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『ドリーム・シナリオ』感想(ネタバレ)…中高年男性は承認欲求の夢を見続ける

そしてみんなそれを消費する…映画『ドリーム・シナリオ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Dream Scenario
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2024年11月22日
監督:クリストファー・ボルグリ
性描写
ドリーム・シナリオ

どりーむしなりお
ドリーム・シナリオ

『ドリーム・シナリオ』物語 簡単紹介

大学教授であること以外はこれと言って語るべきこともない平凡なポール・マシューズという男は、妻や娘たちに囲まれて普通の生活を送っていた。思春期の娘や年齢のかけ離れている学生たちと話が合うようなこともない。ところが、ある日、何百万人もの夢の中にポールが一斉に現れるという奇妙な現象が起きていることを知る。そして彼は一躍有名人となり、みんなから声をかけられるが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ドリーム・シナリオ』の感想です。

『ドリーム・シナリオ』感想(ネタバレなし)

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ニコラス・ケイジが夢で大安売り

直前で寝ていたときのを覚えていますか?

人はひと晩で3~6回の夢をみるそうで、夢は5分から20分程度の持続があるそうです。しかし、起きると夢の約95%は忘れてしまいます。だから夢を覚えていなくても大丈夫。むしろ覚えているほうが珍しいです。大部分を忘れてしまうので「こうだったかな?」と補完して思い浮かべ直すしかないです。

研究によると、夢に登場したキャラクターの約48%は、その夢をみている人の知っている名前のついた存在で、未知の存在は約16%だったとのことMedical News Today。見知らぬ存在が夢にでてくるなんて驚きですが、案外とそれはあり得ることなんですね。

夢はなぜみるのか、その理由は科学的にはよくわかっておらず、諸説あります。私たちの脳はまだまだ謎でいっぱいです。

私なんか映画をたくさん観ているから、きっと私の夢も映画の影響をガンガンに受けた内容になっているんじゃないかと思うのですけど、とくにハリウッド俳優が登場したりしたことはない…気がする…。これも覚えてないだけで、実はものすごい夢の共演とかしてるのだろうか…。

今回紹介する映画は、夢に“ニコラス・ケイジ”がでてきます。

いや、正確には“ニコラス・ケイジ”演じる映画内のキャラクターが登場するのですが、私たちには“ニコラス・ケイジ”がでてくるも同じ。

それが本作『ドリーム・シナリオ』です。

先ほども説明したとおり、本作には“ニコラス・ケイジ”演じる主人公の平凡な男が夢に登場するという物語なのですが、不思議なことに世界中の大勢の夢にその同じ男が登場して騒ぎになっていくという…ミステリアスでシュールなダークコメディとなっています。

“ニコラス・ケイジ”というと近年もやたらとたくさん映画に出演しまくっており(『ザ・フラッシュ』ではカメオ出演もしたし)、引退する気配は微塵もないのですけども、このまま生涯現役コースかな…。

その中でも2022年に『マッシブ・タレント』という“ニコラス・ケイジ”がほぼ“ニコラス・ケイジ”本人役で出演して話題となった映画がありましたが、『ドリーム・シナリオ』もそれに近いメタな構造を持った作品です。

『ドリーム・シナリオ』は本人役ででているわけではないですが、「ニコラス・ケイジ演じる男がみんなの夢にでてくる」というシチュエーション自体が、もう知名度が抜群に高くて散々ネタにもされてきた“ニコラス・ケイジ”という存在を象徴していますし…。この映画は“ニコラス・ケイジ”にしか任せられない作品ですよ。

この一風変わった『ドリーム・シナリオ』を生み出したのが、ノルウェー人の”クリストファー・ボルグリ”。2017年の『DRIB』で長編映画監督デビューした新鋭で、そちらはフィクションを織り交ぜたヘンテコなドキュメンタリーでした。2022年には監督2作目となる『シック・オブ・マイセルフ』を手がけ、それも不条理なブラックユーモアがキレキレにぶちかまされていました。

『ドリーム・シナリオ』は監督3作目となりますが、今回はあろうことかあの『ミッド・サマー』でおなじみの悪趣味大好きな“アリ・アスター”を製作に加えて手を組んだので大変です。“ニコラス・ケイジ”も製作に混ざっているので、なんかヤバい3人が結集した感じになっちゃいました。

“ニコラス・ケイジ”主演作の『アダプテーション』(2002年)に似た空気もある『ドリーム・シナリオ』ですが、風刺されるのは“ニコラス・ケイジ”だけではありません。

承認欲求の渇望に溺れる中高年男性のマスキュリニティから、バズることが全ての大衆文化の移ろいやすさ、はたまた金儲けのためなら何でもありの商業主義の浅はかさまで、風刺の射程は広いです。

新たな“ニコラス・ケイジ”自己批評の決定版(ただし自虐バージョン)となった『ドリーム・シナリオ』で、“ニコラス・ケイジ”をもっと忘れられない存在にしましょう。夢にでてきても責任は負えません!

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『ドリーム・シナリオ』を観る前のQ&A

✔『ドリーム・シナリオ』の見どころ
★ニコラス・ケイジの手慣れた自虐演技。
★ダークユーモアたっぷりの社会風刺。
✔『ドリーム・シナリオ』の欠点
☆尖った風刺センスなので合う合わないは個人差あり。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:風刺を満喫して
友人 3.5:俳優ファン同士で
恋人 3.5:変な映画だけど
キッズ 3.0:やや暴力描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ドリーム・シナリオ』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

10代の少女のソフィーは庭先のプール傍の椅子で座っていて、いきなりテーブルのガラスが割れて驚きます。その近くでは落葉を掃いている頭髪の薄い中高年の男がひとりいましたが、こちらをそれほど気にもしていません。よく見ると足元に鍵が落ちています。さらに上から何か落ちてきて、ソフィーの身体が宙に浮き…。

それがソフィーのみた夢でした。その話を朝食のときに家族にします。夢の中で箒を持っていたのは父のポール・マシューズでした。普段は大学で進化生物学の教授をしています。すっかり大人びた長女ハンナには避けられている平凡な父親でもあります。

その夢の話を聞いて「なぜ私はいつも立っているだけなんだ?」とポールは疑問を口にします。しかし、夢なので文句を言ってもしょうがないです。

いつものように講義をこなし、レストランに行くと、受付の人が自分を知っているかのように困惑している姿がありました。本人は何か勘違いのデジャヴだと納得したようですが…。

緊張しながら店で会ったのはかつての同僚の女性です。研究上で少し関係にヒビがあったのですが、自分よりもキャリアが充実していそうな相手を前にポールが図々しくでれるには限界がありました。会話を録音したのを車内で聞き直して、八方塞がりで困り果てます。

それから妻のジャネットと劇を観た後、帰り際に元恋人クレアと再会します。クレアはジャーナリストをしています。

そしてクレアは自分の夢にポールがでてくると唐突に告げてきます。それはロマンチックでもない、妙に不気味な登場らしいですが…。クレアはそれを記事にしたいらしく、連絡先を聞いてきます。

帰宅後は妻はやや不機嫌です。あんな元恋人との再会を目の前でみせられては良い気分になるわけもありません。ポールは妻をなだめます。

一方で懲りずにクレアとまた出会ったポールは、記事にする提案を快く許可します。元恋人とは言え、こうやって自分に触れてくれるのは悪い気がしません。

ところがポールの写真がネットにあがると予想外の反応が巻き起こります。大勢の人が自分の夢にポールがでてきたと言うのです。見知らぬ世界中の人たちがみんなポールの顔に言及し、「この人を知っている」というものだから、ポールも困惑。そんなことはあり得ないと思っても、今や世界のあちこちにそれを証言する人たちがいます。

一気に今最も話題の人物となり、テレビでも取り上げられ、何もしていないのに世界的な大スターのような扱いになってしまいました

世間の自分への扱いの変化に戸惑いながら、ポールは高揚感を抑えられません。こんなに注目されるなんて今までなかったのです。

しかし、全てが順調というわけにはいかず…。

この『ドリーム・シナリオ』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/11/23に更新されています。
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バズりたいオッサンの夢の実現

ここから『ドリーム・シナリオ』のネタバレありの感想本文です。

『ドリーム・シナリオ』の「赤の他人の大勢の夢の中に共通のひとりの実在人物が登場して有名になってしまう」という設定は、それだけ聞けば「なんだそれ?」という荒唐無稽なものですが、それ自体のシチュエーションは現代のインターネット文化におけるバズるという現象とそう変わりません。そういう意味ではこの映画はとても現代らしい世相の風刺です。

ただ、『#スージー・サーチ』のようにSNS文化にどっぷり浸かっている若者が風刺対象になることが多い中、この『ドリーム・シナリオ』はあえて中高年男性に焦点をあてています。そこが面白さになっていました。

現実でも中高年男性がバズるということはあると思いますし、それこそセレブや政治家、インフルエンサーなど何でもいいですけど、俗にいう「おっさん」コンテンツは一定の需要がありますから、それを利用する輩はいくらでもいます。

しかし、この『ドリーム・シナリオ』の主人公であるポールという男は本当に何の変哲もないです。権力もないし、アカデミックに属するといっても学術的なカリスマ性も光らないし、笑えるジョークひとつすら言えません。バズる要素は皆無なのです。

でもやっぱりそんな奴でも承認欲求というのは一丁前に持っています。としてとしてとして研究者として教師として…他者にチヤホヤされたいというみみっちい願望。

作中ではそのポールのどうしようもない人間臭さみたいなのが冒頭から情けなくこぼれでていて良いですね。“ニコラス・ケイジ”の演技と合わせて格別になっている…。

それが例の現象でまさかの実現を果たします。夢の中のポールはとにかく棒立ちか退屈な動作してるか程度で受動的かつ無感情で介入しないのがなんだか本人としては癪に障るけれども、とりあえずバズることには成功しました。

するとやっぱりポールは内心では嬉しいわけです。会話少なげだった娘からも相手してもらえるし、見知らぬ若い子からも注目のまと。調子に乗っている“ニコラス・ケイジ”の演技がまた笑いを誘いますが…。こういう周りから持ち上げられるおっさんのマヌケさみたいなのがよく表れていました。

そんな中、とは言ってもこのポールは名声に慣れておらず、それを扱えるほどのスキルもありません。バズっても実際は翻弄されているだけです。つまり、バズっても自分の質が上がったわけではない(そう勘違いさせる効果はありますが)。結局、昔の自分と本質は変わらない。

それを意地悪に突きつけるのは、あのアシスタントのモリーがエロティックな夢を再現してほしいということで試すシーン。この場面でも窺えますが、ポールは一応の良心があって完全にこの現象を悪だくみに使おうとしていない(でも完全に模範的ではない)あたりが絶妙ですよね。

そしてポールの中で最も承認欲求をこじらせている学術的キャリアの面で希望を打ち砕かれたことがきっかけなのか、人々の夢の中でのポールは急に暴力的で残酷になり果てます。すると一転してトラウマの象徴です。ネットでいうところの炎上が起きます。

ここも確かにポール自身は何も悪いことを直接していないのですが、でも直接していないけど悪い人間の心が頭をもたげたよね?という深層心理まで問われると何とも言えなくなる気まずさがあります(ましてやこれはその深層心理を投影する夢の話なのですから)。

同時にこれは現代社会におけるイマドキのおっさんたちの「チヤホヤされたい。でも嘲笑されたくはない。ましてや炎上とかしたらどうしよう? 老害だとか言われるのかな?」という内心の恐怖を反映しているようで、これまた痛々しく切実な物語なのでした。

『ボーはおそれている』に近いものもありますが、それよりはまだリアル寄りですかね。

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広告業界の浅はかな夢に付き合うな

『ドリーム・シナリオ』はポールという中高年男性だけが批評されているわけではなく、その周囲も遠慮なしに風刺しています。

見知らぬおっさんであろうが、バズりの流行に乗るためなら何でも構わない若者たちの薄っぺらさもそうですが、際立っていたのが商業文化の金儲け主義。本作に人種風刺はほぼないのですが、商業主義の浅はかさを皮肉るアプローチとしては『アメリカン・フィクション』に類似していました。

とくに「夢の人」として一世を風靡し始めたポールにめざとく接近する広告代理店。最初は「オバマの夢にもでてきた人」みたいな売り出しで提案していたのに、ポールが恐怖のアイコンになってしまってからは「ジョー・ローガンやジョーダン・ピーターソンはどうですか?」と提案してきます。要するにそういう人たちなら「キャンセルカルチャーの可哀想な被害者」としてあなたのことを愛でてくれますよ…というだいぶ小馬鹿にした話であり、金儲けのためならどんな政治とも手を結ぶ広告業界の酷さもそうですし、オルタナ右翼界隈のアルファ男性に利用されるベータ男性の構造も露骨にでています(「文化戦争の駒に使われたくない」とちゃんと断るあたりにポールの良心が滲みますが…)。

まあ、現実も、ポジティブにバズったおっさんは左派に使われ、ネガティブにバズったおっさんは右派に使われるという分別のお約束がありますからね…。

『ドリーム・シナリオ』は着想元になった実話があり、それは2009年頃に拡散し始めたインターネット・ミームで「多くの夢の中に現れるけど現実には姿を現さない」という謎の人物がいるという触れ込みの内容でした。実はそれはイタリアのマーケティングが仕掛けた広告戦略の一環だったことが後に判明するのですが、だからあながちこの映画もあり得なくはないです。

もし本当に夢が広告に利用できるなら企業は何が何でも利用するでしょうからね。

本作はおっさんを嘲笑うことに終わらず、最後はしっかり「夢」を描きます。承認欲求に憑りつかれることなく、現実に根差した幸せがきっとあったはず。夢は大部分を忘れるくらいがちょうどいいんです。

『ドリーム・シナリオ』
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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関連作品紹介

ニコラス・ケイジ主演の映画の感想で記事です。

・『レンフィールド』

・『PIG ピッグ』

・『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』

作品ポスター・画像 (C)2023 PAULTERGEIST PICTURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED ドリームシナリオ

以上、『ドリーム・シナリオ』の感想でした。

Dream Scenario (2023) [Japanese Review] 『ドリーム・シナリオ』考察・評価レビュー
#アメリカ映画2023年 #ニコラスケイジ #夫婦 #夢