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『星つなぎのエリオ』感想(ネタバレ)…地球人はクィアを検閲するのに忙しい

星つなぎのエリオ

そんな星にまだ居場所は見当たらない…映画『星つなぎのエリオ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Elio
製作国:アメリカ(2025年)
日本公開日:2025年8月1日
監督:マデリーン・シャラフィアン、ドミー・シー、エイドリアン・モリーナ
星つなぎのエリオ

ほしつなぎのえりお
『星つなぎのエリオ』のポスター

『星つなぎのエリオ』物語 簡単紹介

孤独を感じていたエリオという子は、いつか地球外生命体が自分のもとにやってきて、何光年も離れた遠い星の世界へ連れて行ってくれる日を夢見て、大好きな宇宙に思いを馳せていた。しかし、その日は来ない。それでも挫けずに毎晩のように星空を見上げていたエリオに対して、周囲も呆れるばかり。そんなとき、不思議な現象が起きて、夜空から眩い光が降り注いで…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『星つなぎのエリオ』の感想です。

『星つなぎのエリオ』感想(ネタバレなし)

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遠すぎる隣人にピクサー映画で会いに行く

「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」というものがあります。アメリカ航空宇宙局(NASA)が開発した宇宙望遠鏡で、地球の地表に設置されてはおらず、地球から150万kmも離れたはるか遠くの宇宙を漂っています。2021年12月25日に打ち上げられ、今も宇宙を観測し続けています。

そんなジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が地球から124光年離れた(1光年は光が1年かかって進む距離で、約9兆4600億km)巨大惑星に「生命がいるかもしれない」というこれまでで最も強力な証拠を見つけたと2025年に一部の天文学者は主張しましたThe Guardian

その惑星は「K2-18 b」と呼ばれていて、その証拠というのは特定の化学物質を検出したからです。科学者たちは「K2-18 b」を太陽系外で「最も居住可能な既知の惑星」とみなしています。

もちろんこれに懐疑的な見方をする専門家もいます。結局のところ、「地球外生命体がいる」と確実に断言できる唯一の方法は「この目で見る」ことなのでしょう。

でも124光年ですよ。ちょっと気軽に足を運べる距離じゃないです。宇宙の隣人と呼ぶにはあまりに…。

それでもその星かもわからないですけど、きっとどこかにいるであろう地球外生命体に想いを馳せて、今日も私たち人間は宇宙望遠鏡を起動させつつ、「地球外生命体とファースト・コンタクトする」映画を観て、いつか来るかもしれないその日の気分を味わうのです。

ということで本作『星つなぎのエリオ』の感想です。

『星つなぎのエリオ』は「ピクサー」の最新作アニメーション映画で、2023年の『マイ・エレメント』に続く新規のオリジナル作となります。やっぱりシリーズものではなくて、新規作をどんどん作ってほしいなと個人的には思っていますけど…。

今作はシンプルなストーリーで、ずばり「子どもが地球外知的生命体と出会う」というピクサー版『未知との遭遇』です。なんかわりとつい最近も実写映画『リロ&スティッチ』でそんな設定の物語に触れたばかりですが、『星つなぎのエリオ』は人間の子どもが宇宙の世界に踏み出すという点で多少の方向性の違いがあります。

まあ、でも『星つなぎのエリオ』があまりヒットしていないのは、直前に公開された(というかまだ劇場公開が続いている)『リロ&スティッチ』とネタ被りしているというのもあるんじゃないのかな…(スタジオ幹部は何を考えてこの公開スケジュールにしたのだろうか…)。

ともあれ奇想天外な地球外生命体がユーモラスなデザインでいっぱい登場するので、子どもの目を楽しませてくれるはず。エイリアン好きな(怖いほうの『エイリアン』じゃなくて)大人も満喫できます。

『星つなぎのエリオ』の監督としてクレジットされているのは、短編『夢追いウサギ』“マデリーン・シャラフィアン”『私ときどきレッサーパンダ』“ドミー・シー”『リメンバー・ミー』の脚本を手がけた“エイドリアン・モリーナ”の3名なのですが、これに関しては少々厄介な事情があって、そのあたりは後半の感想で言及します。

124光年も移動するのはとんでもなく大変ですが、それと比べたら『星つなぎのエリオ』を観賞するのは簡単ですので、気になる人はどうぞ。

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『星つなぎのエリオ』を観る前のQ&A

✔『星つなぎのエリオ』の見どころ
★ユーモラスなデザインで表現された奇想天外な地球外生命体たち。
✔『星つなぎのエリオ』の欠点
☆意外性のない平凡なストーリー。
☆創作の自由を損なう自己検閲。

鑑賞の案内チェック

基本 イジメの描写がわずかにあります。
キッズ 5.0
低年齢の子どもでも安心して楽しめます。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『星つなぎのエリオ』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

幼いエリオ・ソリスは両親を失って孤児となり、叔母のオルガのもとで暮らすことになりました。しっかり者のオルガは空軍少佐でしたが、甥を育てるために宇宙飛行士になるという自分の夢を諦め、現場職として今も真面目に働き、エリオのために懸命です。

一方のエリオはなおもこれまでの家族が消えたショックを引きずり、いつも塞ぎ込んでおり、居場所を求めていましたが見つかりそうにはありませんでした。周囲にいる同じような年齢の子がまるで別世界の住人のようです。

しかし、ある日、エリオはふと暗がりの施設に迷い込みます。そこはボイジャー1号宇宙船の非公開展示の部屋でした。訪問者に反応して、展示案内が始まり、宇宙には人類以外にも他の生命体がいていつか発見できるという可能性を知ります。

自分の知らない広大な世界がある…ならばそこにこそ自分の居場所があるのかも…。エリオの中で新しい希望が沸き上がります。

数年後、11歳のエリオは以前のような感情を沈ませてはいません。今は宇宙人に誘拐されることを願い、あれこれと試しまくっていました。砂浜に模様を描いて寝転がり、頭に自作の装置を被って、お手製のマントを身に着け、宇宙人を待つ…。きっと気づいてくれる…。学校も抜け出して、そのことだけに夢中です。

けれども期待していたことは起こりません。

ある夜、ブライスという少年がエリオのやっているアマチュア無線に興味を示して近づいてきます。彼も無線には関心があるようです。そのとき、ケイレブという別の子も接近し、彼は乱暴にアマチュア無線機をいじろうとし、慌てたエリオはもみ合いになり、左目を負傷してしまいます

その結果、エリオは治療のために2週間も眼帯をしなければならなくなり、オルガは無鉄砲さを怒ります。

とりあえずオルガの職場で大人しくするように部屋に閉じ込められるも、エリオは近くでやっていた会議にこっそり潜り込みます。そこではグンター・メルマックという変な男が、宇宙人が応答している証拠を発見したと主張し、宇宙人がメッセージを返していると興奮気味に語っていました。その証拠としているのが、よくわからない謎の音です。

その音はエリオの無線機からも流れており、盗み聞きしたエリオは胸が高鳴ります。本当に宇宙人はいる…!

しかし、周りの軍人は全然信用していないようです。

そこでエリオは解散した後にメルマックの装置をこっそり使ってメッセージを送信します。そのせいなのか軍事基地で停電が起きてしまい、行動がバレたことでオルガは再度激怒。

なおも大興奮のエリオに、オルガは「エイリアンは来ない」と言い放ちます。エリオもオルガは「家族ではない」と反発。喧嘩別れ状態です。

ますます孤立し、エリオはキャンプに半ば強引に参加するハメになります。真夜中、エリオはあのケイレブと仲間たちに追いかけ回され、森へと逃げるしかなくなります。

そしてエリオが殴られそうになったまさにその時、自分以外の全てが停止。さらにエリオの前に現れたのは、明らかにエイリアンの宇宙船のような飛行物体で…。

この『星つなぎのエリオ』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/08/02に更新されています。
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コミュニバースはまるで宇宙の海

ここから『星つなぎのエリオ』のネタバレありの感想本文です。

一般的に宇宙人に誘拐されることは恐怖の感情と結び付けられやすいですが(それこそキャトルミューティレーションのように)、この『星つなぎのエリオ』の主人公であるエリオは、場違いなほどに大喜びで地球外生命体に拉致されていきます。

この感情の逆転を表現するように、序盤の地球上で孤立するエリオのパートはとにかく絵面の色合いも徹底して暗く、また砂浜などで地面に横たわったりなど常に重力で沈んでいるような「重み」の描写も目につきます

対して、地球外生命体に導かれ、各惑星の大使が集う「コミュニバース」に舞台が移ると、絵面はとにかく色彩豊かで光に溢れていますし、体も常に浮き、重力を感じさせません。まるで全ての息苦しさから解放されたように…。

このエリオの心情を視覚的に映し出すアプローチは単純明快ですが、アニメーションとしてとても気持ちがいいです。

「コミュニバース」に集まる地球外生命体たちのビジュアルデザインもいいですね。

なんかこう全体的に、地球上の大昔から海に生存していた生物から着想を得たと思われるようなデザインをしています。古参の陽気なヘリックスはクリオネのような体型で、鮮やかなピンクでひらひらしているクエスタはラディオドンタやヒラムシみたいで、オーヴァはナマコ風の見た目で…。テグメンだけ古代遺跡の構造物みたいな非生物的存在ですが…。ユニバーサル・ユーザー・マニュアルでさえも、ちょっとこういう生き物が深海にいそうですもんね。

私は「コミュニバース」を最初に観たとき、「ああ、水族館の展示みたいだな」と思いましたよ。小さい子でも安心のキャラクター化された水族館パレードという感じ…。

でも、地球上の大昔から海に生存していた生物をモチーフにするのは、単に楽しいだけでなく納得力もあります。どこか他の星での生命の進化のもうひとつの可能性をみせるようなものですから。

ただ、最も魅力を感じたのはウゥゥゥゥ(英語名は「Ooooo」)でしたけどね。液状コンピュータで何でも自在に変形してサポートしてくれる…未来の身近なテクノロジーとしての可愛い理想形をみせてくれます。あれぞアニメーションだからこそできる存在感です。

そんな中、エリオとパートナーを組むメインの地球外生命体は、グロードンというクマムシっぽいずんぐりした生物で、正直、かなりデザインのバランスが大変そうです。でもそこはさすがのピクサーのアーティストなだけあって、絶妙に気持ち悪いと可愛いの中間を突っ切る遊び心のあるキャラクターに仕上がっていました。

このように『星つなぎのエリオ』は世界観が目移りするほどに広大で、『E.T.』のような1対1の関係性をじっくりみせるよりも、まずこの世界観に放り込んでくれる楽しさが持ち味だったのかなと思います。

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地球人の愚かな自己検閲

世界観はとても個性を放つ『星つなぎのエリオ』ですが、肝心のメインストーリーは平凡でした。大方の観る前から予想がつくほどに予定調和な起承転結。意外な展開で王道から逸れることもなく、これだけ人智を超えた生き物が揃っているというのに、起きることに意外性は一切ありません

グロードンとグライゴン(なんかポケモンの進化系みたいなネーミングだな…)の親子関係をエリオとオルガに重ねるにしても、ちょっとウェルメイドに落ち着かせすぎのような…。

脇役のキャラクターももったいなく、メルマックの活かし方もあまりに普通すぎますし、何よりもエリオのクローンといういくらでも物語の核として面白くできる存在をああもあっけなく片づけるのは…。

それでこの『星つなぎのエリオ』の「平凡さ」の事情として推察されるに、本作の製作におけるゴタゴタが影響している可能性が浮上していることに言及しないわけにはいきません。

そもそも『星つなぎのエリオ』は“エイドリアン・モリーナ”監督の企画として始まったオリジナル作で、彼の個人的体験が土台になっているそうです。だからこそメキシコ系の“エイドリアン・モリーナ”監督を投影する主人公のエリオもラテン系になっていますし、監督が軍関係の家庭で育ったゆえに、作中のエリオの立場も同じになっています。

で、“エイドリアン・モリーナ”監督は製作途中だった2024年に突然作品から降りることが発表されたんですね。表向きは次回作に専念するためのように語られていましたが、もう2024年時点でほぼ完成していたらしく、このタイミングでわざわざ降板するのは変です。

その理由が本作公開後に内部関係者からリークされました。どうやらゲイでもある“エイドリアン・モリーナ”監督は、この『星つなぎのエリオ』の主人公のエリオについてクィアを示唆する描写を盛り込んでいたものの、社内試写の後にスタジオ幹部の指示でことごとく削除されてしまって、それに失望して作品から降りた…というのですThe Advocate

報道によれば、本来の“エイドリアン・モリーナ”監督版には、エリオがビーチでゴミを集めてピンクのタンクトップに作り替え、ヤドカリにショーを披露するシーンや、エリオの寝室に男性に惹かれていることを示唆する写真が飾られているシーンなどがあったとのこと。それは全て作り直され、エリオのその既存の“男らしくなさ”はまるっとカットされました

劇場公開された完成版は“マデリーン・シャラフィアン”と“ドミー・シー”の2人が監督としてスタジオ幹部の意向に沿って修正したバージョンということになります(公開後のプロモーションもこの2人の監督が主に対応している)。

ここ最近のディズニー&ピクサーはLGBTQ表象を露骨に自己検閲する出来事が頻発しています。例えば『ムーンガール&デビル・ダイナソー』『ウィン OR ルーズ』ではトランスジェンダーに関わるエピソードや描写をごそっと削ぎ落しました。

こういう行為は本当に許せないことです。表現の自由の侵害なのは言うまでもありませんが、作品を著しく台無しにします。

『星つなぎのエリオ』だってエリオがクィアであることが示唆されていれば、物語の説得力が全く変わってきたと思うのです。劇場公開版だと、エリオは両親の死と今の家庭の居場所の無さだけに苦しんでいることになっており、これだとオルガの接し方の問題にみえかねません。もしエリオがクィアだとすれば、その孤立の苦悩はもっと複雑であり、親というアライを失ったとか、軍事業界の保守性と相まって、抑圧がよりリアルに響きます。

それに“エイドリアン・モリーナ”監督の個人的想いを込めた作品で、キャラクターのアイデンティティの一部を削除することは、作り手の人生に手を加えるようなもので、失礼極まりないでしょうし…。

ディズニー&ピクサーがクリエイターの創作への情熱を検閲するなら、それはもうスタジオとして致命的です。ただのIP製造工場でしかないです。

たぶんこの地球を遠くから観測している地球外知的生命体は、この星に住むヒトという生物が同種間のマイノリティを差別するという愚かな行為をしなくなったら、会いに来るつもりなのかもしれない(そうじゃないと自分たちも攻撃されるリスクがあるし…)。だから今までずっとコンタクトしてこないのだろう…。最近は本気でそう思えてきていますよ…。

『星つなぎのエリオ』
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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関連作品紹介

ピクサーの映画の感想記事です。

・『インサイド・ヘッド2』

・『バズ・ライトイヤー』

作品ポスター・画像 (C)2025 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

以上、『星つなぎのエリオ』の感想でした。

Elio (2025) [Japanese Review] 『星つなぎのエリオ』考察・評価レビュー
#アメリカ映画2025年 #ピクサー #マデリーンシャラフィアン #ドミーシー #エイドリアンモリーナ #地球外生命体 #楽しい

アニメ(海外)
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シネマンドレイク

ライター(まだ雑草)。LGBTQ+で連帯中。その視点で映画やドラマなどの作品の感想を書くことも。得意なテーマは、映画全般、ジェンダー、セクシュアリティ、自然環境、野生動物など。

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