ソダーバーグがついに映画館に舞い戻る…映画『マジック・マイク ラストダンス』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2023年3月3日
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
性描写 恋愛描写
マジック・マイク ラストダンス
まじっくまいく らすとだんす
『マジック・マイク ラストダンス』あらすじ
『マジック・マイク ラストダンス』感想(ネタバレなし)
ソダーバーグ、劇場に再登場
「5類になれば、マスクも外出制限も無しで元どおりだ!」みたいな科学根拠もへったくれもない雑な雰囲気で、パンデミックからの復興を果たそうとしている日本社会ですが、映画館に限ればほぼ日常と変わらない姿が戻ってきています。
私は隣の座席を開けるスタイルが結構好きだったので、部分的に維持してくれないかなと思うのですけど…。
劇場公開される作品もすっかり充実した状態に復活。いつもの見きれないくらいの公開数です。パンデミック初期の完全に劇場公開映画が消えたあの空気が嘘のようですよ…。あれは今思い出してみると凄い経験だったな…。
そんな中、この監督の映画も映画館に帰ってきました。
その人とは“スティーヴン・ソダーバーグ”監督です。
“スティーヴン・ソダーバーグ”監督は、1989年に20歳代で初めて監督した長編映画『セックスと嘘とビデオテープ』でいきなりカンヌ国際映画祭のパルム・ドールを受賞し、映画業界を沸かせた逸材。それ以降も何かと注目を集めてきました。
しかし、2017年の『ローガン・ラッキー』を最後に、映画館ではすっかりご無沙汰になってしまいます。でも映画はめちゃくちゃ量産しているのです。2018年の『アンセイン 〜狂気の真実〜』は配信スルー、2019年の『ハイ・フライング・バード 目指せバスケの頂点』と『ザ・ランドロマット パナマ文書流出』はNetflix配信、そして2020年の『レット・ゼム・オール・トーク』と2021年の『クライム・ゲーム』、2022年の『KIMI サイバー・トラップ』はアメリカ本国では「HBO Max」配信で、日本では配信スルー。
ここまで劇場から存在感が消えてしまうと、2010年代後半から映画ファンになった人たちなら「スティーヴン・ソダーバーグって誰ですか?」と思われても無理ありません。
でもその“スティーヴン・ソダーバーグ”監督がこの映画で映画館に舞い戻ってくるなんて、それこそドラマチックじゃないですか。これ以上にうってつけの映画はないでしょう。
それが本作『マジック・マイク ラストダンス』です。
本作は2012年に“スティーヴン・ソダーバーグ”監督作の『マジック・マイク』として公開され、2015年にはその続編の『マジック・マイク XXL』(2作目の監督は“グレゴリー・ジェイコブズ”)も作られたシリーズ。男性ストリッパーを主題にした物語であり、当然のようにセクシーなパフォーマンスも見どころで、主演の“チャニング・テイタム”を一躍人気スターへと押し上げました。
『マジック・マイク ラストダンス』はシリーズ3作目となります。
正直、3作目は何をするんだろう?と鑑賞前は個人的には思ったりもしました。なにせ2作目の時点で主人公はストリッパーとしては引退し、その主人公がストリップに舞い戻ってかつての仲間たちとあの興奮をまた味わうという、定番の展開をやってしまいましたから。
けれどもそこはさすが“スティーヴン・ソダーバーグ”、ちゃんと考えていました。ただ、これは期待していたのと違うという反応になる観客もいるでしょうね。ネタバレできないのであれですが、ベタに3作目だからさらにボリュームアップしてお祭り感を増しました!みたいな発展ではないです。実に“スティーヴン・ソダーバーグ”らしいテイストですよ。
第3弾の『マジック・マイク ラストダンス』ももちろん主人公を演じるのは“チャニング・テイタム”。今回の共演、というかヒロインは、『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』『エターナルズ』『ハウス・オブ・グッチ』と多彩に活躍中の“サルマ・ハエック”です。
他の出演陣は、ドラマ『Ackley Bridge』の“アユーブ・カーン・ディン”、ドラマ『絶叫パンクス レディパーツ!』の“ジュリエット・モタメド”、ドラマ『Bad Education』の“ヴィッキー・ペッパーダイン”など。
意外なアプローチもある3作目の『マジック・マイク ラストダンス』と紹介しましたが、しっかり圧巻のパフォーマンスは用意されているのでご安心を。
なお、本作は案外とヌードシーンがないのでレーティングも低めなのですが、肝心のパフォーマンスは過去作以上にセクシャルに攻めているので、そのあたりは留意してください(まあ、あまり子どもが見ようとは思わないだろうけど)。
『マジック・マイク ラストダンス』を観る前のQ&A
A:『マジック・マイク』『マジック・マイク XXL』の過去2作を観ておくと主人公の背景がわかってさらに楽しめますが、絶対に鑑賞必須というほどでもありません。
オススメ度のチェック
ひとり | :シリーズ好きなら |
友人 | :一緒に興奮を |
恋人 | :異性ロマンスあり |
キッズ | :性的演出が多め |
『マジック・マイク ラストダンス』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):またパフォーマンスを…
マイアミのリッチな邸宅。海辺でビル街を見つめるサングラス男がひとり。マイク・レーンは過去の残影を思い出していました。
マイクは以前は偶然に誘われて始めたストリッパーの仕事で一躍話題となり、栄光を味わったこともありましたが、そこからすっかり遠ざかってしまっていました。一時的に復帰したこともありましたが、それも昔の話です。家具関連のビジネスの本業は新型コロナウイルスのパンデミックによって成り立たなくなり、その仕事は絶たれ、今ではケータリング会社のバーテンダーとして淡々と生活費を稼ぐ日々です。
今日はこの邸宅で大勢が招待されたイベントが行われており、主催者は資産家のマクサンドラ・“マックス”・メンドーサ。あんなことがあった世の中でもやはり成功者は健在なのでした。
バーテンとして対応していると、マックスの財団の弁護士であるキムに話しかけられます。実は彼女はマイクがストリッパーだった時期を知っていました。あまりそのことを語りたくないマイクは、話を手短に切り上げて仕事に戻ります。
かつての仲間のティトから電話がかかってきますが、でる暇もなく呼び出されます。今はただのバーテンダーなのです。
呼び出したのはなんとマックスでした。どうやらキムから話を聞いたようで、マイクに関心を持っている様子。ひそひそ声で「今もパフォーマンスするのか?」と聞いてきます。やる気がなかったマイクは「60000ドルなら」と絶対に相手が躊躇うであろう法外な価格を提示してやり過ごそうとしますが、意外にもマックスはそれでも諦めませんでした。
そこで渋々マイクは準備を開始します。広々とした室内をやりやすいように整理。ムードのある音楽をかけ、椅子にマックスを座らせ、いざパフォーマンス開始。
手を優しくとり、自分の体を這わせ、そして情熱的に体をくねらせて密着させます。マックスは身を任せてうっとり。マイクは上半身を半裸になり、マックスを持ち上げ、さらに恍惚とさせていきます。机に寝そべらせて、さらに肌を露わにして絡みつき…。
気づけば2人はベッドでべったりくっつきながら目覚めるのでした。
そこでマックスは一緒にロンドンに行ってくれないかと誘います。あくまで付き添いに思えましたが、マックスには狙いがありました。
マイクはロンドンに同行。その間にもまた昔の仲間であるビッグ・ディック・リッチーからの電話もかかってきますがこれも無視。
マックスはマイクに小綺麗な服装を買い与え、シアターに案内させます。ここで最高のショーを披露すること。それがマックスが今まさに取り組んでいることであり、才能のあるマイクにそのまとめをお願いしたいと考えていたのでした。
目的を見失って彷徨っていたようなマイクはその機会に流れのままに乗っかり、しだいに過去に忘れてきた情熱を取り戻していきますが…。
チャニング・テイタムと重ねて
『マジック・マイク』という映画シリーズは、例えるなら『ロッキー』と同じで、俳優と人生が紐づかれた作品群です。ストリッパーとして働いていた経験のある“チャニング・テイタム”にとっては、このシリーズは他人事ではないでしょう。
“チャニング・テイタム”は以前はそれこそ『マジック・マイク』で発揮されたようなセクシーなマッチョ男性として一世を風靡し、映画界でその地位を獲得しました。しかし、最近はそのジェンダー・ステレオタイプを反面教師にするような役柄という新しいアプローチを開拓しており、『ザ・ロストシティ』ではそのあたりを上手くやっています。
でもこれは言ってしまえば、多くの場合で女性に奉仕することになるパフォーマンス・サービスを生業とする男性ストリッパーの役割の延長でもあり、“チャニング・テイタム”が最近の映画で「女性を健全にサポートする男性」として活路を見せているのもそれと地続きな気がします。“チャニング・テイタム”はそもそも以前からこれが得意なんでしょう。
今回の『マジック・マイク ラストダンス』も、序盤にマックスの要望でパフォーマンスをいざ始めてみると途端に空間を独占して魅了できるパワーをこれでもかと見せつけ、その実力を証明します。“チャニング・テイタム”はやっぱり凄いなという有無を言わせない説得力がありますよね。
でもこの映画は“チャニング・テイタム”の凄さを見せつけることに終始しません。それは序盤で終わりです。残りをかけて別のことに軸足を移すのですが、一方で“チャニング・テイタム”演じるマイクはお役御免で放置なのかというとそうでもない。
本作はこの迷えるマイクを次のキャリアに誘ってあげるような、そういう丁寧な導線を用意してあり、単なるパフォーマンス・ショーという派手なエンタメでは終わらない、非常に静かなキャリアと向き合う映画なのだと思います。
コロナ禍の後にも未来はある
『マジック・マイク ラストダンス』はアフター・コロナを描く映画という側面もあります。
“スティーヴン・ソダーバーグ”監督は以前には『KIMI サイバー・トラップ』でコロナ禍の最中の社会を舞台にしてみせていましたが、監督も過去に『コンテイジョン』で感染症を題材にしただけあって、この分野を取り扱うのに慣れており、今作でもサクっとそれに向き合っていました。“スティーヴン・ソダーバーグ”監督は社会問題を下地にしたうえでさりげなく物語を構築するのは得意です。
そしてこの『マジック・マイク ラストダンス』は、コロナ禍で大きな損害を受けた興行の各種業界に再び活力を与えるかのような、そんな優しい目線のある映画だったと感じました。
主人公のマイクもコロナ禍で家具ビジネスが成り立たなくなり、かといって以前のようにストリッパーで稼ぐことも今回ばかりはできなかったでしょう。ロックダウンと感染症対策規制は、セックスワーカーやパフォーマーには甚大な雇用消失をもたらしたのは言うまでもなく…。
完全に覇気を失ってしまったマイクはマックスの誘いでロンドンへ向かい、これはある種のリハビリテーションみたいになっています。
そこで自身をケアするだけでなく、他にもあのコロナ禍で居場所を失ってしまったであろう、大勢の興行の世界に身を捧げてきた才能ある者たちと出会い、その人たちを集めさせて、一緒に創造していく。これは創るリハビリです。
本作はコロナ禍から連帯して復帰していきましょうと手を取りあう、そんな優しい物語でもありました。それを抑えたトーンでドキュメンタリー風に撮っているかに思えば、バスでのシーンのようにユーモアたっぷりに見せたり、遊び心もありつつ、そこは“スティーヴン・ソダーバーグ”監督の真面目さも窺えるタッチだったのではないでしょうか。
確かに辛いことはいっぱいあった…でもまたこの世界で一緒に頑張ろうね…という…。
そのことを踏まえて噛みしめていると、終盤の映画ラストのパフォーマンスもまた違った格別な感動があるものです。エンターテインメントは感染症で死ぬことはないのだ…そんな宣言にも思えてくる。
最終的にマイクとマックスは仲を深め、パーティの中に消えていきます。非常に盛り上がりの薄い、ささやかなエンディングです。大団円が観たい人には物足りないでしょう。
けれどもマイクたちエンターテイナーの人生は映画で描かれるかに限らずいつまでも続くのだということを描いているようにも感じ、これはこれでこの『マジック・マイク ラストダンス』にはふさわしいラストだったと私は納得しました。
今日もどこかでエンターテインメントを築いている人たちに、いつまでもエネルギーが降り注ぎますように…そう私も願っています。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 49% Audience 74%
IMDb
5.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
スティーブン・ソダーバーグ監督作の映画の感想記事です。
・『クライム・ゲーム』
・『レット・ゼム・オール・トーク』
・『ザ・ランドロマット パナマ文書流出』
作品ポスター・画像 (C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved マジックマイク ラスト・ダンス
以上、『マジック・マイク ラストダンス』の感想でした。
Magic Mike’s Last Dance (2023) [Japanese Review] 『マジック・マイク ラストダンス』考察・評価レビュー