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アニメ『後宮の烏』感想(ネタバレ)…宮廷の中で男女の対等な関係は築けるか

後宮の烏

宮廷の中で男女の対等な関係を築こうとする物語…アニメシリーズ『後宮の烏』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Raven of the Inner Palace
製作国:日本(2022年)
シーズン1:2022年に各サービスで放送・配信
監督:宮脇千鶴
性暴力描写 自死・自傷描写 児童虐待描写 恋愛描写

後宮の烏

こうきゅうのからす
後宮の烏

『後宮の烏』あらすじ

後宮の奥深くの夜明宮と呼ばれる敷地で、妃でありながら夜伽をすることのない「烏妃」と呼ばれる特別な妃が住んでいた。彼女は不思議な術を使い、呪殺から失せ物探しまで、何でも引き受けるものの、その正体を知る者はほとんどいない。時の皇帝・高峻は、ある依頼のために烏妃の元を訪れる。この出会いがはるか昔の歴史にも関係することだとは理解せずに。運命の鎖を解き放つことはできるのか。

『後宮の烏』感想(ネタバレなし)

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男女が分かれた世界に平穏はない

男と女は分かれて生活する方が良いと思いますか?

この問いは色々な議論を呼びそうですが、その昔、イスラム圏ではこの考えが前提となって文化が築き上げられていました。いわゆる「ハレム」です。これは、性的倫理の逸脱を未然に防ぐためには男女は節度のある隔離を行わなければならない…という思想に基づいたものです。男性は男性だけの場所、女性は女性だけの場所、原則的にそうやって区分けされました。

この男女分離社会はあらゆる人間が実行できるものではありません。実際、歴史的に男女分離が実現できたのは上層の者たちです。当然、この男女分離するという環境を築くには大勢の下々の者たちが男女関係なくせっせと働くことになります。ある意味では、階層が無くては実現できない空間とも言えますね。

古来の中国も同様にこの男女分離の社会を上層階級の者たちは築いていました。それが宮廷、とくに女性だけが住まう空間は「後宮」と呼ばれていました。

後宮は単に男女を分けるだけではありません。男は男で、女は女で、さらに細かい役職で区分され、上下関係が徹底されていました。つまり、女でも身分の高い女が上に立ち、身分の低い女を従える。そうしたある種の究極の分離社会です。

こうやって歴史を振り返ると、やはり男と女は分かれて生活すれば万事全てが良くなるなんてことはないだろうなと思います。分離社会ほど差別は露骨に浮き出るものです。

ではじゃあ一体どうやったら性別の垣根なく差別の無い理想の社会は作れるのか。

そんな夢幻のような社会を目指して誠実に模索していくような物語を映し出すアニメシリーズが、今回の紹介する作品です。

それが本作『後宮の烏』

本作は“白川紺子”によるライト文芸が原作で、小説は2018年から刊行されています。タイトルのとおり後宮が舞台になっています。日本でも中国宮廷モノはよく輸入されて入ってきますが、これは日本で作られた中国宮廷モノ。日本って『キングダム』のように中国を舞台に作品を作るの、好きですよね。やっぱり日本舞台だと作品数が多すぎてマンネリに感じるから、スケールのデカそうな中国に目をつけるのかな。

そんな原作をアニメシリーズ化したこの『後宮の烏』ですが、一方で本作は中国の史実を正確に題材にしているわけではありません。実質、中華風ファンタジーという感じで、歴史をそんなに反映していません。後宮の雰囲気だけ拝借したと言っていいかも。

ただそのおかげか、ジャンルの難易度としてはグっと下がりました。かなり親しみやすく、物語は展開してくれます。基本は依頼ミステリーみたいなスタイルで、主人公が後宮の中で起きる妖しげな事件を解き明かしていきます。探偵風に。

しかし、この主人公は当然探偵ではありません。ここが本作の特色ですが、本作の主人公は、妃でありながら夜伽をすることのない「烏妃(うひ)」と呼ばれる特別な女性…というポジションです。「夜伽(よとぎ)」というのは「男性の夜の相手をする」…つまり皇帝の男性と寝る=性的関係を持つ…ということですね。本作の主人公は女性でありながら後宮の中でも「女性の役割」から例外で脱している特異な立場なのです。これが本作のもうひとつのファンタジーです。

そして物語自体はそんな主人公の立場を基点に、ジェンダーやフェミニズム的な文脈のテーマを内包していくことになります。さらに想像以上に壮大なファンタジーワールドな展開に広がっていくのですが、それは見てのお楽しみ。

とにかくそういうテーマ性があるので、普段は日本のアニメはあんまり見ないという人でもオススメしやすい作品だと思います。日本のアニメのちょっと性別的にステレオタイプな描写が嫌だなと思っている人でも気楽に見れるのではないでしょうか。

アニメ『後宮の烏』の監督は『銀魂』シリーズを長らく手がけてきた“宮脇千鶴”。シリーズ構成はドラマ『凪のお暇』や『妻、小学生になる。』の“大島里美”

『後宮の烏』は第1期は全13話(1話あたり約24分)。サクサク見れるでしょう。

なお、作中で性暴力や児童虐待の描写がありますが、そこまでトラウマを煽るほどに露骨ではないです。一応、事前に伝えておきます。

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『後宮の烏』を観る前のQ&A

✔『後宮の烏』の見どころ
★丁寧な人間関係と謎めいた世界観。
★ジェンダーやフェミニズム視点でも楽しめる。
✔『後宮の烏』の欠点
☆登場人物の名前が見慣れない漢字で覚えづらい。
日本語声優
水野朔(柳寿雪)/ 水中雅章(夏高峻)/ 八代拓(衛青)/ 高野麻里佳(九九)/ 島﨑信長(温螢)/ 岡本信彦(淡海)/ 平田真菜(衣斯哈)/ 上田麗奈(雲花娘)/ 杉田智和(薛魚泳)/ 石田彰(封宵月) ほか
参照:本編クレジット
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『後宮の烏』
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オススメ度のチェック

ひとり4.0:気軽に楽しめる
友人4.0:薦めやすい見やすさ
恋人4.0:感想を語り合って
キッズ3.5:やや怖い描写があるけど
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『後宮の烏』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『後宮の烏』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):烏妃と帝は相容れぬ

静かな夜、耳をつんざく爆音と共に強襲が始まります。率いるは廃太子の夏高峻。皇太后のいる奥の間へと悠々と歩みを進め、それを前に皇太后は「ここはお前のような下賤の者が足を踏み入れていいところではない。ひざまずけ。命乞いをしろ」と言い放ちます。しかし、皇太后の側近は夏高峻に忠誠を誓い、夏高峻はゆっくり前にでて、無抵抗な皇太后に刃を向け…。

新しい皇帝が誕生しました。

こうして皇帝となったは夏高峻は宮廷内のある場所を訪れていました。「夜明宮とは名ばかりだな」と夏高峻は感想を述べ、宦官の衛青と共に暗闇の夜明宮へ足を運びます。金色に光る大きな化鳥がでるとみんな怖がって近づかないらしいですが、夏高峻は気にしません。ここに来た目的は烏妃を訪ねるためです。

烏妃…それは妃でありながら夜伽をすることのない特別な妃で、後宮で生きながら決して帝のお渡りのない妃であり、一方で不思議な術を使えるらしく、それで依頼をこなすと言われています。女神である烏漣娘娘(うれんにゃんにゃん)に仕えていた巫婆の末裔で、不思議な術に傾倒していた皇帝がその力を独占するために後宮に囲って特別な妃の位を与えたという歴史は帝にも伝わっています。

急に鶏が飛び出してきて、夜明宮の扉の奥から「星星(しんしん)を放せ、下郎」と失礼な言葉が飛んできます。扉が開き、声の主が姿を現すと…それは烏妃の柳寿雪でした。

「そなたに頼み事がある」と夏高峻は開口一番に言います。けれども烏妃は「代償がいる」と警告。それでも夏高峻は「この翡翠の耳飾りの持ち主が知りたい」と続けます。烏妃は頼み事は聞かないと言い張り、謎の術で2人を建物の外に移動させてしまいました。

後日、また烏妃のもとに来る夏高峻。贈り物として包子を渡し、後宮で見回りの者が拾った髪飾りの話をします。その持ち主はわかりませんが、どうも幽鬼が憑りついているらしく、赤い襦裙を着た女でした。烏妃の術で変わり果てた妃が具現化し、不幸な死に方をしたことだけは推察できました。「救ってやってほしい」と言われ、烏妃は渋々引き受けることに。

飛燕宮を宮女の格好で歩いていた烏妃は、内膳司の九九(じうじう)が縫物の無茶な仕事を任せられて困っているところを目にし、助けます。夜明宮に仕えていると嘘をつくと、九九は無邪気に質問をしてきます。「烏妃ってどんな人? 100歳を超えたおばあさんって噂は本当?」「16歳だ」…次々と質問が飛んでくる中、名前を聞かれて「寿雪」と答える烏妃。

九九の仕事を手伝う中、1年前からここで働いていると九九から、今の皇太后は幽閉されており、皇太后は帝の生みの母を殺害したという噂があるという話を聞きます。

夏高峻は母の恨みを皇太后に向けるべきかじっくり考えていました。

ある夜、夏高峻は夜明宮へと向かっていると、ひとけのない森の水辺で、烏妃である柳寿雪は水浴びし、髪を洗っていました。その髪は普段の黒ではなく、白く輝いており、染めていたことがわかります。

銀髪は前王朝「欒家」の証。欒家は以前の皇帝の命で捕殺令が出され、一族もろとも根絶やしにされたはずでした。今の烏妃である柳寿雪はその生き残りだったです。

烏妃の秘密はまだまだ隠されていると考えた夏高峻は独自に調べ始めますが…。

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シェルターとして役割を見い出す

『後宮の烏』の主人公である烏妃の柳寿雪は、欒家の母を殺されて路頭に迷っているところ、烏漣娘娘に選ばれて烏妃となる運命を与えられ、以前の烏妃である麗娘に育てられました。16歳ですが、夜明宮にずっと籠っており、そもそも宮廷からでられないことになっている縛りがあると明かされます。

そうした身の上ゆえに寿雪は処世に長けていないのですが、新しい皇帝の夏高峻との出会いによって、これまでにないほどに多くの人々と関わるようになり、依頼をこなす中で世間というものを知っていきます。

そしてそうやって露わになっていく宮廷の現実。一見すると華やかで、統治された世界に見えますが、実際は恨み、妬み、憎しみといった感情がドロドロと満ち溢れており、幽鬼だっているのも頷ける場所でした。こんなに幽鬼がでるんじゃ、治安が悪いと言えるのでは?と思ってしまいますが…。

当然そこには階級差別や女性差別があり、暴力も日常化しています。女性はどの階級でも籠の中の鳥であり、同時に女性同士でその鎖を絞めつけ合ってしまう状況があったり…。また男性でも、宦官として師父に育てられる過程で暴力に遭う少年もいる…。

その現実の構造が、ある種のジェンダーロールから逸脱した寿雪の視点だからこそ見えてくるというのは、アニメ『平家物語』にもあったようなアプローチですね。厳格な性別役割の分離社会を切り崩していくには、やはりこれくらいのファンタジックな存在感が必要ということでしょうか。

そんな中、寿雪の夜明宮は一種のシェルターのように機能していきます。先輩に虐められていた宮女の九九を侍女として迎え、舌を切られて口がきけない紅翹(ディザビリティの当事者)を加え、師父から暴力を受けていた幼い衣斯哈(暴力サバイバーの当事者)をその場に置くことにし…。

烏妃の役割からは大きくかけ離れているのですが、でもこの宮廷の世界には、と言うか私たち現実の社会でもこのようなシェルターは常に必要でしょう。

そういう意味では寿雪は烏妃として新しい意義を見出し始めて実践できているわけで、この宮廷社会を根本から変えられずとも、必要なケアやサポートを与える一助になっている。本作もまた実は構造としては弱者支援体制の重要性を描いているとも解釈できます。

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ジェンダーや階級を超えて対等に

そうやって宮廷の社会の狭間でこぼれでた人々を救いつつ、主軸になってくるのは烏妃の柳寿雪と皇帝の夏高峻の関係性です。

2人は掟としては会ってはいけないことになっていますが、第1話から相対します。かといって一般的な皇帝と妃の関係をなぞるわけでもありません。この社会の規範では、帝は多数の妃と関係を持ち、従属させます。一夫多妻というよりは帝よりも上に立つ人間はそもそもいない。頂点です。

しかし、烏妃の柳寿雪はその規範から外れていることもあって、皇帝の夏高峻にさえも失礼な口ぶりを平気でかまします。夏高峻もそれを辞めさせはしません。

本作『後宮の烏』ではこの2人の単純なロマンスを用意するのではなく、いかにしてこの男女規範を絶対視する社会で、男女は対等な関係を築けるだろうか…と慣れない両者が初々しく模索する過程を描き出しています。

もちろん2人は人権とか平等なんて言葉も知らないので参考になるものがありません。それでも「そなたの良き友になりたい」と本音で向き合い、対等をゼロから構築しようと試行錯誤する。この丁寧な描写があるからこそ、本作は観ていてどこか安心します。とくに夏高峻が徹底して男性的な有害さをださないのが安心材料ですね。

男女だけでなく、同性同士でも階級を超えて対等な関係を築こうという試みは各所で見られ、寿雪と九九や雲花娘とのシスターフッドもいいですし、大家(たーちゃ)取り巻きの宦官3人衆の衛青・温螢・淡海の男の連帯も印象的です。それぞれ食べ物が対等さのキーアイテムになるというのも、フード・リレーションシップの典型例でしょう。

物語が進むと、烏妃の柳寿雪と皇帝の夏高峻には深い歴史的な因縁があることが判明。それは雙通典によって語られた、夏の王冬の王の恋慕で争いが始まり、欒夕香薔が流れを変えるも欒夕は香薔に王を名乗らせず、初代の烏妃として閉じ込めたという史実。女性は王になれないという家父長的な理が強大に過去に根を張って立ちはだかる中、寿雪と夏高峻は対等な社会を実現できるのか…。

それにしてもそんな手探りの渦中で、星烏廟の冬官である薛魚泳が宮廷に送り込ませた封宵月(泥人形)との、派手めなバトルアクションが終盤では展開され、作品のジャンルが随分と拡大するんですね。寿雪も牡丹を生み出すだけでなく、あんなに多彩に戦えるのか…もう戦闘要員必要ないんじゃないか…。

こんなふうにバトルアクション展開するのもそれはそれでありですが(アニメーションならなおさら見ごたえがあるでしょう)、作品の基本姿勢としてジェンダーや権力への意識がしっかりあるので、『後宮の烏』はその両立をとても期待できる作品でした。

『後宮の烏』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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・『ぼっち・ざ・ろっく!』

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作品ポスター・画像 (C)白川紺子/集英社,「後宮の烏」製作委員会

以上、『後宮の烏』の感想でした。

Raven of the Inner Palace (2022) [Japanese Review] 『後宮の烏』考察・評価レビュー