でも本当に見たかったものはそこじゃない…Netflix映画『ハート・オブ・ストーン』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本では劇場未公開:2023年にNetflixで配信
監督:トム・ハーパー
ハート・オブ・ストーン
はーとおぶすとーん
『ハート・オブ・ストーン』あらすじ
『ハート・オブ・ストーン』感想(ネタバレなし)
Netflixはこんな映画をあといくつ作るのか…
動画配信サービスの大手にして開拓者であった「Netflix」は、近年本格化した動画配信サービス競争でぶっちぎりの1等賞…というわけにはいかず、やはりじわじわと疲弊を隠せなくなってきています。
同一世帯ではないアカウント共有の取り締まりを厳格化し、確実に収益を確保する措置を強化したり、はたまたアメリカでは「ベーシックプラン」の廃止にも手をつけました(日本でもベーシックプランは全然表にアピールしていないのでいずれ廃止する可能性が高そうです)。
今まではコンテンツを増やしてオリジナリティをだすことに精力を注いできましたが、今後の動画配信サービスはいかにして最大に儲けを増やすかという、そんな収益最優先ステージに突入したのだと思われます。
そんな中、Netflixがあからさまに「売れる作品」とみなして注力しているのが「ハリウッドスターを起用したアクション大作映画」。これには以下のような特徴があります。
まず中心にハリウッドスターがいるものの、共演陣は国際色豊か。なぜならそのほうが世界展開する動画配信サービスとして各国の市場に売り込みやすいからです。
そしてそんな国際色豊かな俳優陣を自然に出演させるなら、やはりグローバルに展開するスパイ・アクションがちょうどいいジャンルで、パターン化しやすいです。
最近なにかと量産されている「ハリウッドスターを起用した国際スケールのアクション映画」の一例としては、『6アンダーグラウンド』(2019年)、『タイラー・レイク 命の奪還』(2020年)、『オールド・ガード』(2020年)、『グレイマン』(2022年)などなど。
いずれもかなり予算がかかっているはずですが、視聴者数も話題性も良いのでNetflixは今後も定期的に作り続けるでしょう。
そして2023年もNetflixはそんなジャンル映画をまたひとつ追加させてきました。
それが本作『ハート・オブ・ストーン』です。
この本作を中央で引っ張るハリウッドスターは“ガル・ガドッド”。『ワンダーウーマン』での大ブレイク以降、すっかり人気俳優の仲間入りで、Netflixでは以前は『レッド・ノーティス』(2021年)という大作に出演していましたが、今回は単独主演作として製作にも関与しながら勇ましく大活躍です。
“ガル・ガドッド”自身もイスラエル出身ですが、共演の顔触れもやはりセオリーどおり比較的国際色多め。とくに『RRR』や『ブラフマーストラ』でも大注目のインド系イギリス人“アーリヤー・バット”が重要なキャラクターとして物語を盛り上げます。
他には、『ナイル殺人事件』のナイジェリア系の“ソフィー・オコネドー”、『SAS: 反逆のブラックスワン』の中国系の“ジン・ルージ”、『ベルファスト』の北アイルランド人の“ジェイミー・ドーナン”、『アーミー・オブ・シーブズ』のドイツ人の“マティアス・シュヴァイクホファー”など。
『ハート・オブ・ストーン』を監督するのは、『ワイルド・ローズ』や『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』の“トム・ハーパー”です。
原作の無いオリジナル映画ですが、『オールド・ガード』の“グレッグ・ルッカ”が脚本に関わっているので全体的にはアメコミっぽいですね。また、脚本には『プーと大人になった僕』の“アリソン・シュローダー”も名を連ねています。
物語の世界観は…まあ、いつものやつです。世界で諜報する組織があって、陰謀が蠢いて、そして翻弄されながら自分の信じる道を進む。そんなどこかで何度も見たスパイ・アクション。単純明快で複雑さはそれほどないです。
『ハート・オブ・ストーン』はNetflixで独占配信ですので、暑さで疲れて頭が働かないという人も、ボーっと気ままに鑑賞すればいいのではないでしょうか。
『ハート・オブ・ストーン』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2023年8月11日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :俳優ファンなら |
友人 | :気楽にエンタメを |
恋人 | :恋愛要素は無し |
キッズ | :人はそれなりに死ぬけど |
『ハート・オブ・ストーン』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):ハートはそこにいる
アルプス山脈のイタリア方面。観光客で賑わう山のスキーロッジ。新米のレイチェル・ストーンはパーカーといった他のMI6チームのエージェントと共に密かに任務にあたっていました。ターゲットは武器商人のマルバニー。ヘリで到着し、久しぶりに表の世界に顔をみせたこのときは最大のチャンスでした。
レイチェルは車内から情報にアクセスしようとしますが、遮断されます。バーにいる警備長のスマホに近づいてハッキングする必要が発生。現場諜報員ではないですが、やむを得ずレイチェルはベイリーを車内に残して、自分も向かいます。
カジノに入り、普通にブラックジャックを楽しむ初心者のふりをしながら、警備長に急接近。なんとか穏便に成功させ、残りのエージェントはその場を一同は去ることにします。
パーカーとヤンは入手した情報で極秘の賭博エリアに立ち入ります。ネイビーシールズの映像を余興のように流しながら、何やら楽しんでおり、軍の情報に手を出せる仕組みが裏にあるようです。
マルバニーに注射して心臓発作を装う当初の計画はボディーガードによって阻止され、乱闘になります。逃げたターゲットを追跡。
しかし、MI6の通信が何者かに逆にハックされ、女性の声が聞こえてきます。その相手は全てを予期していたようでした。
パーカーはひとりでケーブルカーにターゲットを押し込みます。ベイリーとヤンは足を挫いたレイチェルを置いて先に車でパーカーのもとへ。
ところがレイチェルはすぐに立ち上がり、別の通信を行います。通信相手は「ハートの分析によればパーカーは高確率で死ぬ」と推測を伝えます。そして導き出された移動ルートを提案。
それに従い、迷うことなくレイチェルは雪の急斜面をパラシュートで滑空。暗闇の森を低空で飛び、ケーブルに引っかかります。「成功率は低下」と通信相手は随時報告。機転を利かせてそのケーブルを高速で滑り降りていきます。そしてスノーバイクを奪い、追跡を続行。
パーカーは狙撃されそうです。そのスナイパーめがけてバイクで体当たりし、武装した集団に単身で立ち向かいます。見事な体技で全滅させた後、レイチェルはその場から消えます。
ケーブルカー内で乱闘があった様子ですがパーカーは生存。ヤンたちと無事に合流。レイチェルはその様子を陰から窺います。しかし、どうやらマルバニーは青酸カリで命を絶ったようです。
ロンドンの本部に戻ると、上司から任務失敗を叱責されます。対象が死んでしまった以上、次のミッションで挽回するしかありません。
ひと息つくチームはその後に食事がてら気楽に会話を楽しみますが、そこであの正体不明の通信割り込み女は何者なのかという話に。ベイリーは秘密裏に存在している諜報機関の「チャーター」に関する人物ではないかと勘繰ります。でもそれは実在するのかも怪しい組織でした。
まさかこのレイチェルがその組織の一員とは知らずに…。
カードゲームは手札で勝敗が決まる
ここから『ハート・オブ・ストーン』のネタバレありの感想本文です。
この手のジャンルでは、たいていは独自の秘密諜報組織が登場するもの。そして独自の組織体制やテクノロジーがあったりして、諜報を有利に進めています。ドラマ『シタデル』だったら記憶絡みだとか…。
『ハート・オブ・ストーン』の組織「チャーター」は、序盤のカジノでレイチェル・ストーンがブラックジャックで溶け込むあたりでも示唆されますけど、カードのトランプから着想を得たようなエージェント・コードネームになっています。
「ダイヤ」「クローバー」「クラブ」「ハート」のチームがあり、レイチェルは「ハート」に所属。さらにエージェントごとに数字が割り振られ、レイチェルは「ハートの9」と呼ばれていました。それぞれのチームにはトップがおり、「キング」と呼称されているようです。
キングには“グレン・クローズ”なんて大物俳優もキャスティングされていましたね。
なお、「charter」の語源はラテン語で「紙」を意味するとのこと。
そして「ハート」のチームが大きく依存しているのが「ハート」と呼ばれる超高性能量子コンピューター。序盤でもレイチェルをデジタルな演出でサポートしていましたが、相当に優れている様子。
この超高性能量子コンピューター「ハート」をめぐって、ついに本性を現したパーカーと、そのパーカー側についている“アーリヤー・バット”演じる若いハッカーのケヤ・ダワンが、チャーターをまんまと出し抜いてきます。
本作のチャーター、基本的に良いとこゼロですよね。陰惨な殺戮の隠蔽と、それでいてかなり脆弱なセキュリティの甘さを露呈するだけだし…。あの飛行艇もいくら空にあろうともあっさり潜入しやすいだろうに…。こういう超高性能コンピューター頼りな組織はだいたいこんなものですが…。
「ハートの持ち主が世界を制する」という言葉どおり、この映画全体の駆け引きがトランプのカードゲームと重なるようになっており、レイチェルはときに仲間を一瞬で奪われ、ある人には裏切られ、そして新しい仲間を加えつつ、自分に有利になる手札を揃えて、パーカーに打ち勝とうとします。
『ハート・オブ・ストーン』の中では、レイチェルのバックグラウンドはほんのり匂わせる程度でほぼ語られず、今回は組織紹介をした感じで終わっています。
レイチェルとしては、ケヤとジャックを揃えて自分の手札でチームを組んだので、ここからが真剣勝負という大舞台になるのかな。
見たかったのはこういう関係性だったのに…
その『ハート・オブ・ストーン』ですが、全体としては既視感が多かったのがやや残念です。
オープニングクレジットまでの序盤20分はこここそが一番面白いところかもしれません。“ガル・ガドッド”の雪山爽快下山(マネはできない)。
ただここの「実はレイチェルはめちゃくちゃアクションできる人だったんです!」みたいな展開は全然意外性もないので(宣伝でわかるというのと、“ガル・ガドッド”であるという時点でそんなに驚きも今やない)、インパクトとしては弱いですよね。
そして次に「パーカーは実は敵だったんです!」というサプライズがあるのですが、ここもパーカーを“ジェイミー・ドーナン”が演じている時点で「こいつが悪者です」という匂いがプンプンしていますから、この展開もさほど驚きもない…。
ことごとく新鮮味の薄いアクションが連続するだけです。アクションそのものもそんなに変わり映えのない、どこかで見たやつばかりで…。今回はカーチェイスのコースにはリスボンが選ばれていましたが…。
そして超高性能なテクノロジーを手中におさめようとする集団同士の駆け引きと言えば、ついこの間も『ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE』で見たので、見飽きているというのもこの『ハート・オブ・ストーン』の鮮度の薄さにマイナスになっているのかも…。
個人的には、“ガル・ガドッド”演じるレイチェルと、“アーリヤー・バット”演じるケヤの、クールな姐御と利かん坊な若い年下女性との、凸凹しながら築き上げられていくシスターフッドが見たかったのですが、そういう構築が楽しめる感じのジャンルを提供していないのが、この映画の最大の欠点でした。ここが上手くいっていれば、本作の評価は格段に上がったかもしれないのに…。
砂漠に不時着してからはそういう流れになってくれるのかなとかなり期待したんですけどね…。
絶対に最高だと思うんだけどな…“ガル・ガドッド”に振り回される女の子になりたいと思っている女はそう少なくもないだろうに…。もしくは“ガル・ガドッド”を無茶ぶりで振り回したい女子…。
“ガル・ガドッド”は38歳で、“アーリヤー・バット”は30歳なら、ちょうどいい年齢差だと思うんですよ(あまり片方が若すぎると、さすがにそれだけでパワハラ感がでるのでちょっとね…)。
そして“ガル・ガドッド”と“アーリヤー・バット”が互いをボロクソに貶し合いながらも、なんだかんだで息の合ったコンビネーションを披露し、最後はハートの超高性能だか何だか知らないコンピューターなんてぶっ壊す…そういう快感が欲しかった…。
ふ~…いまいちな脚本の作品を観てしまうと、自分で妄想してストーリーを勝手に膨らませてしまう癖がまたでてしまった…。
ということで『ハート・オブ・ストーン』、次回作があるならそれでいってください。カードの配り直しです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 30% Audience 62%
IMDb
5.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix ハートオブストーン
以上、『ハート・オブ・ストーン』の感想でした。
Heart of Stone (2023) [Japanese Review] 『ハート・オブ・ストーン』考察・評価レビュー