“スーパーヒーロー疲れ”という批評に疲れてくる…ドラマシリーズ『ザ・フランチャイズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
シーズン1:2024年にU-NEXTで配信(日本)
原案:ジョン・ブラウン
セクハラ描写 動物虐待描写
ざふらんちゃいず
『ザ・フランチャイズ』物語 簡単紹介
『ザ・フランチャイズ』感想(ネタバレなし)
スーパーヒーロー疲れとか言ってる場合じゃない!
いつしか「スーパーヒーロー疲れ」という言葉が流行りのように使い回される時代になりました。
主にマーベルのMCUや、ソニー、またはDCのフランチャイズなどアメコミを原作とするスーパーヒーロー映画やドラマシリーズがたくさん製作されるようになり、その状況を指してこの言葉が使われています。「似たようなアメコミ映画が量産されすぎている」とか「内容がつまらない映画が多い」とか「興行収入が伸び悩んでいる」とか、批判的な文脈で用いられます。
私はこの「スーパーヒーロー疲れ」という言葉はあまり好きではありません。その理由は、批評の用語としてはいささか雑すぎで、むしろ論点がとっちらかりやすいと思うからです。空っぽの言葉として都合よく武器化もされやすいですし…。
例えば、「“スーパーヒーロー疲れ”の原因は作品が多すぎるからいけないのだ」という論調で、ヒーロー映画の選択と集中や再スタートを促す話に持っていかれることもありますが、そういうのはたいてい経営陣にとって業界再編成(という名の雇用者の大量リストラや作品の打ち切り)の便利な口実になります。
だいたい作品の量を減らしたら自動で質が上がるなんてこと絶対ないですからね…スタージョンの法則を知らないのか…。
別に今のアメコミ映画界隈に問題がないとは思っていませんし、構造上の問題点はいくらでも議論されるべきですけど、テキトーな言葉でサンドバック代わりにして発散しているだけでは何も生まないですから…。
そんな中、今回紹介するドラマシリーズは「スーパーヒーロー疲れ」という陳腐な批評もどきを上回る秀でた批評性を提供できるでしょうか。
それが本作『ザ・フランチャイズ』です。
本作は、架空のアメコミ系の大手スタジオの下でスーパーヒーロー映画が撮影されている現場の人間模様を描いた業界裏側モノのコメディです。監督や俳優だけでなく、いろいろな肩書の職業の人がわちゃわちゃしながら、てんやわんやで奮闘している姿をやや誇張されたコミカルさで風刺しています。当然、近年のアメコミ映画大作らしい問題も起きたり…。
この『ザ・フランチャイズ』は、ドラマ『Veep/ヴィープ』や映画『スターリンの葬送狂騒曲』など政治風刺で才能を発揮してきた“アーマンド・イアヌッチ”が当初は企画をリードしていたらしく、話題になっていました。
ただ、最終的に“アーマンド・イアヌッチ”がどれくらい関与したのかは不明で、製作総指揮には名が残っています。ショーランナーは、架空のMMORPGに振り回される人間模様を描いたドラマ『Dead Pixels』を手がけた“ジョン・ブラウン”です。
また、『1917 命をかけた伝令』や『エンパイア・オブ・ライト』などの“サム・メンデス”も製作総指揮&1話だけエピソード監督を務めているのですけども、こういう風刺コメディ、得意な人なのかな…。
“サム・メンデス”と言えば、『007 スカイフォール』『007 スペクター』と続けて巨大フランチャイズを手がけた経験がありますが、どっちかと言えば、この英国スパイ大作の裏側を描いてほしかった気もする…。『007』もスーパーヒーローもの以上にブランド保護と秘密主義が徹底していると言いますし…。
ドラマ『ザ・フランチャイズ』に出演する俳優陣は、ドラマ『ステーション・イレブン』の“ヒメーシュ・パテル”、ドラマ『ザ・ボーイズ』の“アヤ・キャッシュ”、『ロードハウス/孤独の街』の“ビリー・マグヌッセン”、『Saltburn』の“リチャード・E・グラント”、ドラマ『エイリアニスト』の“ダニエル・ブリュール”、ドラマ『Shrill』の”ロリー・アデフォペ”、『Sharper 騙す人』の“ダーレン・ゴールドスタイン”など。
このうち、“リチャード・E・グラント”(『ロキ』のクラシック・ロキ役)と、“ダニエル・ブリュール”(『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』のバロン・ジモ役)は、アメコミ作品で主要な役を務めたことがありますね。
『ザ・フランチャイズ』はアメリカ本国では「HBO」で放送され、日本では「U-NEXT」で独占配信中。全8話で1話あたり約30分と見やすいボリュームです。
『ザ・フランチャイズ』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | 職場内のハラスメントなどの有害な環境が主に描かれ続けます。野生動物をいたぶって殺すシーンがあるので注意です。 |
キッズ | 大人向けのコメディです。性的な話題もややあります。 |
『ザ・フランチャイズ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
映画スタジオの朝は早いです。巨大な撮影スタジオの建物がある敷地に続々と出勤するスタッフたち。室内に入ったダグは今日が初日であり、すでにブルーバックの凝った撮影セットが出来上がっている中で仕事している助監督のダニエル(ダン)に話しかけて挨拶します。
現在、ここではマキシマム・スタジオのマキシマム・ユニバースという巨大シリーズの一作であるコミック原作の映画『Tecto: Eye of the Storm』の撮影真っ最中。ダニエルは次から次へと指示をだしながら対応に追われていました。
リハーサルが始まり、カメラや特殊効果の確認が行われ、「アクション」の声がかかります。
主人公のスーパーヒーローであるテクトを演じるのはアダムで、すでにコスチュームを身にまとい準備万端。一方、アイを演じるベテランの英国人俳優ピーターは独自の演技哲学があり、あまりこのブロックバスター映画に馴染めていません。
もっと問題なのは今作に監督として抜擢されたエリックであり、スーパーヒーロー大作は普段は撮らないようなフィルムメーカーというこで、こだわりがですぎることがあります。
実はスーパーヒーロー作品に愛着のあるダニエルは現場のさまざまな調整に翻弄されつつ、この作品が無事に完成するのかヒヤヒヤしていました。
本日はスタジオの代表のパット・シャノンが訪れるらしく、暗すぎる照明について苦言を呈していたとのこと。そこでダニエルはエリックのもとへ行き、照明の件を交渉します。エリックは簡単に曲げず、知り合いのプロデューサーのジャスティンを盾に使おうとします。ダニエルはなんとか妥協点を模索。
新しい照明の導入の後付けとして舞台となる架空の世界に第2の太陽があるという設定を思いつき、土壇場で変更を加えることにしました。現場の俳優も太陽が2つになったのは初耳でしたが、問答無用で撮影は続行です。
けれども今度はどれくらい大声で話せばいいのか、俳優たちは戸惑ってしまい、撮影中断。水が滝のように落ちている設定なのですが、それは後からVFXで追加するので現場の俳優にはわかりません。
さらにパットがやってきて、チームアップ映画『Centurios 2』の制作中にスタジオが魚人を虐殺することに決めたと一方的に伝えてきます。つまり、このエリックが撮っている映画では魚人はカットしないといけないということ。自分のやりたいこととだいぶ変わってしまうのでエリックは困惑です。
ダニエルが休憩していると、例の撮影現場の新しい照明のせいでピーターとアダムが目を傷めたというトラブルの知らせが…。
しかも、パットはダニエルを問い詰め、失敗続きである現場の状況を指摘。思っているよりも把握されていました。
エリックお気に入りのプロデューサーは解雇され、ダニエルと元恋人のアニータが代わりに就任することになりました。
疲れ果てた一日を終え、ダグはダニエルになぜこんな仕事をしているのかと尋ねると、彼もまたこのショービジネスに染まっていることを吐露します。
ここではみんなそんなもの…。
こんなに頑張っている人もいるんです…
ここから『ザ・フランチャイズ』のネタバレありの感想本文です。
『ザ・フランチャイズ』は映画業界の裏側をつまびらかにする作品ですが、同様の作品は2024年だけでも『フォールガイ』やドラマ『シンパサイザー』などいくつも見られました。
とくに映画撮影現場の「本当にこれは完成するのか?」というてんやわんやっぷりをコミカルに風刺したものだと、コロナ禍を描いた2022年の『ザ・バブル』なんかもありました。
『ザ・フランチャイズ』はスーパーヒーロー産業複合体を風刺していることはとりあえずさておき、それ以外の特徴を挙げるなら、一般的にあまり注目されない職業に光をあてていることが印象的です。
たぶんたいていの人は映画撮影の現場を思い浮かべると、せいぜい「監督」「俳優」「カメラマン」くらいしか思いつかないのではないでしょうか。もちろんそれだけで成り立つわけはありません。
今作では主人公として大きく目立つダニエル。彼は「助監督(Assistant Director)」です。こういう大作の場合、作品の功績を掲げられるのは「監督」の肩書の者ですが、実際の現場で、その監督の補佐をする助監督が存在します。大予算の大掛かりな撮影だと助監督が複数いるのも普通です。
本作においても、監督とプロデューサー、はたまた俳優など、さまざまな人たちの間で板挟みになり、なんとか妥協点を見つけて調整し、プロジェクトを前に進めるのは助監督の仕事です。
『ザ・フランチャイズ』における『Tecto: Eye of the Storm』の監督であるエリックは本当に不甲斐ない奴で、“クリストファー・ノーラン”が撮影現場を訪れると知って自信喪失し、“マーティン・スコセッシ”がスーパーヒーロー映画に苦言を呈したと耳に挟めば張り切りすぎて空回りし、面倒このうえないです。助監督にとってはキツいだけ…。
あと、脚本の現場での扱いも窺えたと思います。ハリウッドでは脚本が企画の出発点で、スクリプトがないと始まらないのですが、そのわりにはいざ撮影が始まると、脚本はどんどん遠慮なしに変えられていきます。監督と脚本家が別の場合、今作のステフのようにスクリプト・スーパーバイザー(脚本の調整をする人)は修正を飲んでいくしかないこともあるでしょう。
スーパーヒーローのフランチャイズ特有のサプライズなカメオ出演や、他のシリーズ作品の展開との調整など、脚本家も監督さえも知らないことを現場でリアルタイムに組み込んでいくのは相当に骨が折れるはず…。
『ザ・フランチャイズ』はそういう陰で努力して支えている人たちを取り上げてくれているのは良かったです。
そんな風刺で大丈夫か?
業界の裏側を観察できる点では面白いのですが、一方で『ザ・フランチャイズ』の肝心の風刺は、貧弱というか、イマイチ威力不足で、とっ散らかった風刺でばらけていただけのように感じて、そこは残念でした。
基本的にエピソード毎に風刺対象を変えていく単発式の見せ方なのですけども、どれもやりたいことはわかるものの不十分な感じで終わるんですよね。
例えば、第3話で、女性主体の映画『The Sisters Squad』の中止による世間の反発から目をそらすべく、この男性主演2人の『Tecto: Eye of the Storm』にフェミニスト的な視点を増やせと無理やりな注文がスタジオ上層部から下るというパート。脇役のスーパーヒロインである「ライラックゴースト」(女性が透明化されていることの皮肉にもなっている)をどうにか活用しようとしますが、中途半端にならざるを得ません。
これは既存のスーパーヒーロー映画にありがちなことですが、本作は風刺も中途半端なので、これだと「フェミニズム自体がダメ」みたいに受け取られかねないです。風刺作品が風刺対象と同じ過ちを犯してどうするんだ…という話で…。
また、俳優のピーターや監督のエリック、スタジオ代表のパットなどが職場でどんどんパワハラめいたことをしでかしていくのですが、それもギャグとしてぞんざいに流されて終わります。
この『ザ・フランチャイズ』を手掛ける大本のワーナー・ブラザースは『ジャスティス・リーグ』で有害な職場環境の問題を散々指摘され、そのうえおざなりにした過去があるわけで、本作のこの描かれ方でいいのかと姿勢を問いただしたくはなります。
他にも、プロダクトプレイスメントの風刺が単に中国批判に集約されてなんだかアジア蔑視なトーンで済まされたり、絶滅危惧種のコウモリは無理筋すぎないかとか、あちこちの風刺が雑だったかなと思います。
もっと核心部の問題点を抉るべきだったんじゃないかな。マーベルのかつてのボスである“アイザック・パルムッター”や、現ワーナー・ブラザースのCEOである“デビッド・ザスラフ”みたいな元凶をしっかり批判しないと…。
その点、まだ『ザ・ボーイズ』や『メディア王 華麗なる一族』のほうが巨大メディアの最も急所を的確に批判できていました。
『ザ・フランチャイズ』は、業界の問題構造を、可愛らしく笑いものにできるレベルにスケールダウンしている感じで、『デッドプール&ウルヴァリン』よりもギャグのキレも弱い…“スーパーヒーロー疲れ”の論調自体に疲れてくる作品でした。
とりあえず皆さんもスーパーヒーロー映画の長い長いクレジットを眺めるときは、助監督やスクリプト・スーパーバイザーの名前を見つけて心の中で労いの拍手してあげましょうね。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)HBO
以上、『ザ・フランチャイズ』の感想でした。
The Franchise (2024) [Japanese Review] 『ザ・フランチャイズ』考察・評価レビュー
#サムメンデス #映画業界