考察されるのは私たち…映画『ザ・ウォッチャーズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2024年6月21日
監督:イシャナ・ナイト・シャマラン
交通事故描写(車)
ざうぉっちゃーず
『ザ・ウォッチャーズ』物語 簡単紹介
『ザ・ウォッチャーズ』感想(ネタバレなし)
マジックミラー越しに見るのは…
私はまだ世の中を知らない小さい頃は「マジックミラー」なんて大人の嘘で、本当は実在しないんだと思ってましたよ。一方からはガラスのように透明で、反対からは鏡になる…そんなものあるわけない…と。
だから本当にあると知ったとき、目を疑いました。実在してる…!ってびっくりです。
マジックミラー…これは和製英語で、本来の英語だと「one‐way mirror」と言います。英語圏の人に「magic mirror」と口走ってしまうと「魔法の鏡? なんでこいつ、急にメルヘンチックなこと言い出したんだ?」と思われかねないです。
そのマジックミラーの仕組みですが、反射率を調整することで光の反射と通過をコントロールしています。暗いところからマジックミラー越しに明るいところは見えますが、明るいところからマジックミラー越しに暗いところからは見えません。これは通常のガラス窓でも類似の現象が起きますが、マジックミラーはそれをより強化しています。
この明暗の差というのがミソになってくるので、頭にしっかり入れておきたいところ。とくに今回紹介する映画の場合は、マジックミラーが仕掛けになってきますから。
それが本作『ザ・ウォッチャーズ』です。
本作はまずは監督の名から紹介することになるのかな。この映画の監督は“イシャナ・ナイト・シャマラン”。シャマラン…シャマラン? そうです、あの映画ファンを良くも悪くもザワつかせるイタズラっ子な問題児…“M・ナイト・シャマラン”。その娘のひとりが“イシャナ・ナイト・シャマラン”であり、今回はその長編映画監督デビュー作となります。
“イシャナ・ナイト・シャマラン”は、父の監督作である『オールド』(2021年)や『ノック 終末の訪問者』(2023年)でもセカンドユニット・ディレクターを務めていました。
さらに父がノリノリで作ったドラマ『サーヴァント ターナー家の子守』でも一部の話数でエピソード監督をしていました。
なので監督業はもうじゅうぶん現場経験があるでしょうし、デビュー作というほどにビギナーではありません。しかし、まだ20代半ばと若いですから初々しいのは事実ですけど。
なお、“M・ナイト・シャマラン”にはもうひとり”サレカ”という娘がいて、“イシャナ”の姉なのですが、”サレカ”のほうは音楽アーティスト活動をしており、“イシャナ・ナイト・シャマラン”はそのミュージックビデオもずっと手がけてきたみたいです。仲いいですね、この家族。相変わらず本作も“M・ナイト・シャマラン”が自費で製作予算を確保しているみたいだし…。自分で自分のケツを拭く…家族に継承される流儀…。
『ザ・ウォッチャーズ』は“イシャナ・ナイト・シャマラン”が監督するだけでなく、脚本もしており、どうしたって父親譲りのストーリーテリングのセンスがあるのかと注視されるところでしょう。まあ、本人的にもわかってると思いますが、そこは避けらない宿命か…。
ちなみに本作は原作があり、“A. M. シャイン”というアイルランドのホラー作家の作品です。なのでオリジナルではないこともあり、そんなに“イシャナ・ナイト・シャマラン”監督の色は出しづらかったんじゃないかなとも思います。
『ザ・ウォッチャーズ』の物語は…どこまでネタバレ無しで言及していいものなのか…。ただ、ひとつ言っておきたいのは、タイトルといい、『裏窓』みたいな覗き見スリラーのジャンルとして宣伝されていますが、そういうジャンル性をあまり期待しないほうがいいです。
じゃあ、本当はどういうジャンルなんだと聞かれると、それは答えられないですが…。でももうヒントはだしたのでわかる人はわかる…はず。
とりあえず上記の「簡単紹介」で書いている以上の内容は伝えられない…。
そんなにホラーとしても怖さは煽られないので、ホラー苦手な人でも見やすいかもしれません。
『ザ・ウォッチャーズ』で主人公を演じるのは、“ダコタ・ファニング”です。『イコライザー THE FINAL』などいろいろなジャンルの映画にでていますが、今作の起用の理由は観ていくと「あ、そういうこと?」と察せられる…。
共演は、『バーバリアン』の“ジョージナ・キャンベル”、ドラマ『世にもおぞましい物語』の“オリヴァー・フィネガン”、『悪魔のいけにえ レザーフェイス・リターンズ』の“オルウェン・フエレ”など。
『ザ・ウォッチャーズ』を観た後は、鏡に不気味さを感じるか、他人に不信感を抱くか、それともインコに同情するようになるか…そのどっちかな(観ればわかる)。
『ザ・ウォッチャーズ』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :雰囲気が気になるなら |
友人 | :盛り上がりは薄いけど |
恋人 | :恋愛要素は無し |
キッズ | :残酷描写はほぼ無し |
『ザ・ウォッチャーズ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
「POINT OF NO RETURN」とぎこちない手書きで書かれた看板を通り過ぎるひとりの人物。ここは雪が薄っすら積もった殺風景な森。その人物は懸命に走っています。しかし、走っても霧の奥にまたあの看板があるだけ。何かでできた不気味なオブジェも一緒です。
その人物は時計を気にして、茫然とします。頭上の空を何かの生き物が埋め尽くすように飛び去り、その後、その人物は怯えるように木を登ります。けれども、足を滑らせ真っ逆さまに落下。かろうじて這うように進み、鞄から刃物を取り出して身構えます。
「あり得ない…」と呟き、その人物は悲鳴をあげて何かに引きずられ、森の奥へと消えるのでした。
ところかわって、とあるペットショップ。ミナはここで働いていました。ダーウィンという黄色いインコを配達することになり、一旦、自分の家に連れて帰ります。
その夜、ミナはウィッグをつけて見た目を変え、バーに行き、そこではキャロラインと名乗り、架空の生い立ちで会話を楽しみます。
翌日、車であのインコと共に配達先へ向かいます。自然広がる地方の道路をずっと走っていきます。途中で寄ったスタンドでは行方不明者のチラシが掲示板にたくさん貼られていましたが、ミナは気にも留めません。
ところが森の中で車が立ち往生してしまいます。故障かもしれませんが自力で直せません。やむを得ず車から離れてインコの籠を持ちながら周囲に人がいないか探します。しかし、少し歩いただけで車の場所もわからないほどに迷い込んでしまいました。そこまで歩いたつもりはなかったのに…。
途方に暮れていると、地面の揺れと何かの気配を感じます。身の危険を感じ、困惑。そのとき、何かの施設の扉のようなものが開き、中からマデリンという女性が現れて、内部へ来るように誘います。そこにはマデリンの他に、キアラ、ダニエルという若者もいました。
この部屋は普通ではありませんでした。ソファと机、小さなテレビがありますが、生活感はなく、片面に壁のように鏡があります。マジックミラーのようです。
マデリンはこの部屋は鏡の向こう側の森にいる「ウォッチャー」に監視されていると説明してきます。信じられないミナはひとりここから去ろうとしますが、霧深い森を抜けて、開けた場所にであるも、そこに広がるのは山々の森のみ。
追いついたマデリンは森に立つ「POINT OF NO RETURN 44」と書かれた看板をみせてくれ、脱出は困難だと熟知しているように語ります。
ウォッチャーは日光の下には出られないそうで、日中なら森は安全ですが、日没を過ぎると危険だそうです。キアラにウォッチャーが棲んでいるという穴を教えてもらい、現実感を深めます。
しかし、もっと恐怖の真実が待ち構えていました。
ウォッチャーの正体
ここから『ザ・ウォッチャーズ』のネタバレありの感想本文です。
『ザ・ウォッチャーズ』の核心部分のネタバレに入ります。
本作はジャンルとしては「フォークホラー」…具体的にはゴシックな「入れ替わり」モノでした。あの長身「ウォッチャー」の正体は、地下施設で研究者が語るように「ハーフリング」という超自然的な存在。人間に化けるために人間の行動を鏡越しに観察する習性がありました。動画配信サービスで映画とか観るほうがたくさん安全に観察できるよって教えてあげたい…。
それにしてもあの研究者の描写はだいぶ雑ではあったな…。現実の大学勤めの教授はめちゃくちゃ事務や組織に縛られるので、あんな森の中で孤独に研究とかできないですよ。
本作はこのフォークホラーであることを序盤はかなり隠してます。主人公もアメリカ人で、舞台のアイルランドっぽさが脱色されています。
森から脱出できた終盤になるともう隠すこともないので、アイルランドらしいケルトな音楽も鳴りながら、マデリンの正体も明らかになり、本作の全容がオープンとなります。
覗き見スリラーとしては、一応はマジックミラーの目的というあたりはミステリーにはなっていました。それに関しては冒頭から結構くどいくらいにヒントをだしまくっており、例えばペットショップという「他の動物を鑑賞できる空間」であったり、インコを連れて行くということで籠の鳥になる人間を示唆したり、伏線はいろいろありました。
ちなみにあのインコ(ニョオウインコかな)、インターネットで「the watchers parrot」と検索すると、「インコは生き残りますか?」と真っ先に表示され、ちょっと笑ってしまいました。
こういうホラーに引率してでてくる小動物は意味もなく登場はしないので、何かしらの役には立ちますよね。今作はただでさえ森の中でサバイバルするので、実際にカラスも捕獲されて食べられていましたし、このインコも非常食なのか!?と思わせておいて、別にそうはなりませんでしたね。
成り代わるという行為としては、ミナも序盤でバーに行くときに別人になっており(実際にこういうことをする人はいる)、それは自分が間接的に原因となってしまった幼いときの交通事故のトラウマも影響しているものです。
そういう人間の複雑さに触れ、ウォッチャーの中でも日中も行動できるハーフなマデリンは自身の種としての孤立さと重ねて、何かしらの同情はしてくれた…そんなラストでした。
ドラマ『サーヴァント ターナー家の子守』ともテーマ性は似ています。トラウマを抱えた者同士の歪な交流という点はとくに…。
『ザ・ウォッチャーズ』は映画一本でボリュームが少なく、いかんせん盛り上がりとしての畳みかけに乏しいので、ジャンル的なハラハラはあまり高まらないのは少し残念。ミナのトラウマ克服の到達点という意味で双子との語り合いを最後に持ってくるなら(“ダコタ・ファニング”の実の妹が出演してくるのかと一瞬思った)、もっとそこの物語に集中する本筋を強めてほしかったかな。
実は原作は「Stay in the Light」という続編があり、ちゃんとミナの物語の続きが描かれているらしいので、この消化不良感はそこで解消されるのかもだけど…。
その宣伝は見る価値ある?
ここからは『ザ・ウォッチャーズ』本編というよりはその宣伝の感想になるのですが、映画を売り出す以上、宣伝効果を狙った施策が投じられるのはわかるにしても、「これは悪影響がありそうな宣伝では?」と思うものもいくつかあります。『ザ・ウォッチャーズ』は「ワーナー・ブラザース」配給ですけども、そうした気になる宣伝はいくつか散見されました。
前述した覗き見スリラーとしての装いは、実際の中身としてはそのフォルムを保っているので、こういう宣伝もじゅうぶんにありだとは思います。ただ、やっぱり覗き見スリラー部分よりもフォークホラーの面がデカくなるので、関心はそっちに移動するでしょうけどね。
宣伝のミスリードとして露骨に気になるのは、日本では「特別吹替3DオーディオCM」というのが作られ、声優の“花澤香菜”さんが主人公のミナとマデリンの一人二役を担当している点。別にミナとマデリンは同一人物ではないですし、声に共通項はないのですけども、宣伝でこういう吹き替えをすると誤解は与えますよね。しかも、本作、実際の本編映画は吹き替え版はなく字幕版だけなんですよ(ディスクでだすときは吹き替えもつけると信じよう)。
声優の起用コストを下げたいだけなんでしょうけど、ちゃんと2人のキャラがいたら2人分の声優を雇って仕事報酬を与えてください。
あと、鏡の部屋という本作のシチュエーションを引用して、芸人をこっそり覗き見るというお笑い宣伝をするというのも、全然本作の面白さの宣伝になっていないのがなんとも…。そんなギャグじゃないですからね、この映画の仕掛け…。むしろすっごくシリアスだし…。
なんで日本の宣伝はこうなっちゃったのかな…。映画の趣旨を理解し、それをどう届けるかという洗練さよりも、何というか飲み会の酔っぱらいのノリみたいな感じの宣伝が連発されるのは、そういう業界の体質なんだろうか…。
ウォッチャーたちもそんな日本の界隈を目にしたら、監視する気分も失せて、帰っていくでしょうね。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
関連作品紹介
フォーク・ホラーの映画の感想記事です。
・『MEN 同じ顔の男たち』
・『LAMB ラム』
・『ザ・リチュアル いけにえの儀式』
作品ポスター・画像 (C)2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED
以上、『ザ・ウォッチャーズ』の感想でした。
The Watchers (2024) [Japanese Review] 『ザ・ウォッチャーズ』考察・評価レビュー
#シャマラン #民間伝承