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『マクベス The Tragedy of Macbeth』感想(ネタバレ)…コーエンのマクベスの幕開き

マクベス

デンゼル・ワシントン主演作…「Apple TV+」映画『マクベス』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Tragedy of Macbeth
製作国:アメリカ(2021年)
日本:2022年にApple TV+で配信、2021年12月31日に劇場公開
監督:ジョエル・コーエン

マクベス

まくべす
マクベス

『マクベス』あらすじ

武勇に優れていたスコットランドの将軍であるマクベス。しかし、相棒のバンクォーと歩いていると、怪しげな魔女に荒野で遭遇し、予言を授かる。それによればマクベスは想像以上の未来が切り開けるようだった。野心をかきたてられ、マクベス夫人の後押しもあって、主君を殺して王位に就いたものの、内外からの重圧に耐えきれず、暴政によって次々と罪を犯していく。それでもマクベスは魔女の予言を妄信する…。

『マクベス』感想(ネタバレなし)

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400年後も映画化します

400年以上経って映画化されるっていうのは、なんだかスケールが凄すぎて実感も何もわからないですね。原作者の人はどんな気持ちなんだろうか…。

何の話か? 「マクベス」のことです。

「マクベス」とは、あまりにも有名すぎるあの“ウィリアム・シェイクスピア”によって書かれた戯曲であり、「ハムレット」「オセロー」「リア王」と並べてシェイクスピアの四大悲劇のひとつとして挙げられます。1606年頃に成立したとされており(推定執筆年代)、ざっと考えると今から400年以上前の作品ということになります。

そんなロングヒット(?)している「マクベス」。映画という代物が登場してからは当然のように映画化もたくさんされてきました。映画黎明期のサイレント映画時代から「マクベス」は映画となっており、1948には“オーソン・ウェルズ”監督も『マクベス』を手がけました。1957年の“黒澤明”監督による日本映画『蜘蛛巣城』はまさに日本版「マクベス」であり、海外からも最優秀なシェイクスピア映画化作品として絶賛されています。1971年には“ロマン・ポランスキー”も『マクベス』の映画に手を付けています。

2000年代に入っても「マクベス」映画は止まりません。2015年に“ジャスティン・カーゼル”監督が“マイケル・ファスベンダー”&“マリオン・コティヤール”の共演で『マクベス』を製作。こちらも高評価を集めました。

で、さすがに2015年に映画化したばかりだし、しばらくは「マクベス」映画はないかなと思っていたら、まさかの2021年にまたまた再臨です。

そのタイトルは『マクベス』。やっぱり邦題は同じなんだなぁ…。

これじゃあ区別がつきづらいですが、こう覚えてください。「コーエンのマクベス」だと。本作を監督するのは、『ファーゴ』『ノーカントリー』『トゥルー・グリット』『ヘイル、シーザー!』などでおなじみのあの“コーエン兄弟”のひとり“ジョエル・コーエン”なんですね。脚本演出の巧みな手腕が評価されているコーエンがついに「マクベス」に手を伸ばしたのか…と感慨深いもの。

俳優陣にも注目です。主人公のマクベスを演じるのは、『フェンス』『ローマンという名の男 信念の行方』などで常に存在感を放つ“デンゼル・ワシントン”

そして、もうひとりの重要キャラクターであるマクベス夫人を演じるのは、『ファーゴ』『スリー・ビルボード』『ノマドランド』でアカデミー主演女優賞に3度輝いている“フランシス・マクドーマンド”

この2人が映画を飾るとなれば、それは見ごたえ保証としてはじゅうぶんすぎるもので…。なんですかね、この俳優賞を最も狙える2人を配置しました!みたいな盤石の布陣。“デンゼル・ワシントン”は今回の『マクベス』の好演もあって賞レースに躍り出ていますし、“フランシス・マクドーマンド”もさすがに4度目のアカデミー主演女優賞はないかなと思いますがそれでも名演には変わりないです。

他の出演陣は、『ストレイト・アウタ・コンプトン』『イン・ザ・ハイツ』の“コーリー・ホーキンズ”、『未来を花束にして』や映画『ハリー・ポッター』シリーズにも登場していた“ブレンダン・グリーソン”、ドラマ『クイーンズ・ギャンビット』の“ハリー・メリング”、ロンドンのユニオン・シアターでマクベスを演じたこともあるという“バーティ・カーヴェル”、『五日物語 3つの王国と3人の女』の“キャスリン・ハンター”、『紅海リゾート 奇跡の救出計画』の“アレックス・ハッセル”など。

物語は…まあ、これはいいですよね、いつもの「マクベス」です。『オフィーリア 奪われた王国』みたいに大胆に現代的に脚色したりとかはしていません。

一応、「マクベス」初心者のためにコーエンの『マクベス』のあらすじをざっくり説明すると、将軍が魔女にそそのかされたりしてどんどん調子に乗っていき、王を殺したりするまでに至るものの、その暴君としての地位は長くは続かず…という悲劇です。主人公のマクベスは実在するキャラクターで、スコットランド王国の歴史に基づいていますが、そんな歴史の知識を必要とする作品ではありません。もともとの原作が短いということもあって、展開もシンプルですし、「シェイクスピアは難解そうだ…」と身構えるほどではないと思います。少なくともこの『マクベス』は易しい方です。

コーエンの『マクベス』は日本では一部で劇場公開されたものの、基本的には「Apple TV+」での独占配信となります。「Apple TV+」は2021年は『コーダ あいのうた』と合わせて賞レースで目立ってきましたね。動画配信サービスの勢いは増すばかり…でも一般の映画ファンの間ではまだまだ「Apple TV+」の利用率は低いですけど…。

ともあれコーエンの『マクベス』も見逃すには惜しい良作ですのでぜひ鑑賞してみてください。

なお、白黒の映画になっているので、なるべく大きな画面で発色のいい綺麗で明るいモニターで鑑賞するのがオススメです。部屋は暗くしてね。

オススメ度のチェック

ひとり4.5:映画ファンは要注目
友人3.5:俳優ファン同士で
恋人3.5:シェイクスピア好きなら
キッズ3.0:大人のドラマです
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『マクベス』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『マクベス』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):予言のとおりに

将軍マクベスの戦果をスコットランドのダンカン王に伝える伝達係。新手の軍勢にもひるまず、ノルウェー軍を蹴散らしていくマクベスとバンクォー(バンクォウ)の功績は王を満足させました。ダンカン王は「コーダーの称号はマクベスに授けよ」と伝達に命じます。

その頃、マクベスとバンクォーは荒れ地で怪しげな存在に遭遇していました。漆黒のローブに身を包む、それは魔女らしき女で、ひとりが立っており、なぜか水辺に2人が映って3人に見えます。しかし、いつのまにか3人がその地に立っていました。

そして魔女たちはマクベスに対しては「万歳、コーダーの領主」「万歳、いずれ王になるお方」と呼びかけ、バンクォーには「子孫が王になる」と予言して、霧の向こうに消えました。こちらの質問にも答えず、一方的な邂逅に困惑する2人。

野営地に着くと伝達係が「コーダーの領主の称号はあなたのものです」と王の言づけをマクベスに伝えました。予言どおりになりました。

マクベスはマクベス夫人に手紙を書き、予言の話をします。王のもとにマクベスとバンクォーが赴き、王はその働きぶりを労います。

予言が真実味を帯びてきたことでマクベス夫人はマクベスは王になる器だと確信。今のダンカン王を暗殺しようと企て、マクベスを後押しします。何も知らないダンカン王が城を訪問して泊まるのでこれはチャンスです。「おもてなしは私に任せて」とマクベス夫人。

ダンカン王が到着し、マクベス夫人が跪いて迎えます。マクベスは「まさか私が殺すとは思うまい。客人をもてなすのが務めなのだから」と自分に言い聞かせていましたが、だんだんと怖くなり、「計画はやめにしないか」とマクベス夫人に土壇場で相談。でも夫人は怖気づいてしまったマクベスを咤激励し、疑われない策はあると安心させます。

夜、マクベスは王の寝る部屋のドアを開けます。中にいる護衛は毒で倒れています。マクベスは王の口を片手で塞ぎ、短剣を突き立てました。

夫人のもとに戻ったマクベス。しかし、短剣を持ってきてしまっていることに怒る夫人。護衛たちに罪をなすりつけるはずなのに…夫人は短剣を持って出ていきます。ひとり残されたマクベスは物音に落ち着かなくなります。

陛下を起こそうとしたマクダフは王の死体を発見。大慌てで階段を降りてきます。マクベスも上に見に行き、護衛たちに殺されたとみんなに伝え、カっとなって私がその護衛を殺したと告白。ダンカン王の相続人であるマルカムはこのままでは自分の命も危ないとイギリスに逃亡。こうしてマクベスは王となりました。

バンクォーはマクベスの予言が当たったのなら私のも当たるのだろうかと不安に感じます。一方のマクベス王はバンクォーの殺害を部下に命じ、息子のフリーアンスも殺すように指示します

マクベスの仕向けた暗殺者は、バンクォーを殺しますが、フリーアンスは逃げてしまいました。

宴会の場でマクベスはバンクォーの幻覚を見るなど、少し様子がおかしくなり始めます。そしてそんなマクベスのもとにまたあの魔女が現れました。そしてこう告げます。

「女の股から生まれた者にマクベスを倒せぬ」「バーナムの森が進撃して来ないかぎり安泰だ」

女からどんな人間も産まれるので誰も倒せないということになるし、森が歩いて襲ってくるわけもない。マクベスは自身の絶対的な安定を確信しますが…。

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ミニマリストな空間設計

コーエンの『マクベス』、まず何が良いかって映像の美しさ。

前作の監督作『バスターのバラード』と同じく“ブリュノ・デルボネル”が撮影を手がけているのですが、そのモノクロの映像シーンはどれも素晴らしくよくできています。

とくに印象的なのはあまり広い風景を撮ろうとはせずに、ちょっとどことなく異質な空間のようにも思える、そんな無機質さを感じる環境で物語が展開されることです。なので歴史ドラマというよりは、どことなく閉鎖空間で始まるSFみたいな不気味さを常に漂わせています。

インタビューによればドイツ表現主義を意識しているらしいですが、そのかいもあって物語でイメージされるごちゃごちゃしたものが一切排除されて、完全に必要最小限のものだけが映像に映る。この映像の極限までの省略化が観客の物語没入度を高めてくれます。

映画というとどうしてもスケールがデカくなりがちで、だからこの「マクベス」だってその気になればいくらでも戦のシーンを増量したり、スケールアップのアレンジなら思いつくのですが、そこで“ジョエル・コーエン”監督はあえてのミニマリストみたいなことを徹底する。目に映る余計なものは全部撤去する。

この体験を提供しようと思えるのはやはり自信の現れですかね。これまでのオリジナルな脚本から一転して今回は超有名な「マクベス」を映画化するにあたり、“ジョエル・コーエン”監督がやったのはすでに完成されている最高峰の脚本を最大級に魅せるための仕掛け。イマドキで言えば“映え”ですよ。今回のコーエンの『マクベス』はとにかく1枚1枚のカットに“映え”がある。シェイクスピアも現代に生きていたらインスタグラムをするかどうかは知りませんが、自分の作品が映像化されるならそれはきっとかっこいい方がいいに決まっている。このコーエンの『マクベス』はベーシックな王道の物語に対する、とても実直な姿勢があるのだと思います。

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この魔女、かっこいい

その映像のかっこよさを担っているのは撮影空間だけではなく、もちろん俳優もです。

マクベスを演じた“デンゼル・ワシントン”もさすがの貫禄。基本的に“デンゼル・ワシントン”はこういう不安定さを抱えた役が本当にマッチしますね。本当は野心があるけど、でも権力が怖いのであまり本音は言えない男が、予言というものを根拠にどんどんと増長してしまう…こういう構図はどこにでもある展開ですし、男の虚栄心という弱さを突いています。今回の“デンゼル・ワシントン”版マクベスは邪魔者を排除したくなっちゃうイコライザーと化していくのですが、自分自身はかなり弱い、というか臆病。こういう弱さを内包した男の姿を“デンゼル・ワシントン”は見事に演じきっていました。

一方のマクベス夫人を演じた“フランシス・マクドーマンド”。このレディ・マクベスは研究者の間でもいろいろな議論があるくらいに多角的に解釈をできるキャラクターですが、今回は“フランシス・マクドーマンド”が演じているというその事実がもうすでに何かしらのパワーを持っている気がしてくるというか…。このペアリングが良かったです。“デンゼル・ワシントン”にぶつけられるのは“フランシス・マクドーマンド”しかいないという…。確かにこの“フランシス・マクドーマンド”だったら“デンゼル・ワシントン”が頼ってしまうのも理解できる、説得力があります。

ただ、私が個人的に本作で一番気に入っているのは、荒れ地の魔女です。今作の魔女は…なんかこう…スタイリッシュだった…。あのローブをバサっと羽織るシーンの冒頭からすでにアーティストかよ!?というくらいにカリスマ性を漂わせますし、あの次にマクベスの前に出現するときの上から見下ろしてくるカットのかっこよさ。本作の魔女は総じてヨボヨボしていない、なんだか妙にパワフルでキレがあるのがいいんですよね。今作の魔女なら私も信者になるかな…。この魔女を演じた“キャスリン・ハンター”、今作のベストアクトだった…。この魔女、『スター・ウォーズ』の今度のヴィランとかで登場してほしいくらいですよ…。

結論として、やっぱりコーエンは凄かった…ということで。

もうしばらくは映画では「マクベス」はないかな?と思いますけど、案外、数年後にまた映画になっているかもしれない。まあ、でも500年後も映画化しているでしょうけどね(それまでに映画というメディア芸術が残存していれば…の話ですが)。

『マクベス』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 93% Audience 81%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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作品ポスター・画像 (C)Apple

以上、『マクベス』の感想でした。

The Tragedy of Macbeth (2021) [Japanese Review] 『マクベス』考察・評価レビュー