファンタジア』では恋愛描写はありません。

『ダンボ』(1941年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「4」番目。主人公はサーカスの象のダンボ。まだ赤ちゃんなのでさすがに恋愛描写はありません。ちなみに本作では動物の赤ちゃんはコウノトリが運んでくるという設定なので、出産の概念もありません。

『バンビ』(1942年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「5」番目。主人公は鹿の子であるバンビ。ファリーンという雌鹿と恋に落ち、最後には子どもも産まれます。登場する他の仲間の動物キャラにもそれぞれ恋のお相手が用意されています。全て異性愛カップルですが、フラワーというスカンクのキャラだけ雄ということになっていますが女性っぽい雰囲気を漂わせています。

『ラテン・アメリカの旅』(1942年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「6」番目。こちらも特殊な作品。オムニバスで、南米の観光ムービーのようになっています。恋愛らしい明確な描写はありません(そもそもストーリーらしいものが薄い)。

『三人の騎士』(1944年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「7」番目。『ラテン・アメリカの旅』と同系統の特殊な作品。オムニバス。作中のエピソードのひとつで、ドナルドダックがサンバを踊る女性にひとめ惚れしますが、恋愛としてのストーリーはないので評価対象外とします。

『メイク・マイン・ミュージック』(1946年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「8」番目。10個のエピソードからなるオムニバス。そのいくつかは恋愛を主軸にしたストーリーがあります(「The Martins and the Coys」「Johnnie Fedora and Alice Bluebonnet」)。

『ファン・アンド・ファンシー・フリー』(1947年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「9」番目。2つのエピソードからなり、そのひとつ「ボンゴ」では子熊のボンゴが雌の子熊のルルベルと恋に落ちます。

『メロディ・タイム』(1948年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「10」番目。7つのエピソードからなるオムニバス。その中には恋人カップルが登場する作品があります。

『イカボードとトード氏』(1949年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「11」番目。2つのエピソードからなるオムニバス。恋愛要素のあるストーリーがあります。

『シンデレラ』(1950年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「12」番目。主人公は継母にこき使われるシンデレラという若い女性。魔法でロマンチックなチャンスを得て、最後は王子と結婚して幸せに暮らします。いわゆる「シンデレラ・ストーリー」と呼ばれる象徴的な存在です。

『ふしぎの国のアリス』(1951年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「13」番目。主人公はアリス。とくに恋愛描写はありません。ちなみに原作のアリスのモデルになったとされるアリス・リデルは王子と恋愛関係にあったと言われています。

『ピーター・パン』(1953年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「14」番目。主人公はウェンディもしくはピーターパン。ウェンディがピーターパンに恋をしているかは不明(ティンカーベルには嫉妬されますが…)。ピーターパンは女心を理解できないキャラクターとなっており、恋愛描写はありません。

『わんわん物語』(1955年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「15」番目。主人公は犬のレディとトランプ。恋愛関係となり、夫婦となります。2匹がスパゲッティを食べている最中にキスしてしまう展開は、ディスニーでも屈指の人気のキスシーンです。

『眠れる森の美女』(1959年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「16」番目。主人公はオーロラ。キスをすることでオーロラにかかっていた魔法が解け、2人は結婚して幸せに暮らします。ちなみに実写映画『マレフィセント』ではこの展開にアレンジが加えられています(王子と結婚するのは同じ)。

『101匹わんちゃん』(1961年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「17」番目。犬のポンゴとパーディタ、そしてその2匹のそれぞれの飼い主であるロジャーとアニータは、序盤で恋をして夫婦となります。

『王様の剣』(1963年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「18」番目。主人公のワート(アーサー王)は11~12歳の少年。作中ではマーリンの魔法でリスに変えられた際に、野生の雌のリスに惚れられますが、好意を断っています。女性(リスだけど)をふるという、ディズニーにしては珍しい男性キャラクターです。

『ジャングル・ブック』(1967年)

ロマンス:△

長編アニメーション映画「19」番目。主人公は動物たちに育てられた少年のモーグリ。エンディングでシャンティという人間の女の子に惹かれ、人間の村に行きます。続編の『ジャングル・ブック2』でも2人は描かれますが、恋愛関係なのかはわかりません。

『おしゃれキャット』(1970年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「20」番目。主人公は猫の母と3人の子猫。母親である白い猫のダッチェスは、野良猫のトーマス・オマリーと愛を深める描写があり、最終的には義父のような立場で一緒に暮らします。

『ロビン・フッド』(1973年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「21」番目。主人公はキツネのロビン・フッド。最終的にはリチャード王の姪であるマリアン姫と結婚します。

『くまのプーさん 完全保存版』(1977年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「22」番目。ハチミツしか眼中にありません。

『ビアンカの大冒険』(1977年)

ロマンス:△

長編アニメーション映画「23」番目。主人公はネズミのビアンカとバーナード。少なくとも本作だけでは恋愛描写は明確には見られませんが、続編『ビアンカの大冒険 ゴールデン・イーグルを救え!』ではバーナードはビアンカにアプローチをします。

『きつねと猟犬』(1981年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「24」番目。主人公はキツネのトッドと猟犬のコッパー。野生に戻ったトッドはビクシーという雌のキツネと結ばれます。

『コルドロン』(1985年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「25」番目。主人公はターラン。冒険の途中で出会ったエロウィー姫に好意があるかのような描写があり、偶発的ですがキスシーンもあります。原作では2人は結婚します。

『オリビアちゃんの大冒険』(1986年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「26」番目。主人公はネズミの名探偵のバジル。とくに恋愛描写はありません。

『オリバー ニューヨーク子猫ものがたり』(1988年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「27」番目。主人公は子猫のオリバー、もしくは犬のドジャー。とくに恋愛描写はありません。

『リトル・マーメイド』(1989年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「28」番目。主人公は人魚のアリエル。ディズニープリンセスのひとりであり、ラストは王子と結ばれます。

『ビアンカの大冒険 ゴールデン・イーグルを救え!』(1990年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「29」番目。主人公はネズミのビアンカとバーナード。序盤からバーナードはビアンカにプロポーズしようとし、ラストでプロポーズに成功します。

『美女と野獣』(1991年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「30」番目。主人公はベル。ディズニープリンセスのひとりであり、ラストは野獣の王子と結ばれます。

『アラジン』(1992年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「31」番目。主人公はアラジン。ディズニープリンセスのひとりであるジャスミン王女と結ばれます。

『ライオン・キング』(1994年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「32」番目。主人公はライオンのシンバ。ナラと結ばれ、子どもが生まれます。

『ポカホンタス』(1995年)

ロマンス:○(異性愛)

長編アニメーション映画「33」番目。主人公はポカホンタス。ジョン・スミスと恋愛関係になるも、離れ離れになる道を選びます。なお、続編の『ポカホンタスII/イングランドへの旅立ち』ではポカホンタスは別の男性と恋愛関係になります。

『ノートルダムの鐘』(1996年)

ロマンス:○(異性愛)

長編アニメーション映画「34」番目。主人公はカジモド。エスメラルダに恋をしますが、エスメラルダは別の男性と結ばれます。

『ヘラクレス』(1997年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「35」番目。主人公はヘラクレス。メガラと恋愛関係になります。

『ムーラン』(1998年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「36」番目。主人公はファ・ムーラン。リー・シャンに惹かれていき、続編の『ムーランII』では結婚しますが、1作目ではそこまで恋愛描写は濃くありません。実写映画化された際は恋愛描写が無くなりました。

『ターザン』(1999年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「37」番目。主人公はターザン。ジェーンに惹かれ、2人はジャングルで暮らします。

『ファンタジア2000』(2000年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「38」番目。8つのエピソードからなるオムニバス。『ファンタジア』と同じく音楽を重視した特殊な作品。ストーリー性は薄く、恋愛描写はほぼありません。ドナルドダックとデイジーのカップルはでてくるけど…。

『ダイナソー』(2000年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「39」番目。主人公はイグアノドンのアラダー。同じくイグアノドンのニーラと恋に落ち、子どもが生まれます。

『ラマになった王様』(2000年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「40」番目。主人公は南米の王国の若き王様であるクスコ。恋愛描写はなく、かなりコメディ色が強いです。なお、続編のテレビシリーズ『ラマだった王様 学校へ行こう!』では多少の恋愛要素があります。

『アトランティス 失われた帝国』(2001年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「41」番目。主人公はマイロ・サッチ。恋愛描写は薄いですが、マイロはアトランティスの王女であるキーダと最後は結ばれます。

『リロ・アンド・スティッチ』(2002年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「42」番目。主人公はハワイに暮らす5歳の女の子のリロと、エイリアンのスティッチ。主人公に関しては恋愛描写はありません。リロの姉には薄めの恋愛描写があります。

『トレジャー・プラネット』(2002年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「43」番目。主人公は少年のジム。恋愛描写はありません。サイド・キャラクター(デルバート・ドップラー)の恋愛描写はあります。

『ブラザー・ベア』(2003年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「44」番目。主人公は熊に変身してしまうキナイ。恋愛描写はありません。続編の『ブラザー・ベア2』では恋愛描写はあります。

『ホーム・オン・ザ・レンジ にぎやか農場を救え!』(2004年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「45」番目。主人公は牛のマギー。恋愛描写はありません。

『チキン・リトル』(2005年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「46」番目。主人公はチキン・リトル。恋愛描写はかなり薄いのですが、最後はアビーという同級生とガールフレンドの関係になります。

『ルイスと未来泥棒』(2007年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「47」番目。主人公はルイス。恋愛描写はほとんどないのですが、将来の伴侶との出会いが描かれます。

『ボルト』(2008年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「48」番目。主人公は犬のボルト。恋愛描写はありません。

『プリンセスと魔法のキス』(2009年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「49」番目。主人公はティアナで、史上初の黒人のディズニープリンセス。カエルになった魔法を解くためにナヴィーン王子としかたなくキスをします。後に恋愛関係が芽生え、人間に戻って2人は結婚し、店を経営します。

『塔の上のラプンツェル』(2010年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「50」番目。主人公はラプンツェル。フリン・ライダーという泥棒の男と出会い、最終的に結婚します。

『くまのプーさん』(2011年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「51」番目。ハチミツしか眼中にありません。

『シュガー・ラッシュ』(2012年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「52」番目。主人公はラルフとヴァネロペ。恋愛描写はありません。仲間のフェリックスにはコテコテの(ギャグっぽい)ロマンス描写があります。

『アナと雪の女王』(2013年)

ロマンス:○

長編アニメーション映画「53」番目。主人公はエルサとアナ。エルサには恋愛描写はありません。アナは王子の求愛で幸せにならないというディズニープリンセスの歴史を変える展開となりました。クリストフに好かれていますが1作目では進展がありません。

『ベイマックス』(2014年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「54」番目。主人公はヒロ。恋愛描写はありません。なお、アニメシリーズ版では、カルミという女子学生がヒロのヒーロー姿に夢中になるなど(正体は知らない)、若干の恋愛を匂わせる描写があります。

『ズートピア』(2016年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「55」番目。主人公はウサギのジュディ。恋愛描写はありません。夢だった警察の仕事につき、キャリア一筋です。

『モアナと伝説の海』(2016年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「56」番目。主人公はモアナ。恋愛描写はありません。ロマンスが一切登場しない初のディズニープリンセス映画です。

『シュガー・ラッシュ オンライン』(2018年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「57」番目。主人公はラルフとヴァネロペ。恋愛描写はありません。14人のディズニープリンセスたちがゲスト出演し、プリセンス自己批判風刺が濃いです。

『アナと雪の女王2』(2019年)

ロマンス:◎(異性愛)

長編アニメーション映画「58」番目。主人公はエルサとアナ。エルサには恋愛描写は相変わらずありませんが、アナは“王子ではない”クリストフからプロポーズをされて結婚を受け入れます。

『ラーヤと龍の王国』(2021年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「59」番目。主人公のラーヤに恋愛描写はありません。なお、ラーヤを演じた“ケリー・マリー・トラン”はラーヤを同性愛者である(ナマーリにロマンチックな感情がある)というつもりで演じたと語っていますが、作中に明確な描写はないです。

『ミラベルと魔法だらけの家』(2021年)

ロマンス:×

長編アニメーション映画「60」番目。主人公のミラベルに恋愛描写はありません。なお、ミラベルの姉であるイサベラは婚約者がいましたが、本心ではその人に恋愛感情はないと告白し、婚約を解消します。

スポンサーリンク

結果:全体を視覚化

上記の「ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ」が制作した「長編アニメーション映画」を、「恋愛あり(◎と○)」と「恋愛なし(△と×)」として、恋愛描写の有無で2つに分けました。そして各年代ごとに整理し、恋愛描写のある作品の推移を棒グラフで視覚化しました。年代は「1930年代~1940年代」「1950年代~1960年代」「1970年代~1980年代」「1990年代」「2000年代」「2010年代」に分類しています。「1930年代~1940年代」「1950年代~1960年代」「1970年代~1980年代」だけ20年ごとにまとめたのは公開作品数が少なかったためです。

ディズニーアニメ映画の恋愛描写の推移

スポンサーリンク

総論(考察)

最初は意外にロマンスばかりではなかった

ディズニーの魔法の始まりと言える長編アニメーション映画第1弾となった『白雪姫』(1937年)がプリンセスと王子のキスによるハッピーエンドな恋の物語であったことから、もうこの歴史の原点からずっとディズニーはロマンス一色だったと思われがちですが、そうではありません。

1980年代までは主人公クラスの恋愛描写がある映画は全体の半分程度の割合でずっと推移していました。『白雪姫』の成功時、配給や投資家は同様の作風の作品を求めたらしいですが、ウォルト・ディズニーはそれを拒否したというエピソードもあります。おそらくウォルト・ディズニーとしては「プリンセスと王子のロマンス」ばかりにはしたくなかったのでしょう。戦時中の低迷期も挟みつつ、恋愛ありきではない個性豊かな作品も生み出されました。

ただ、ひとつ傾向として気になるのは、ウォルト・ディズニーも好きな「野生動物」を主役にした作品。野生動物を主役にするとほぼ必ず「恋」が描かれます。やはり動物はやがては伴侶を見い出して子を産むのが自然の摂理だ…という固定観念があったのではないかと思われ、恋愛を本能として描いている作品が目立ちます。

ディズニー・ルネサンス時代にロマンス一色に

ディズニーのロマンスとの関係が激変したのが1990年代です。正確には1989年公開の『リトル・マーメイド』以降、『ターザン』(1999年)まで10作品連続で主人公クラスの恋愛描写がある映画が連発し続けます。結果、1990年代は全てが恋愛描写ありの映画となる、ロマンス一色に染まるという事態になりました。

この時期は「ディズニー・ルネサンス」と呼ばれており、ディズニーが大きな商業的成功を収めた時代です。ディズニーの存在は映画業界でも無視できないものになりました。その成功を支えた要素のひとつが間違いなく恋愛でした。つまり、ディズニーは「ロマンスを売る」という方法を確立したと言えます。

当時はディズニーだけでなく実写映画においてもハリウッド全体がラブコメ作品を量産していました。ロマンスがヒットを生む商品になる時代でした。

つまり、この1990年代にディズニーは最もロマンスを鮮やかに売りさばいたヒットメイカーとなり、「ディズニー=ロマンス」というイメージが確立したのだと思われます。

ロマンスに頼らない新時代へ

ところがそのディズニー・ルネサンスは長続きしません。2000年代はピクサーの時代となり、ディズニーは再び低迷してしまいます。ディズニーは勢いが落ちると低予算で作れるカートゥーンのドタバタコメディに軸足を移す傾向があり、結果的に2000年代は恋愛描写のある作品の割合は80年代以前よりもグッと減ってしまいます。

しかし、2010年代。ディズニーのスタジオのトップがピクサーの主要クリエイターに交代して以降、かつての勢いが復活。しかも、ディズニー・ルネサンスを上回る全盛期を迎えました。

そしてここが面白いところですが、2010年代のディズニーはディズニー・ルネサンス以上の大ヒットを連発していますが、しかしながらロマンスには依存していないのです。恋愛描写のある映画は約40%。80年代以前よりも少ないです。これは明らかにディズニーがロマンスに頼らなくなっている(むしろ避けている)証左でしょう。

つまり、ロマンスが売り物にならなくなった時代において、新しいヒットの作り方をディズニーは見い出したということがわかります。それは何なのか。

ロマンスに代わる新しい魅力。そのひとつが「現代の多様な価値観を反映すること」。初期からウォルト・ディズニーはアメリカの子どもたち(主に白人層)に世界各国の雰囲気を届けようと精力的に異国を舞台にした作品を作り続け、一種の観光ムービーにもなっていました。2010年代のディズニーは単に世界中の文化を題材にするだけでなく、多様性を意識するようになりました。これによって作品の創作の幅が格段に上がりました。従来であったら「野生動物=恋をするのが本能」という固定観念がありましたが、『ズートピア』では野生動物を主体にしつつも恋愛なんて微塵も描かれません。

同時に『アナと雪の女王』『シュガー・ラッシュ オンライン』のようにこれまでのディズニーのお約束で、今やステレオタイプとなった「プリンセス」のイメージを覆したり、皮肉ありで風刺したりといった、そんな自己批判の描写もするようになりました。『モアナと伝説の海』のようにロマンスが一切登場しないプリンセスも描かれています。

また、ディズニーがロマンスに頼らなくなったもうひとつの理由として「ファンダム」が挙げられると思います。今のディズニーはファンダム…つまりファンのコミュニティの存在に支えられており、テーマパーク事業の成功もあって、ファンダムで儲けているようなものです。そしてファンダムは現代の多様な価値観を反映した物語を好み、刺激されて作品考察や二次創作などに繋げてくれます。要するに今のディズニーはロマンスよりも断然ファンダムに作品を届けることの方が売れるし、作品が長く愛されるということを実証して実感しているのでしょう。これはディズニーが権利を持つ「スター・ウォーズ」や「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」でも同様で、今のクリエイティブなビジネスのセオリーになってきています。

将来はどうなるのか

将来的にディズニーがどのようなクリエイティブの戦略をとるかはわかりませんが、2020年代は2010年代の成功を踏まえてそのセオリーをさらに強化してくると思われます。ロマンスは描かれたとしても、ワンパターンではない多様なロマンスをもっと描こうとするでしょう。

課題があるとすれば、性的指向の多様性を描けるのかという点です。ディズニーにて現時点の60作品で描かれたロマンスの全てが異性愛でした。同性愛や両性愛はありません。

変化の兆しはあります。『ラーヤと龍の王国』や『ミラベルと魔法だらけの家』といった2020年代の作品はクィアな要素を感じ取れるキャラクターがいくつも描かれ、多くのファンも喜んでいます。『ミラベルと魔法だらけの家』はかなりファンダムの考察が盛り上がっていました。ディズニーのクリエイター陣がどこまで意図しているかは不明ですが、おそらく多様な人間関係を描こうとすると必然的にクィアっぽくなってしまうのだと思いますが…。

以前に『子どもに見せたい「海外のクィア・アニメーション作品」を紹介』という記事の中でも言及したのですが、子ども向けのアニメはずっとLGBTQ描写をタブー視してきた歴史があり、最後の難攻不落の砦でした。しかし、その状況もいよいよ変化しつつあります。2010年代には海外のテレビアニメシリーズでLGBTQ描写が急激に増えつつあり、この流れがディズニーの長編アニメーション映画に波及するのも時間の問題なのでしょうか。差別主義者でもない限り、ファンがその表象を歓迎するのは目に見えているのですから。

問題はディズニーの保守的なトップ陣営の動向です。おそらくそうした企業を統治する保守的トップの意向と、クィアを応援したいクリエイターたちとの間でせめぎあいが起きているのが2020年代のディズニーなのでしょう(それはおそらくどの映画の大企業も同じだと思いますが)。

古臭いロマンスを卒業したディズニーがそれだけで終わるのか、さらなるステップを踏めるのか、その魔法の未来が気になるところです。

スポンサーリンク

オマケ:ディズニーアニメ映画の感想記事

・『ミラベルと魔法だらけの家』

・『ラーヤと龍の王国』

・『アナと雪の女王2』

・『モアナと伝説の海』

・『塔の上のラプンツェル』

・『プリンセスと魔法のキス』