感想は2300作品以上! 詳細な検索方法はコチラ。

2024年のハリウッド映画スタジオにおけるLGBTQ表象【GLAADレポートまとめ】

プライド月間

LGBTQ(セクシュアル・マイノリティ)は映画にはあの1年でどれくらい描かれてきたのか?

それに関心がある人にとって、必見のレポートが毎年公開されています。「GLAAD」による「Studio Responsibility Index(SRI)」です。

そこで今回はこの「GLAAD」による「Studio Responsibility Index」について、2024年(アメリカでの劇場公開)の概要を日本語で私なりにまとめて紹介することにします。あくまで概要なので詳細は実際の「Studio Responsibility Index」を確認してください(ネット上で公表されています)。

「GLAAD」とは? 「Studio Responsibility Index」とは?

「GLAAD」という組織や、「Studio Responsibility Index」というレポート自体についての詳細は、以前の記事(以下)で整理しているので、そちらを参照してください。「GLAAD」独自の評価方法「Vito Russo Test」についてもその記事内で解説しています。

毎年、前年の映画の状況をまとめた「Studio Responsibility Index」が公開され、2025年も2024年の作品を扱った「Studio Responsibility Index」が公表されました。

以下に詳しく内容を紹介していきます。

全体の概要(割合・性別・人種など)

2024年対象の「Studio Responsibility Index」では、対象となったハリウッドにおける映画の総数は「250」でした。2024年あたりからハリウッドの大手企業はリストラや企画縮小を増やし、業界全体が鈍っており、映画作品数も増えていません。

ここからどれくらいのLGBTQ表象があるのかを集計しています。

2024年の映画「250」のうち、LGBTQのキャラクターが認められた作品の数は「59」、割合では「23.6%」でした。前年の「27.3%」と比べて減少しました。

2024年の映画では「Vito Russo Test」に合格した映画は全体の18%(LGBTQ映画59作のうちで75%)でした。去年とそこまでの大きな変化はありません。

LGBTQキャラクター数は「181人」(前年は「170人」)。前年よりも増えていますが、登場シーンが極めて一瞬だったり、物語に影響がないものであったりするという事実もあるので、その点を踏まえないといけません。実際、1分以下しか出番のないキャラクターが37%を占めています。1~5分以下の出番のキャラクターも21%なので、全体の5割以上です。トイレで少し離れただけで劇場でLGBTQキャラクターを見逃してしまうレベルです。

このうち、87人(48%)男性90人(50%)女性4人(2%)ノンバイナリーでした。女性キャラクターのうち1人とノンバイナリーの1人の計2人トランスジェンダーでした。2024年は女性が男性を上回りましたが、これには後述する理由があります。

32作品(54%)ゲイ男性23作品(39%)レズビアン女性15作品(25%)バイセクシュアル+2作品(3%)トランスジェンダー3作品(5%)ノンバイナリー3作品(5%)にラベル特定できないクィアなキャラクターが含まれていました。前年よりはレズビアンとバイセクシュアルは増え、ノンバイナリー表象もあり、多様にはなりました。しかし、相変わらず2024年もアセクシュアルの明確な表象はひとつもなく、アセクシュアル表象のハリウッド映画での少なさは根深い課題です。

有色人種は66人(36%)白人115人(64%)に対して、黒人19人(10%)ラテン系12人(7%)API(Asian/Pacific Islander:アジア・太平洋諸島系)は18人(10%)マルチレイシャルの人は9人(5%)MENA(Middle East & North Africa:中東・北アフリカ地域)は2人(1%)先住民3人(2%)でした。2024年は黒人の表象の大幅な減少が目立ち、白人の割合が増えているのがハッキリと差として表れています。6割を超える白さということで、白人中心的なレプリゼンテーションになっているのは残念なところです。

LGBTQキャラクターが登場するジャンルとしては、45%「コメディ」25%「ドラマ」11%「ホラー」8%「アニメ/ファミリー」14%「アクション/SF/ファンタジー」でした。2023年と比べるとホラーと、子ども向けアニメ映画やファミリー映画での減少が著しいです。

7人(4%)のLGBTQキャラクターが何かしらの障害者であるとカウントされました。HIVとともに生きているキャラはゼロでした。障害者のキャラはやや増えたということになります。とは言え、現実の障害者のバリエーションの豊かさと比べると映画にでてくるキャラクターはパターン化しているものが多いですが…。

スタジオごとの評価

次に映画スタジオごとの評価を見ていきましょう。

「GLAAD」の「Studio Responsibility Index」では、単純にLGBTQキャラクターが描かれていたかという有無だけではなく、その量や質、多様性なども評価項目として、映画スタジオに「Excellent」「Good」「Fair」「Insufficient」「Poor」「Failing」の6段階評価を与えています。

なお、ドキュメンタリー映画はカウントしていませんが、別個に紹介はされています。

2024年の結果は以下のとおりです。

A24
16作品中でLGBTQ映画は9作(56%
評価 – Good(前年は「Insufficient」)
Amazon(アマゾン)
25作品中でLGBTQ映画は8作(32%
評価 – Fair(前年は「Good」)
Apple(アップル)
4作品中でLGBTQ映画は1作(25%
評価 – Insufficient(前年は「Failing」)
Lionsgate(ライオンズゲート)
44作品中でLGBTQ映画は8作(18%
評価 – Poor(前年は「Insufficient」)
NBCUniversal(ユニバーサル)
25作品中でLGBTQ映画は4作(16%
評価 – Fair(◆前年は「Fair」)
Netflix(ネットフリックス)
49作品中でLGBTQ映画は14作(29%
評価 – Poor(前年は「Fair」)
Paramount(パラマウント)
16作品中でLGBTQ映画は3作(19%
評価 – Insufficient(◆前年は「Insufficient」)
Sony(ソニー)
33作品中でLGBTQ映画は4作(12%
評価 – Insufficient(◆前年は「Insufficient」)
Disney(ディズニー)
23作品中でLGBTQ映画は5作(22%
評価 – Poor(前年は「Insufficient」)
Warner Bros. Discovery(ワーナー)
15作品中でLGBTQ映画は3作(20%
評価 – Insufficient(前年は「Poor」)

2024年は「Good」評価を得たスタジオは「A24」だけでした(相変わらず「Excellent」評価はひとつもなし。現れることはあるのか!?)。

2024年の「A24」はLGBTQ包摂的な映画が充実しており、『ベイビーガール』『愛はステロイド』『テレビの中に入りたい』『クィア/QUEER』『We Live in Time この時を生きて』『Y2K』『Problemista』などなど、各種揃えており、全体の50%を超えたのは嬉しいところ。この調子で表象をクリエイティブに盛り上げてほしいものです。

「Amazon」のラインナップには、LGBTQの表現において際立った作品がいくつかあり、その筆頭がGLAADメディア賞を受賞した『マイ・オールド・アス 2人のワタシ』。一方で「Vito Russo Test」に合格していないにもかかわらず、LGBTQコミュニティの一部から熱狂的な支持を集めた『チャレンジャーズ』なんていう映画もあったりと、レプリゼンテーションの良さと話題性は必ずしも当事者の反応として一致しないことを表す印象的な事例になりました。

「Amazon」は『ファンシー・ダンス』でクィアな先住民の表象という貴重な一作を届けましたが、こういう複数のマイノリティのアイデンティティが複雑に絡み合う映画がもっとあっていいでしょう。

「NBCUniversal」は玉石混交でした。『ドライブアウェイ・ドールズ』には20人以上のLGBTQキャラクターが登場し、そのほとんどが女性だったこともあり、2024年の女性表象の割合の高さはこの映画に支えられたといっても過言ではないでしょう。大ヒット作だった『ウィキッド ふたりの魔女』はクィアなキャラクターはイマイチな存在感でした。なお、『教皇選挙』もありましたが、このレポートではインターセックスは集計していないようです。

「Netflix」は『エミリア・ペレス』という大問題作を食らわせるという惨事を引き起こしました。この映画の波紋は語り切れないですが、当事者に有害な比喩や時代遅れの物語も問題ですが、クィアな批評家の不足も浮き彫りになった事案ではありました。

具体的な映画ごとの評価は「Studio Responsibility Index」内の各スタジオのページで確認できます。

2024年のレポートを振り返って…

この「GLAAD」の「Studio Responsibility Index」はあくまでアメリカのハリウッドにおける映画の状況を集計したものです。ドラマシリーズは含んでいません。

2024年はLGBTQの表現は全体的に減少しており、LGBTQキャラクターのスクリーンタイムも減少しています。2023年も悪化していたので、悪くなり続けていることになります。

あらためてわかるのは、LGBTQ表象というのは時代や業界の風向きを反映する物差しのようになっているという実態です。LGBTQ表象というのは最も弱い立場にいる「表現の自由」です。なのでちょっとした情勢の変化によって簡単に消えてしまいます。

2024年あたりからハリウッドの大手企業は大量のリストラを決行し、さらに企画縮小を増やしています(そのわりにはトップの役員やCEOは超高額の報酬を貰っていますが…)。業界全体が積極性を失っており、慎重に「儲かる定番の作品」だけを作ろうとする傾向が目立っています。

そうなってくると映画作品数も増えません。結果、意欲的かつ挑戦的な作品は真っ先に減らされていきます。まるでLGBTQ表象が映画業界の発展の足を引っ張っていると非難されているかのように…。

LGBTQ表象は映画業界においてもスケープゴートにされやすいとも言えます。

でもその非難は事実ではありません。

2024年にLGBTQ表象が充実していた「A24」はこの年にスタジオ史上初めて興行収入2億ドルを突破しました。良いLGBTQ表象には大規模な予算は必要はありません。中予算映画でもじゅうぶんです。なおかつLGBTQコミュニティは映画を支える力に溢れています。

良いLGBTQ表象と映画業界は上手く力を合わせて互いを高め合うことができる可能性を秘めています。

悪い流れを吹き飛ばす未来を信じていきたいです。


以上、「GLAAD」の「Studio Responsibility Index」の概要のまとめでした。

私が独自に2024年のLGBTQ作品を振り返った記事も以下に紹介しておきます。

雑談
気に入ったらぜひシェアをお願いします
スポンサーリンク
シネマンドレイク

ライター(まだ雑草)。LGBTQ+で連帯中。その視点で映画やドラマなどの作品の感想を書くことも。得意なテーマは、映画全般、ジェンダー、セクシュアリティ、自然環境、野生動物など。

シネマンドレイクをフォローする