忍者はテロを起こしません…映画『GIジョー 漆黒のスネークアイズ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2021年10月22日
監督:ロベルト・シュヴェンケ
G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ
じーあいじょー しっこくのすねーくあいず
『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』あらすじ
アメリカの地で暗躍していた日本の裏社会組織からある男の命を救ったスネークアイズと呼ばれる男は、秘密忍者組織「嵐影」への入門を許可される。600年にわたり日本の平和を守ってきた嵐影だったが、悪の抜け忍組織と国際テロ集団「コブラ」の連合軍による攻撃にさらされ、危機に瀕していた。スネークアイズは嵐影の3つの試練を乗り越えて、己の運命に向き合うことで、真の忍者としての道を切り開いていく。
『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』感想(ネタバレなし)
忍者のアイツが日本を訪問
海外の人たちから気に入られている日本の三大職業、それは「侍」「ヤクザ」「忍者」です。いや、どれも一般の日本人がなろうと思ってなれる職ではないのですけど…。
今回は忍者の話です。忍者は本当に外国人にも人気です。最近も小田原市観光協会が募集した「風魔忍者」の候補生に、海外(ベトナム、タイ、メキシコ、エクアドル、ロシア)の14人を含む89人の応募があって、主催者が驚くというニュースを見ました。たぶん本気で忍者になる気で応募しているんじゃないかと思わなくもないですが、まあ、別に人気で困ることでもないのでいいですよね。ヤクザに憧れられるよりはまだ健全だし…。
忍者、メディアでたくさん目にしていろいろ想像が膨らんでるのかな。
でも、そうは言ってもこの日本でさえも忍者が主役になる映画は珍しいです。侍やヤクザよりも圧倒的に少ない。なぜなのだろうと考えてみると…地味だからなのかなぁ…。漫画やアニメなら「NARUTO ナルト」とか人気作もあるけど、実写で忍者を描き続けるにはどうしてもリアリティの問題が立ちはだかりますよね。日本人の感覚でも「忍者?いまどき?子どもじゃあるまいし…」という小馬鹿にした目線が投げかけられるものです。
しかし! そんな忍者を軽んじる私たち日本人の心にお灸をすえるべく、この映画がはるばるハリウッドからわざわざ忍術ではなく飛行機で飛んできたのです。そう、『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』が…。
まず「G.I.ジョー」とは何ぞやという初心者向けの説明をすると、「ハズブロ」というアメリカ最大級の玩具メーカーが販売している男児向けのオモチャで、1960年代から展開されている歴史のある品です。簡単に言うと「兵士姿の人形」ですね。しっかりキャラクター設定があり、個性豊かな戦闘のエキスパートとなっています。
その「G.I.ジョー」は2009年に『G.I.ジョー』として実写映画化され、2013年には『G.I.ジョー バック2リベンジ』として続編も作られました。批評的には散々だったのですけど、俳優陣は“チャニング・テイタム”だったり、“ドウェイン・ジョンソン”だったり、“ブルース・ウィリス”だったり、“イ・ビョンホン”だったり、なかなかにカオスな顔触れで、これはこれでカルト作になりうるポテンシャルを持っていました。
そんな「G.I.ジョー」の映画化が再始動したのが本作『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』。
ただ物語としては過去の2作とは立ち位置が違って、「スネークアイズ」というキャラクターひとりに焦点をあて、そのキャラクターが誕生するまでを描くオリジン・ストーリーとなっています。このスネークアイズは「G.I.ジョー」の中でもとくに人気が高いキャラで、日本の忍者から修業を受けたという異色の設定で、見た目もまんま忍者です。どことなく特撮ヒーローっぽいような…。
その新生スネークアイズを熱演するのは、『クレイジー・リッチ!』や『ジェントルメン』など今やハリウッドで最も活躍するナイスガイなアジア系となっている“ヘンリー・ゴールディング”。完全主演作なので彼の雄姿を拝めまくることができます。
共演は、ドラマ『Warrior』の“アンドリュー・小路”、『検察側の罪人』の“平岳大”、『47RONIN』の“安部春香”、『マイル22』の“イコ・ウワイス”、『レディ・オア・ノット』の“サマラ・ウィーヴィング”、『ペット』の“ウルスラ・コルベロ”など。
今作『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』は大規模な日本ロケを敢行しているし、主演もアジア系ですし、ハリウッド映画ながらアジア要素が非常に濃いです。
まあ、監督はなぜか『ダイバージェントNEO』や『ちいさな独裁者』を手がけたドイツ人である“ロベルト・シュヴェンケ”なんですけどね。なぜそこはアジア系にしなかったんだ…。
これといって「G.I.ジョー」シリーズを知らない人でも楽しめますし、リアリティラインはほぼ『モータルコンバット』と同レベルの荒唐無稽さなので、そのつもりで『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』を満喫してください。
『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』を観る前のQ&A
A:ひとりのキャラクターの出発点となる物語なので、過去の映画を観ないと理解できないということはありません。
オススメ度のチェック
ひとり | :ファンも初見も |
友人 | :忍者仲間とどうぞ |
恋人 | :ロマンスは無いです |
キッズ | :今日から忍者だ! |
『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):忍者の国へようこそ
とある親子。少年は何かに焦る父の姿に不安を覚えます。夜、父は息子を家の片隅に隠し、外にいる来訪者と向き合います。家は包囲されていました。その来訪してきた男はおもむろにサイコロを2つ振り、全部が「1」という結果に。「スネークアイズ」と訪問者は口にします。少年は父の指示に従い、家の外に逃げ出して様子を窺っていました。銃声。そして燃え盛る家。その光景を睨み、少年は怒りのままに立ち尽くすしかなく…。
それから年月が経過し…。何でもありな闘技場で、大男を容赦なく倒して勝者に輝いたのは「スネークアイズ」と呼ばれる男。そこに鷹村ケンタという男が接近してきて、「父親の事件の黒幕を知りたくないか、犯人を見つけ出せる」と提案してきます。その条件とは…。
ロサンゼルス港。スネークアイズはフィッシュボーイと呼ばれ、銃器などの密輸の裏稼業に関与していました。しかし、仲間のトミーは潜入者だとバレて、スネークアイズは鷹村に銃を渡されその場で殺すように命じられます。
けれどもスネークアイズは反旗を翻し、トミーを息のあった連携で助け、乱戦へ。トミーは二刀流で、スネークアイズは素手で、大勢の敵をなぎ倒していきます。2人はトラックに乗り込み、グサグサ刺されながらも後退。そこにパトカーが入り込み、一時休戦。そこでスネークアイズは倒れてしまい…。
気づくと空の上の飛行機の中。トミーの「ホームに帰る」と言います。そうして到着したのは東京。向かったのはトミーの家である「嵐影(あらしかげ)」の一族。ここは古来から忍者の伝統を守り、密かに日本に平和をもたらしてきました。嵐影の長でトミーの祖母センに紹介し、「仲間に加わってくれ」とトミーは誘います。
それには3つの課題をクリアして実力を示さないといけません。嵐影の保安を担う「くのいち」の暁子は「ヤクザの用心棒なんて信用できない」とスネークアイズを疑います。
まずは実力者のハードマスターと対峙。水の入ったお椀の奪い合いです。こぼさないようにしないといけませんが、圧倒されっぱなし。早くも2敗、3敗と追い込まれますが、「お椀を取り換えてください」と丁寧にお願いしてクリアします。
こうして順調に最初の関門を突破したスネークアイズでしたが、実は鷹村とまだ繋がっていました。密かに信頼させて潜入に成功し、狙うのは嵐影が代々保管しているという宝石。鷹村は抜け忍たちと組織を作り、「コブラ」と呼ばれるテロリスト集団に手を貸していました。この特別なパワーを持つという宝石でさらなる高みに上り詰めるために…。
陰謀が渦巻く中、この忍者大戦を生き残るのは誰なのか。
やっぱり「城」はロケーションに最高です
『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』の過去作からの最大の変化は、日本を舞台にするという集中特化でしょう。まだまだ日本だけをフィールドに選ぶハリウッド映画なんて珍しいのに、この英断。確かにスネークアイズのオリジン・ストーリーを描くなら、日本を舞台にすることは避けられないのですが、それでもこれほどまでに日本に花束を贈ってくれるのは嬉しいものです。
と言っても、最近は『ケイト』に代表されるように、日本を舞台にしていてもその中身がアジア系ステレオタイプな状況になっていることも多く、しばしば問題視されます。
今回の『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』は頑張っている部類だったと思います。やはり日本でロケ撮影しているのは大きいですね(撮影地は大阪の岸和田城と兵庫の圓教寺)。とくに「城」の存在感はデカいとあらためて実感します。日本の城は映画のロケーションに本当に向いてますね。さすがに登ったり、爆破したりはできないですけど、これからもどんどん映画撮影地として協力していってほしいくらい。
それ以外の街並みも極端に変なものはなく、違和感は少なめでした。まあ、銭湯に服のままズカズカとあがりこんだり、多少のヘンテコなシチュエーションはあるのですけど…。
嵐影の根城はハイテクで、こうなってくると忍者じゃなくてプログラマーとかハッカーを雇わないとダメなのでは?と思わなくもない…。
残念な部分もあります。せっかく日本撮影なんだから、もうちょっと日本人の俳優を起用して、日本語を多用する物語にしても良かったのではないか…とか。
前作の映画ではスネークアイズは喋らないキャラクターになっていて、それと比べる今回は対等な扱いで何倍もマシにはなっているのですが…。
あとここは言及しないわけにはいかないですけど、本末転倒ですが、忍者をこうやって題材にしている以上、アジア系が忍者的なコンテンツでしか消費されない現状は変わらないわけで…。こういうのは生まれて日本を出たことのない日本人にはどうでもいいと思うでしょうが、アジア系として生きる人たちにはなかなかに深刻な偏見ですからね。
そこをちょっと風刺する描写があればよかったのですけどね。
アクションも派手さもやや不足ぎみ
過去作では「G.I.ジョー」のエキスパート・チームと、「コブラ」の革命テロ組織との、因縁深い対決が描かれることになり、ワールドクラスの大スケールなバトルが展開されました(ほんと、世界が滅亡するレベルで…)。それと比べると『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』は大人しいです。なので全作のハチャメチャ感が好きだった人には今作は物足りない部分もあったでしょう。
アメリカで暮らすアジア系主人公がアジアの地に渡り、いかにもアジアっぽい組織の中で自らの能力に目覚めていくというプロットは、『シャン・チー テン・リングスの伝説』と同じなのですが、『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』はややアクション不足だったかな。
主人公であるスネークアイズもまだこの段階では本領発揮できずに未熟なままですし、あのいつものスーツになってからもうひと暴れあると良かったですけど。
個人的にはトミーことストームシャドーの魅力が薄めだったのは残念です。やっぱり前作の“イ・ビョンホン”には敵わないですよ。カッコよかったな、あの“イ・ビョンホン”…。
“イコ・ウワイス”のハードマスターももうちょっとアクションの見せ場あっていいのに。お椀持ってたのがピークだよ?
逆に短い出番ながら予想外に印象をかっさらっていくのが女性陣で、暁子のクールな戦闘もカッコいいですし、スカーレットのプロフェッショナルかつアグレッシブなスタイルもいいですし(“サマラ・ウィーヴィング”は『ガンズ・アキンボ』といい、こういう役が合っている)、バロネスのあの眼鏡お姉さん的なコテコテの風貌もインパクト大ですし…。
終盤のカーチェイスが最大の見せ場でしたが、今作のラスボスはインフィニティストーンのような宝石を持って突っ立っているだけのでアクションの緊迫感がないんですよね。
『るろうに剣心 最終章』の“谷垣健治”がアクション監督を務めましたが、ややパワー全開にできずという感じかな。
『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』は興行収入面では大コケしてしまったのですが、続編はあるのかな。“ヘンリー・ゴールディング”のスネークアイズは好きなのでまだまだ主演作が観たいです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 36% Audience 74%
IMDb
5.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2020 Paramount Pictures. All Rights Reserved. Hasbro, G.I. Joe and all related characters are trademarks of Hasbro. (C) 2020 Hasbro. All Rights Reserved.
以上、『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』の感想でした。
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