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『ウエスト・サイド・ストーリー』感想(ネタバレ)…名作も古くなればリメイクも古くなる

ウエスト・サイド・ストーリー

名作も古くなればリメイクも古くなる…映画『ウエスト・サイド・ストーリー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:West Side Story
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2022年2月11日
監督:スティーブン・スピルバーグ
性暴力描写 恋愛描写

ウエスト・サイド・ストーリー

うえすとさいどすとーりー
ウエスト・サイド・ストーリー

『ウエスト・サイド・ストーリー』あらすじ

1950年代のニューヨーク。マンハッタンのウエスト・サイドには、夢や成功を求めて世界中から多くの移民が集まっていたが、そのチャンスを掴める者はごくわずか。差別や貧困に直面した若者たちは同胞の仲間と集団を作る。特にポーランド系移民の「ジェッツ」とプエルトリコ系移民の「シャークス」は激しく敵対していた。そんな中、ジェッツの元リーダーであるトニーは、シャークスのリーダーの妹マリアと運命的な恋に落ちる。

『ウエスト・サイド・ストーリー』感想(ネタバレなし)

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今度はあの名作をリメイク

映画史に残るような名作。そんな映画であっても今の時代感覚で観れば違和感や不快感、それどころか拒絶心さえ生じるような反応をもたらすものもあります。映画という代物はただでさえ時代を投影しやすいので、そのような鑑賞者が位置する時代を土台に評価が一転するのも珍しいことではありません。

例えば、1961年のミュージカル・ロマンス映画『ウエスト・サイド物語』もそのひとつでしょう。

この『ウエスト・サイド物語』はもともと2021年11月に亡くなったばかりの“スティーヴン・ソンドハイム”が作詞を担当したブロードウェイ・ミュージカル。それを映画化したのがこの1961年の一作でした。ポーランド系アメリカ人とプエルトリコ系アメリカ人の2つの少年ギャング・グループの抗争を描きつつ、主軸にあるのは「ロミオとジュリエット」的な男女の切ない恋のドラマです。公開当時は映画はとても高く評価され、アカデミー賞では作品賞を含むノミネートされた11部門中10部門を受賞するという大絶賛。ミュージカル映画の代表作として必ず名前が挙がる作品として今も語り継がれています。

ただ、今の価値観で見ると結構な問題を感じる描写も多い映画です。例えば、その筆頭として言えるのは主演女優のキャスティングでしょう。この映画のヒロインはプエルトリコ系のマリアという若い女性なのですが、1961年の映画でそれを演じたのは“ナタリー・ウッド”。彼女は白人(ロシア系)で、全くラテン系でもない。それをわざわざ少し褐色になるように化粧までして演じているのです。今こんなことをすれば非難轟々でデモが起きると思いますが、当時はこういうことも平然とできたんですね。

他にも問題点はいくつもあるのですが、とにかく「昔の名作」という下駄を履かせないとさすがに現代の批評眼を持つZ世代若者たちからはボコボコに嫌味を言われるのもやむを得ない中身ではあります。

そんな事情を抱えている名作映画を現代にリメイクするとしたら…やはり向き合わなければいけない論点はあるもので…。そんなこんなでついに登場しました、本作『ウエスト・サイド・ストーリー』です。

『ウエスト・サイド・ストーリー』は『ウエスト・サイド物語』のリメイクであり、その難しい挑戦に手を上げたのは誰であろう巨匠“スティーヴン・スピルバーグ”でした。スピルバーグ本人がやりたいと言ったら、それはもうハリウッドとしては止める理由もないでしょうね。

こうして本国では2021年に公開された『ウエスト・サイド・ストーリー』。もちろんながらしっかり前述した問題点に向き合っています。

何よりも主演女優ですね。今回のリメイクではラテン系の俳優である“レイチェル・ゼグラー”をキャスティング。本作が本格的な映画デビューであり、大抜擢です。今回のこのキャスティングを現代的なアップデートとは言いたくもないほどに元の映画はさすがに酷すぎたのですが、この“レイチェル・ゼグラー”を発掘したことが『ウエスト・サイド・ストーリー』の最大の功績だと言い切れるくらいに“レイチェル・ゼグラー”が輝きを放っています。彼女はすでにディズニーの実写版『白雪姫』でヒロインに起用が発表されているので、まさしくキャリア的にはシンデレラ・ストーリー状態。なんでも高校でミュージカルをやっていて、それ以外だとYouTubeで活動しているくらいで、普通に大学に進学しようと思っていた矢先の『ウエスト・サイド・ストーリー』への道に誘われたらしいです。そうか…現代社会のシンデレラの物語の始まりはYouTubeなんだな…。

そのラッキーな大ブレイク・チャンスをゲットした“レイチェル・ゼグラー”と共演したのは、『ベイビー・ドライバー』の“アンセル・エルゴート”、ドラマ『シュミガドーン!』の“アリアナ・デボーズ”、ドラマ『American Rust』の“デヴィッド・アルヴァレス”など。

そして元の映画でアニータというキャラクターを演じていた“リタ・モレノ”が今回のリメイクではバレンティーナという役で登場し、物語で重要な役割を担っています。“リタ・モレノ”は本作の製作総指揮も務めており、『ウエスト・サイド・ストーリー』のクリエイティブ面においてもキーパーソンです。

『ウエスト・サイド・ストーリー』が元の映画と他にどう変わったのかについては後半の感想で。でも基本的なストーリーラインは同じです(なので元映画を知らない人は、検索とかすると話のオチが結構普通に目にできるので注意してくださいね)。

後半の感想では私なりの意見として『ウエスト・サイド・ストーリー』の“それでもまだ古いところ”など新たな批判も添えつつ書いています。

オススメ度のチェック

ひとり3.5:ミュージカル映画好きなら
友人3.5:シネフィル同士で
恋人3.5:切ないロマンスが好みなら
キッズ3.0:わりと大人向けの演出
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『ウエスト・サイド・ストーリー』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ウエスト・サイド・ストーリー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):2人は出会う

1957年。ニューヨークのウエスト・サイド。今はこの街並みが姿を変えようとしていました。古い建物は次々と取り壊され、リンカーン・センターという芸術施設の拠点へとリニューアルする計画をもとに開発が進んでいたのです。

解体工事される崩れた建物が広がる一帯。解体用鉄球の真下。地面から若い男がひょっこりと出てきます。その男たちは初めは5人でしたが、口笛を吹けば街中から男たちが集まってきて、気が付けば大所帯です。彼らはヨーロッパ系移民の少年グループである「ジェッツ」の集団。

「ジェッツ」の男たちは、解体現場から盗ってきたペンキ缶で壁に落書きをしだします。その壁にはもともとプエルトリコ国旗が描かれていました。

そこへ現れたのは、別の男たちの集団。プエルトリコ系移民で構成された「シャークス」のグループです。この2つの集団は常に対立しており、今回も挑発行動をきっかけに乱闘に発展。殴る、蹴る、叩きつける…あたりは砂埃にまみれ、騒がしくなります。

警官が到着し、両者を叱りつけます。それでも「ジェッツ」と「シャークス」の互いへの憎しみは収まりそうにありません。

「ジェッツ」のリーダーであったリフはかつての元リーダーのトニーに接触し、助けを求めます。実はトニーはしばらく服役して出所したばかり。今はバレンティーナが店主をするドラッグストアの店員として人生を取り戻そうとしていました。なのでリフに協力はできません。

一方、別の場所。プエルトリコ系の家庭に生まれたマリアは家のベッドで気持ちと向き合っていました。今夜はダンスパーティーがあり、婚約を決めているチノと行かないといけません。でもマリアはそういう気分になれません。親友のアニータは恋人で「シャークス」のリーダーでもある、そしてマリアの兄でもあるベルナルドと楽しそうですが、マリアは白いドレスで気分を切り替えようとします。

ダンスパーティー会場は華やかでした。しかし、そこでも「ジェッツ」と「シャークス」の面々で一触即発に。

そんな中、マリアはトニーの視線に気づき、2人とも吸い寄せられるように相手に見惚れ、ステージの裏に対面。キスをします。

しかし、その関係を周囲が許すはずもありません。「ジェッツ」と「シャークス」の衝突は激化の一途をたどっているのです。

それでもマリアを忘れられないトニー。夜、マリアの家に向かい、アパートの非常階段でロマンチックな時間を一瞬だけ共有します。

その幸せな気持ちでベッドについたマリア。翌朝もその幸せを忘れられず、トニーとの仲は深まります。トニーも自分の暴力に染まった過去を打ち明け、マリアとの未来を希望にしていました。

しかし、そんな人種の異なる2人の融和も「ジェッツ」と「シャークス」の対立に飲み込まれていくことになります。そして取り返しのつかない事件が起きてしまい、2人の愛に絶体絶命の危機が訪れ…。

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ラテン系の色が本物らしくなって…

『ウエスト・サイド・ストーリー』は全体的に“スティーヴン・スピルバーグ”監督らしい演出の詰め合わせであり、やはり光と影を使った構成を見せるのが上手い上手い。ここまで威風堂々としたミュージカル映画を撮れるのはスピルバーグならではでしょう。

元の映画から変わったこととしては、曲の順番などが入れ替わっていたりするのですが、最も大きい変化はラテン系の描写の強化です。

主演の“レイチェル・ゼグラー”もそうですが、友人のアニータを演じる“アリアナ・デボーズ”はアフロ・ラティーナにしたりと、同じラテン系内でも肌色のバランスが揃っています。今回のアニータは、白いドレスでいかにもプリンセス感のあるマリアと対比され、黄色いドレスで情熱的に踊りまくっており、存在が活き活きしているのも良かったところです。

スペイン語も原語そのままで登場するという、今のハリウッドでは定番の描写もたっぷり挿入され、本作がラテン系の物語として堂々と言い切れるものになろうという気合いを感じます。肌の色が濃いダーク・スキンは「prieta」、肌の色が薄いのは「jincho」とか、だんだんラテン系の表現を私も覚えてきた気がする…。カラリズムもそうですが、こういうスラングまでちゃんと映画内にでてきて文化に触れられるのは大切ですね。

とはいえ、本作にも人種的批判はあって、主演の“レイチェル・ゼグラー”はラテン系であってもプエルトリコ系ではなくてコロンビア系なんですね。そこもきっちりしていれば理想だったのですが…。

そして『ウエスト・サイド・ストーリー』を支えるのはやはりバレンティーナを演じた“リタ・モレノ”。本作の良心とも言える存在であり、メタ的な意味でも彼女あってこその本作の安定感ではないでしょうか。

なお、チノも今作ではわりと愛嬌がある感じで描かれていて個人的には気に入ったのですが、やっぱり今作でも「トニーを撃ち殺す役」でしたね(そうならなければいいなと思いながら観てた)。

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クラシカルなロマンスすぎる気も…

褒めたい部分もたくさんある『ウエスト・サイド・ストーリー』ですが、個人的にはあんまりかなと思う側面もあって…。

まず全体を振り返っても、昔ながらのクラシックなディズニープリンセスのストーリーを見ているかのような感覚は否めません。そのため、ロマンスの構造をとってしてもなんだか古さを感じるなとは思います。

マリアがトニーという理想の男性と運命的に出会い(本当にひとめ惚れなので熟考する時間はない)、そこに当然の幸せがあるという作品の根底にある価値観は、なかなかに恋愛伴侶規範的ですし…。だったらまだ同じラテン系のミュージカル映画であっても『イン・ザ・ハイツ』の方が規範から少し外れてはいたと思うわけで…。

“スティーヴン・スピルバーグ”監督は恋愛描写は苦手なんだろなと以前から思ってはいましたけど、人種には配慮が利いても恋愛はそっくりそのままいってしまうあたり、恋愛は人種以上に人の認識を硬直化させるものなのかもですね。

そういえば、本作にはクィア表象もあり、トランスジェンダーのキャラクターが脇役ですが登場します。

ただ、これもどうなのかなというモヤモヤも…。“アイリス・メナス”というノンバイナリーの俳優が演じているのですけど、そもそもこの『ウエスト・サイド・ストーリー』の世界観は「男のグループ」と「女のグループ」に分かれるというバイナリー規範が濃い内容なわけです。そこにトランスジェンダーのキャラクターがいるのもわかるのですが、演じているのがノンバイナリーの俳優ということもあって、ノンバイナリーの不可視化が虚しく響くような気分にも…。“スティーヴン・スピルバーグ”監督は『レディ・プレイヤー1』もそうでしたが、あんまりジェンダー・ノンコンフォーミングな存在を描くのは得意ではないな…と。

トニーとリフのクィアを匂わせるブロマンスもこういう大作ではこれが限界なのかな…。

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こんなリメイクではすぐに古くなる

そしてこれについても言及はしないといけません。『ウエスト・サイド・ストーリー』で主演を務めるトニーを演じた“アンセル・エルゴート”の性暴力告発の一件。“アンセル・エルゴート”に以前に性的加害行為をされたと女性が訴えたのは2020年6月のこと。“アンセル・エルゴート”が合意の関係だったと主張していますが、その後はメディアで注目を浴びるような場を絶妙に避けており、積極的に質問に答えようとしていません。

でもこの姿勢はやはり問題です。ましてや『ウエスト・サイド・ストーリー』は性暴力を描く作品でもあるのですから。これに対して“アンセル・エルゴート”本人はいくらでも追及されるべきですし、映画の製作陣もそれを回避しようと動くべきではないと思います。

“リタ・モレノ”は元の映画でも同じシーンを演じたわけですが、そのときも撮影中は心理的にショックを受けていたとインタビューでは語っています(ちなみに今作のリメイク版ではインティマシー・コーディネーターがついています)。“リタ・モレノ”のせっかくの起用もこれではうわべだけで終わってしまいかねませんし、実際に起きている事件に対してもっと真摯になってほしいです。

『ウエスト・サイド・ストーリー』はリメイクとは言え、クラシカルなミュージカル映画の体裁を保っています。しかし、古臭い体質を保つ必要なんて微塵もありません。そんな映画を若者は支持しないでしょう。リメイクなのに「古い映画だね」って言われてしまいますよ。

そういえば、最近はこっちもラテン系主体である『ミラベルと魔法だらけの家』の楽曲がアメリカで『アナと雪の女王』の「Let it Go」超えの大ヒットを記録しており、その背景にはTikTokのバイラルがあるという分析を見ました。そちらの作品は古い体質を見直しましょうというストーリーでした。

今の若者が求めるのはそういうストーリーであり、『ウエスト・サイド・ストーリー』ももっと大胆に脚本と製作者自身を改善するべきだったかもしれません。

『ウエスト・サイド・ストーリー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 92% Audience 94%
IMDb
7.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved. ウエストサイドストーリー

以上、『ウエスト・サイド・ストーリー』の感想でした。

West Side Story (2021) [Japanese Review] 『ウエスト・サイド・ストーリー』考察・評価レビュー