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『ブラック・ウィドウ』感想(ネタバレ)…女を男の考えるスパイの鎖から解き放つ

ブラック・ウィドウ

マーベルシネマティックユニバースが映画館に帰ってきた…映画『ブラック・ウィドウ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Black Widow
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2021年7月8日(Disney+でもほぼ同時配信)
監督:ケイト・ショートランド

ブラック・ウィドウ

ぶらっくうぃどう
ブラック・ウィドウ

『ブラック・ウィドウ』あらすじ

ブラック・ウィドウとしてアベンジャーズに加わり、世界への脅威と戦っていたナターシャ・ロマノフは自分の過去と向き合わなければいけなくなる。それはもう決着がついたと思っていた相手だった。「妹」として一時期の間だけ一緒に生活していたエレーナの出現、ロシアが生み出したスーパーソルジャーとしての栄光を捨てきれずにいる「父」、秘密を握る「母」…。家族の幻影がナターシャの人生を揺らす。

『ブラック・ウィドウ』感想(ネタバレなし)

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やっと劇場に…MCUがついに再開!

いきなり最初にぶっちゃけてしまいますけど『アベンジャーズ エンドゲーム』のネタバレはもうしていいよね? だって劇場の上映前宣伝でも『エンドゲーム』のベストシーンが普通に流れているし、ネット広告とかでも割と遠慮なく公式がネタバレしているもんね。きっと私も怒られない。よし。

そのネタバレさえも嫌だと駄々をこねる人は今すぐ「Disney+」にでも登録してMCU(マーベルシネマティックユニバース)全作を一気見してね。まだ間に合う(根拠なし)。

はい。では本題。サノスの指パッチンで生命が半分になった世界は「アベンジャーズ」を始めとするヒーローたちの活躍で元通りに…。いや、全てがもとに戻ったわけではありませんでした。犠牲もありました。かけがえのない大切な存在を失い、その喪失感と向き合うのが『エンドゲーム』以後のMCUフェーズ4のテーマになっているように思います。フェーズ4でスタートしたドラマシリーズ『ワンダヴィジョン』『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』『ロキ』のいずれもアフター・エンドゲームの時代を描き、その残されたキャラクターの模索と葛藤を生々しく映し出していました。

そしてついに映画もフェーズ4へ。厳密にはエンドゲーム後を描く映画はフェーズ3の最後を飾った『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』がありましたが、やはりフェーズ4の第1弾はファンにとっては大事な一作です。それが本作『ブラック・ウィドウ』

本作はエンドゲーム後の一作でありながら物語自体は前日譚を描くというこれまでのMCUではなかった変則的立ち位置であり、そこもまた新鮮です。ブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフの過去は既存の作品内でも意味深に小出しにしていましたからね。やっとお披露目という感じ。

まあ、ファンであればオススメせずとも劇場へ直行するでしょう。

ただ問題がひとつ。本作『ブラック・ウィドウ』、公開劇場数が大作としては異例の少なさ(それでも244館はあるのだけど)。なぜこうなったのかと言えば、日本の映画業界の主要陣とディズニーの確執です。ディズニーはコロナ禍の中、比較的劇場公開を目指して粘っていた方でしたが(それは以下の私の調査記事で整理されているので参照にどうぞ)、やはり大半の大作を延期せざるを得なくなってしまいました。

そして一部の大作を劇場公開と合わせて「Disney+」で同時配信する施策に出ます。『ブラック・ウィドウ』もそのひとつに。劇場で観られるからスクリーン派も満足…と言いたいところですが、ここで利害の対立が発生。映画企業や映画館で構成される「全国興行生活衛生同業組合連合会(全興連)」は動画配信サービスに敵対的で、劇場公開と同時配信は認めない姿勢を打ち出しているのでした。拘束力はありませんが、東宝と松竹の日本2大映画大企業はこの方針に従い、自社の映画館から『ブラック・ウィドウ』を締め出した…という経緯です。

これまでもNetflix作品を東宝や松竹系のシアターは扱いたがりませんでしたが、ここに来てディズニーも同じ立場に。この姿勢が法的にどうなのかは私はさっぱりわかりませんが、日本はアメリカと違って映画製作会社が映画館も牛耳っているという構図があるので業界統治が強化されるのはあまり歓迎したくはないのですけど(パワハラ問題や差別問題もあるしね…)。

ともあれ『ブラック・ウィドウ』はちょっと興を削がれる空気も一部で漂っていますが、まあ、今回限りです(次回作のMCU映画は劇場公開オンリーです)。

日本では配信よりも1日早い7月8日から劇場公開となり、アメリカ本国よりもお先に鑑賞できますし、やっぱり大作は世界同時に観るのが楽しいもんですね。これぞ映画体験の醍醐味!

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『ブラック・ウィドウ』を観る前のQ&A

Q:「ブラック・ウィドウ」ってどんなキャラクター?
A:ロシアで訓練を積んだという凄腕のスパイ。コードネームが「ブラック・ウィドウ」であり、本名はナターシャ・ロマノフ。アメリカとは敵対していたものの、クリント・バートン(ホークアイ)に才能を評価されて「S.H.I.E.L.D.」にリクルートされ、その流れで「アベンジャーズ」の一員に。潜入や格闘、バイク操縦など多才で、ハルクをなだめたりもしました。
Q:『ブラック・ウィドウ』を観る前に観たほうがいい作品は?
A:ブラック・ウィドウの初登場作品は『アイアンマン2』で、以降も多くのMCU作品に登場しましたが、『ブラック・ウィドウ』のストーリーの理解の補足という意味では『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』の鑑賞をオススメ。『ブラック・ウィドウ』の物語は『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』の直後から始まります。ちなみに『アベンジャーズ エンドゲーム』は観なくてもいいと思いますが、今作も恒例のエンドクレジット後のオマケがあり、その映像は思いっきり『アベンジャーズ エンドゲーム』が絡むので、まだ観ていない人はそそくさと退席してください。MCU初めての人もいきなり『ブラック・ウィドウ』からでもOKです。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:MCUファンお待ちかね
友人 4.0:ファンを増やそう
恋人 4.0:一緒に満喫しよう
キッズ 4.0:子どもでも大丈夫
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ブラック・ウィドウ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):偽りの家族の解散

1995年、アメリカのオハイオ州。のどかな住宅地でナターシャという少女は妹のエレーナと無邪気に戯れていました。家に帰れば優しい母・メリーナが温かく迎えてくれて、2人に愛情を注いでくれます。今日の晩御飯を用意していると、父・アレクセイが帰宅。温厚な父らしく2人の娘に穏やかな態度をとります。

しかし、すぐに父の表情は変わり、妻に話だします。「ついにこの日が来た。あと1時間だ」

少し動揺する表情を見せかける母。何かを察知するナターシャ。父は何もわかっていない幼いエレーナに「いつか大冒険をする日が来ると言っていただろ、今日がその日だ」と努めて明るく切り出します。そして食事も終わらないまますぐに荷物を整理。最小限の持ち物を持って車に乗り込みます。

夜の道を車で疾走する家族。父はエレーナのお気に入りの曲を流し、雰囲気を和やかにします。

林道を進むと資材やテントがある開けた場所に到着。そのテントの中には軽飛行機があり、家族は事前に何度も練習していたかのように慣れた手つきで軽飛行機の離陸の準備にすぐに取り掛かります。父はものすごいパワーを発揮して重たい運搬台をどけます。

そのとき、何台もの車両が接近。車体には「S.H.I.E.L.D.」の文字。父は飛行機の翼に捕まりながらですが、なんとか離陸しようとします。操縦桿を握っていた母が撃たれ、ナターシャが必死に飛行機を操縦し、無事に空へ。

飛行機はそのままキューバの基地に着陸。運ばれる母を心配そうに見つめる2人の娘。しかし、父はドレイコフという大物そうな男に駆け寄り、自分の任務への貢献とそろそろ輝かしい仕事に戻りたいと要望します。ところがエレーナを乱暴に扱う兵士に怒ったナターシャは銃を奪って突きつけて騒ぎに。父はナターシャをなだめ、2人の娘に注射が容赦なく打たれ…。

こうして2人は他のたくさんの女の子と一緒に「レッドルーム」と呼ばれるロシアの訓練施設でスパイ(ウィドウ)として鍛えられ、各地に派遣されるのでした。

それから21年後。ロシアを裏切ってアベンジャーズの一員になっていたナターシャですが、ソコヴィア協定をめぐるキャプテン・アメリカとアイアンマンの対立によってナターシャも孤立。サディアス・サンダーボルト・ロス国務長官が彼女を拘束するべく迫ってきます。

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オール女性でもジャンルは成り立つ

『ブラック・ウィドウ』はこれまでアベンジャーズのメンバーといってもサイド・キャラクターだったナターシャ・ロマノフの初となる単独主演作。MCUは各キャラの主演作シリーズはどれもそれぞれで明確に特色があって、『アイアンマン』シリーズは工学と軍事と企業モノ、『キャプテン・アメリカ』シリーズは政治戦争モノ、『マイティ・ソー』は古典的ファンタジー、『アントマン』シリーズはケーパー&家族モノなど、いろいろです。そして今回の『ブラック・ウィドウ』は王道も王道のスパイアクションでぶつけてきました。

冒頭の挿入歌ありのオープニングクレジットからもろに漂う『007』っぽさ。全体の展開も完全にどこからどう見てもスパイアクションの貫禄です。

とにかく本作はアクションが凄かったですね。MCUの中でも随一のアクションだったかもしれない。というのも今回は魔法や超科学みたいな戦闘スタイルはほとんどなく、ほぼ肉弾戦。拳と拳がぶつかる、体技と体技が交差する、激しいバトルシーンのオンパレードです。

ブラック・ウィドウは特別な能力も武器もないので本当に強いのかなとやや戦闘面では疑問符をつけられがちでしたが、純粋な格闘能力はトップクラスじゃないかという強さが今作でよくわかりました。

今作の強敵である完コピの達人「タスクマスター」との序盤の戦闘は思わず息をのむ緊迫感。そこからの因縁の妹・エレーナとの室内での格闘戦、そこからのウィドウ集団の来襲による流れるような建物外への逃避、そしてバイクチェイス…。ここはもう『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』を彷彿とさせますけど、過去作超えの完成度ですね。

凄いのはこの一連の怒涛の戦闘パートに参戦しているのが揃いも揃ってみんな女性だということ。初期は女性がひとり参加していれば紅一点で持ち上げられたものですが、時代は変わりました。スパイアクションはオール女性でも成り立つのです。スパイアクションというもはや古めかしいジャンルに対して本作は過去の慣習を綺麗さっぱり捨て去り、見事に革新させていました。

とくにエレーナのキャラクターが魅力的です。さすがの“フローレンス・ピュー”。これまでの容姿重視の女スパイのイメージをひっくり返す、調子こいてる自然体スタイル(体も作りこんでいないのがいい)。あのヒーロー着地しちゃったときの照れとか、愛嬌が満載で、これはエレーナのファンが爆増しますね。

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社会的背景:90年代のロシア

『ブラック・ウィドウ』は作品の背景にある政治社会についてあまり説明的な描写はありません。当然知っているよねという体裁で進みます。それを理解しておくと作品の全体がさらに掴めます。

例えば、なぜそもそもあのレッド・ガーディアンことアレクセイは超人パワーがあるにもかかわらずアメリカ・オハイオ州で偽装家族とともに潜入任務をさせられることになったのか。冒頭は1995年。3年間潜入していたそうなので始まったのは1992年。この年代からわかるようにきっかけはおそらく1991年のソ連崩壊でしょう。これによってソ連の象徴だった超人ヒーローは必要なくなり、半ば左遷させられたのがレッド・ガーディアンです(顛末がキャプテン・アメリカに似ている)。

ではあのドレイコフとは何者なのか。あれはおそらくソ連時代に権力を持っていた人物や国営企業が看板だけを付け替えて集団化した権力者たち「オリガリヒ(オリガルヒ)」がモデルなのでしょう。オリガリヒはソ連崩壊後に表向きでは活動しづらくなりましたが、社会の裏でエネルギー産業やメディアを操っていました。ドレイコフもまさに上空に浮かぶレッドルームで同じことをしていました。無数のウィドウたちを世界に潜入させて社会システムをコントロールするなんて突拍子もないフィクションだと思うかもしれませんが、ちゃんと現実に実在する歴史や危機を土台にしているんですね。このあたりも『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』に通じるものがあり、『ブラック・ウィドウ』はさながらそのロシア版です。

ドレイコフはオリガリヒのひとりに過ぎないでしょうし、他にも別の人物がまだまだ世界に暗躍していそうで、それこそロシア版の「ヒドラ」としてしぶとく関わってくるのかな。

今作のタスクマスターは“オルガ・キュリレンコ”が演じるアントニア・ドレイコフが正体でしたが(コミックでは男性だった)、今後も登場しそうですね。ロシアのマーベル・キャラクターと言えば最近だと『ニュー・ミュータント』のイリアナ・ラスプーチンがやたらと大暴れしていましたけど、きっと悪役ではないロシア・ヒーローは登場するとみて間違いないですし、今作はその伏線を張っているのでしょうね。

90年代のロシアの社会政治背景を知りたいのならば、ドキュメンタリー『市民K』がオススメです。

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男の考えた「女スパイ」の鎖から解き放つ

そんなふうに社会派&エンターテインメントとして極めて直球な作りながらもやはりそこはMCU、もう1段のクオリティアップがあります。

それを語るうえでやはりこの人の功績は欠かせません。『ブラック・ウィドウ』の監督である“ケイト・ショートランド”です。オーストラリアの監督ですがこの“ケイト・ショートランド”監督の作品で話題となったのが2012年の『さよなら、アドルフ』。この映画は、ナチス高官の家庭で育った14歳の少女が敗戦とともに家族バラバラになり、ひとり国を逃走する最中、自分の属するナチスがやってきた所業を目の当たりにしていく…という何とも陰惨で衝撃的なストーリーでした。また、“ケイト・ショートランド”監督の次の映画である『ベルリン・シンドローム』(2017年)も誘拐監禁された女性を描くもので詳細を書くとネタバレになるので控えますがこちらも一筋縄ではいかぬ内容。

ともかく共通しているのは、どうにもならないような過酷な状況に追い詰められた女性を描いているということであり、その状況を生じさせたのは社会や体制、もっといえば男性的圧力なんですね。さらにそこには“家族”というものへの問題提起もある。なぜなら家族は男性を中心に成り立っているのが定番だから。

この『ブラック・ウィドウ』も“ケイト・ショートランド”監督のためにあるようなストーリーでした。冒頭で映しされるいかにもお手本のような“家族”、その悲劇的別れ。しかし、それは偽りで欺瞞に満ちたものでしかなかったことが中盤でまた4人が揃った場面で明かされます。疑似家族は尊いよね…とかそんなお優しい話でもない、家族という概念の厄介さ。歪で利己的で依存性もある。「家族=良いもの」と等値できない。

でもナターシャはそんなに絶望するわけでもありません。それは先にアベンジャーズの解散事件を経験しているからでしょう。

そこで「まあ、家族ってしょせんはこの程度のものだし、それでもその場その場で成果を出すのに利用できれば御の字だろう」と開き直る。これぞナターシャが手に入れた強さなんじゃないかな、と。作中でもアレクセイはずっといいように利用されてるだけだしね…。

終盤はDVの権化みたいなドレイコフへの痛烈な「avenge(復讐)」が展開され、まさしくアベンジャーです。女子を天然資源と同価値としか思っていない男の末路、それと同時に女性を男の考えた「女スパイ」の鎖から解き放つ意味もあって…。

ナターシャというキャラクターが抱えていた不必要な重荷(スティグマ)が取り払われる、語られるべき物語でした。

『アベンジャーズ エンドゲーム』でのナターシャの運命の件に関しては、おそらくドラマ『ホークアイ』までお預けでしょうね。エンドクレジット後ではドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』にも登場したヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌ(ヴァル)が相変わらずの目的不明な気軽さでナターシャの墓の前にいるエレーナに接近し…。エレーナは次世代「ブラック・ウィドウ」になるのか、そしてなんかいっつも苦労の多いホークアイは今度は大丈夫なのか…。レッド・ガーディアンは何をしているのか…。

個人的にはエレーナにボコボコにされているホークアイも見たい…。

次のMCU映画は『シャン・チー テン・リングスの伝説』です!

『ブラック・ウィドウ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 80% Audience 92%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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関連作品紹介

MCUの映画の感想記事です。

・『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』

・『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』

・『アベンジャーズ エンドゲーム』

MCUのドラマシリーズの感想記事です。

・『ワンダヴィジョン』

・『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』

作品ポスター・画像 (C)Marvel Studios 2021 ブラックウィドウ

以上、『ブラック・ウィドウ』の感想でした。

Black Widow (2021) [Japanese Review] 『ブラック・ウィドウ』考察・評価レビュー