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ドラマ『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』感想(ネタバレ)…英王室はクィア陰謀が乱れる

メアリー&ジョージ 王の暗殺者

英王室ではクィア陰謀が乱れている…ドラマシリーズ『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Mary & George
製作国:イギリス(2024年)
シーズン1:2024年にスターチャンネルで配信(日本)
原案:D. C. ムーア
自死・自傷描写 DV-家庭内暴力-描写 性描写 恋愛描写
メアリー&ジョージ 王の暗殺者

めありーあんどじょーじ おうのあんさつしゃ
メアリー&ジョージ 王の暗殺者

『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』物語 簡単紹介

17世紀、国王ジェームズ1世が統治するジャコビアン時代のイングランド。地主階級で野心的なメアリー・ヴィリアーズは、暴力的な夫に嫌気がさし、暇を持て余す次男ジョージをフランスに送って、裕福な女性と結婚さえようと企む。しかし、ジェームズ1世が若い男性に目がないことを知ると、息子を国王の愛人にし、権力と富を手に入れるという方向に計画を変更する。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』の感想です。

『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』感想(ネタバレなし)

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王の最推し愛人になるのは誰だ?

イギリス王室は歴史的に異性愛規範の独壇場だったのでしょうか?

答えは「NO」。英国王室には非異性愛な歴史も確かにありました。LGBTQ専門メディアの「Advocate.com」では、歴史家に指摘されている歴史上の英国王室に存在したセクシュアル・マイノリティもしくはそのアライの当事者を10人以上紹介しています。

その中のひとりが「ジェームズ1世」です。なお、イングランド王アイルランド王としては「ジェームズ1世」と呼ばれ、スコットランド王としては「ジェームズ6世」と呼ばれており、名前は少々ややこしいです。

1567年に在位し、1625年に亡くなるまで、長く広く統治しました。その評価はひと言では言い表せないほどにいろいろな語りどころのある王です。「欽定訳聖書」にも大きく関わった人物ということで、とくに福音主義者の中にもこの聖書を絶対視する人もおり、キリスト教とも縁深いです。

そのジェームズ1世ですが、もしかしたら保守的なキリスト教信者の人の中にはこの一面を見なかったことにしているかもしれません。

それは「ジェームズ1世は男性に性的に惹かれていた」という話。結構有名な裏話で、ジェームズ1世はひとりどころか何人もの男性の愛人を抱えていたようです。その愛人の男たちもあれこれと王室を騒がせる出来事を起こしていたり…。

今回紹介する2024年のイギリスのドラマは、そのジェームズ1世の最推し愛人の座を手に入れて権力をもらおうと頑張るへっぽこ青年の奮闘記です。そういう説明でいいかな…良いことにしよう…。

それが本作『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』

主人公は先ほど説明したとおり。イケメン以外はあまり取り柄がない不器用な男で、そんな若造があのジェームズ1世の愛人になれるのか?…というのがまず見どころ。そしてその主人公を王の愛人にさせようと策略を練っているのが主人公の母で、この母と息子の関係性も注目です。

本作の主人公は実在の人物で、物語の大部分も史実に基づいていますが、だいぶコミカルかつ風刺たっぷりにアレンジされています。ノリとしてはドラマ『THE GREAT エカチェリーナの時々真実の物語』に近い感じ。どぎつい展開もあえてブラックユーモアで突っ切ります。起きることは、裏切ったり、殺したり、血生臭いんですけどね…。

『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』の最大の特徴はやはり宮廷陰謀モノのジャンルながらめちゃくちゃクィアだということです。「ちょっとだけクィアの要素がありますよ~」という王室舞台作品はいくつもありましたが、ここまでクィアで攻め切っているドラマは珍しいのではないでしょうか。男性同士だけでなく、女性同士の性関係も絡んできますよ。

『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』のショーランナーを手がけるのは、戯曲でキャリアを成功させ、2015年にはドラマ『Not Safe for Work』を引っ張った“D. C. ムーア”

主演は、主人公青年を演じるのが、『赤と白とロイヤルブルー』でもゲイ・ロマンスをみせてくれた“ニコラス・ガリツィン”

その主人公の母を演じるのが、『メイ・ディセンバー ゆれる真実』『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』など現在も多彩に活躍する“ジュリアン・ムーア”

共演は、ドラマ『ダークエイジ・ロマン 大聖堂』“トニー・カラン”、ドラマ『Malpractice』“ニアフ・アルガー”、ドラマ『Guilty Party』“ローリー・デヴィッドソン”など。

英国王室の歴史にそんなに詳しくなくても楽しめると思います。

『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』は全7話(1話あたり約40~50分)。日本では「スターチャンネル」で配信されています。

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『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』を観る前のQ&A

✔『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』の見どころ
★笑えつつもスリルもあるゲイな宮廷陰謀の駆け引き。
✔『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』の欠点
☆作品の知名度が低い。

鑑賞の案内チェック

基本 DVや自殺未遂のシーンが一部にあります。処刑の生々しい描写が含まれます。
キッズ 1.5
直接的なヌードや性行為のシーンがあります。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

1592年、下級貴族のヴィリアーズ家にてメアリーは出産しました。その第3子に意味深なことを囁き、ジョージと名づけます。その子が国を揺るがすほどの立場になるとはまだ知らず…。

20年後の1612年、メアリーが雪積もる外の林を歩いていると、青年となった三男ジョージが木で首を吊っているのを発見。メアリーは何も動じることなく、紐を切り、まだ死ぬ間際で息を吹き返すジョージに朝の挨拶をします。

ジョージは召使の若い女性に叶わぬ恋をしており、他の人との見合い結婚が嫌でこうして自殺を図っているのでした。もはやこの家ではいつもの騒動。長男ジョンも揶揄ってきますが、ジョージはバカ正直なほどに真剣です。

その父は酷く暴力的な男。でもこの世から消えました。死んだのです。妻のメアリーに掴みかかってきたとき、階段から転げ落ち、死にました。落下時は息はありましたがあえて助けませんでした。メアリーにとっては邪魔な存在でしかない…。

メアリーには長期的な計画がありました。長男ジョンには人前にだせる状態ではなく、メアリーは本来は相続権のないジョージをなんとか使おうと考えていました。裕福な家に結婚させればいいのです。そのためにはフランスに送って社交を学ばせないと…。

ところが一家の会計士がメアリーに亡き夫は財産は残していないと残念なお知らせを告げます。カネが無いです。困窮したメアリーは夫の亡くなった2週間後に貴族のトーマス・コンプトンと再婚を即決。もちろん好きではありません。計画のためです。これで当面の資金を確保できました。

こうして嫌々ながらジョージはフランスに送られました。到着したのは豪華な貴族の屋敷。別世界です。中に入るとさらにびっくりします。部屋では男も女も同性同士で淫らに絡み合っていたのです。これが普通らしいです。

最初は寂しくポツンと孤立していたジョージですが、社交を学んでいくうちに、同性関係の性の楽しさも覚えていきます

そんな中、ジェームズ王がメアリーの家を訪れます。サマセット伯爵を同伴しており、半裸で部屋からでてきた彼は王とメアリーの目の前でキス。やはり噂は本当で、王は若い美麗な男に目がないようです。

ならば顔だけは整っているこのジョージを王が気に入れば、最大の権力に近づけるのではないか…。メアリーの計画はさらに大胆な方向へ転換します。

あとはどうやってこのジョージを王の寵愛の中へと放りこめばいいのか、その策を考えないと…。

この『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/02/21に更新されています。
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イケメンもツラい

ここから『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』のネタバレありの感想本文です。

『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』は、主人公であるジョージ・ヴィリアーズ(初代バッキンガム公)の波乱万丈の成長がハラハラドキドキさせてくれます。その成長は激動の終焉に向けて突き進むステュアート朝に影響を与えることに…。

このジョージはぞんざいに言えば「へっぽこなイケメン」。実際、史実でもジョージは「イングランドで最もハンサムで、肉体も引き締まり、会話は楽しく、性格も優しかった」と歴史家は資料から分析しているようですがSmithsonian Magazine、本作では初期はイケメン以外に取り柄なしぐらいの中身の無さになっています。

貧しくはないものの上流の世界でもない、ある意味でぬるま湯の家庭で甘やかされて育ち、女性との情事にのめり込むだけの世間知らずな若造。そんな未熟な青年が、上流貴族の内側で非異性愛の悦びを会得する。ここまでは普通の性的指向の探究という感じなのですが、そこから「ジェームズ1世の寵臣になって最も親密な愛人の座を手に入れろ」という、いきなり最難関すぎる使命が課せられることになるわけです。

誰しもが王に気に入られるなんて簡単にできません。正直、ことさらジョージには到底無理だろうと思ってしまう難易度です。なにせこのジョージ、社交を学んだとはいえ、なおもそれ以外のスキルに長けているとは言えません。政治的駆け引きは不得意で、政治の場にいざ飛び込めば翻弄されるばかり。枢密院では場違いに浮きます。おまけに宮廷男子内のイジメみたいなものにも巻き込まれます。

観ているこっちとしては「頑張れ、ジョージ!」って応援してあげたくもなってきますが…。

でもサマセット伯爵とかと恋愛関係にもなったり、なんだかんだでやっぱりモテるジョージは、さながらBLの中心にいる“流されがち弱々美男子”という枠ですかね。

“ニコラス・ガリツィン”も上手くハマっており、こういう役柄が合うんだろうな…。

ここまでへっぽこ感がでているのは史実の大幅な脚色なのですが(史実の初代バッキンガム公は性格はさておき優秀ではあったそうです)、物語としてはイケメンの苦悩がたっぷり拝めて興味深いものでした。

別にイケメンだからって楽な人生ではない。人間関係にもみくちゃにされて憔悴していく苦しさ、はたまたその悩みを吐露できないもどかしさ。作中のジョージはイケメンであることを自分で狙って武器にできず、もっぱら他人にその要素を利用されるだけ。なので余計に不本意です。

作中でも史実でもジョージこと初代バッキンガム公は世間の大衆に嫌われまくっていたそうですが、それは外側から見れば「イケメンだからって富と権力をスルスルと横から手に入れやがった野郎」とみなされ、憎まれたのでしょう。本作はそんなジョージの人間性をより複雑に掘り起こしてキャラクター化していたと思います。

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王に寄り添えたのに…

『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』で無能イケメンなジョージを裏から操るのが母のメアリーです。政治方面ではフランシス・ベーコンも関与していましたが、根本的にはメアリー…つまり母の言いなりになってしまう息子です。

このメアリーは史実ではほとんど資料がないので、だいぶ創作でキャラクター性を膨らましていますが、面白い人物でした。役立たずかつ横暴な夫を切り捨て、それだけでなくこの家を成り上がらせようと非常に野心に溢れていて、そのうえちゃんと実力を持ち合わせています。下級貴族の女性であるゆえに自分が直接踏み込む機会はないからこそ、息子のジョージを利用するしかありません。

メアリーも地元の売春婦のサンディと性的関係を持っていたりして、わりとクィアの受容性があり、それがあのジョージを王に接近させる作戦の立案に繋がるというところも面白いですね。

しかし、前半はそれこそBL宮廷陰謀ロマコメみたいな雰囲気ですが、後半になっていくと、かなり悲痛な緊張したサスペンスに変化するのがこの『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』の見どころ。

愛する人を密かに殺されたり、自分の行いが他人の死に直結することを実感していったジョージはしだいに母メアリーの束縛を振りほどこうとし、対立を悪化させます。

ここで印象的だったのが本作におけるジェームズ1世の描写。放蕩に耽るも一応は平和主義的な人柄をみせ、どことなくこのジェームズ1世はジョージに似ています。初期の素朴なジョージが王の権力を手にしたらこんな人間になっていそうです。

ジョージは何度か「嫌い、好き、嫌い、やっぱり好き」というやりとりを繰り返しつつ、最終的にはジェームズ1世と親密に心を通わせます。駆け引きではなく本音の愛のように…。かなりロマンチックに愛し合っていました。しかし、最後は悲劇が…。

本作は第1話でジョージの自殺未遂がちょっとギャグっぽく映し出されますが、最終話ではジョージがジェームズ1世を窒息死させ、相対関係にあるような両者の死の配置になっていたようにも感じました。ジョージにとってジェームズ1世を殺すというのは自分を殺すような行為同然だったのかもしれません。

史実ではジェームズ1世は赤痢で亡くなったという説が有力で、ジョージによる殺害というのはかなり大胆な解釈なのですが、きちんと接続性のある物語の効果があったのではないでしょうか。

1628年のジョージが暗殺された知らせを聞いた後のメアリーの表情で締めくくられるエンディングも良かったです。「家を守る」という目的に知略を捧げたメアリーですが、ここまで代償を払うほどの価値はあったのかな…。

『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
○(良い)
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関連作品紹介

英国王室を主題にした歴史作品の感想記事です。

・『女王陛下のお気に入り』

・『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』

・『ザ・クラウン』

作品ポスター・画像 (C)Sky Studios Limited 2024. メアリー・アンド・ジョージ

以上、『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』の感想でした。

Mary & George (2024) [Japanese Review] 『メアリー&ジョージ 王の暗殺者』考察・評価レビュー
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