今年も終わり。
映画もあれやこれやとたくさん観ました。
ということで、私的に選んだ2018年の映画ベスト10を発表したいと思います。対象は私が今年観た、2018年に劇場公開された or DVDスルーで発売された or 動画配信サービスで配信された新作映画です。最後に独自の部門別でも選びました。
2018年もブロックバスター大作からマイナーな作品まで、とてもたくさんの映画を観ました。どれくらい鑑賞したのか正確には数えていませんが、新作は全部含めると200~300のあいだですかね(ざっくりした数字)。もう完全に『アンダー・ザ・シルバーレイク』の主人公よろしく、映画の沼に半身が沈んでいますよ…。
ちなみに過去の年の「ベスト10」は以下のとおりです。
10位『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
明らかに平均よりは下にいる、なんなら最下層で暮らしている「子ども」。そんな子どもを描いた傑作は2018年も『万引き家族』や『ぼくの名前はズッキーニ』など、いくつもありました。その中でも個人的に印象的に残ったのが『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』です。何が特筆して良いかといえば、フィールドです。フロリダのディズニーワールドというある種の世界の全ての理想が詰まったユートピア…のすぐそばで貧しく生きる子ども。『アンダー・ザ・シルバーレイク』が暗黒ハリウッド映画なら、本作は暗黒ディズニー映画です。ショーン・ベイカー監督の目線が本当に好きです。
9位『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』
たくさん映画を観ていると「ああ、これはぜひティーンの子どもたちに観てほしい、教育現場で上映してほしい映画だな」と思うことも多々あるのです。私の考える“そういう風に思う”映画の条件は、説教くさいベタな内容ではなく、それこそ教育業界の目を開かせるような内容が良いと思っています。そういう意味で『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』はぴったりです。本作は表向きは「カンニングはいけませんよ」ですが、裏には「もっと不正があるんじゃないですか」という、大人こそドキリとする視線が隠れる映画。文部科学省選定作品にするべき、いや、文部科学省が観るべき映画ですね。
8位『ウインド・リバー』
アフリカ系アメリカ人(黒人)、ユダヤ人、アジア人、ムスリム、LGBTQ、性暴力被害者など、いろいろな社会のマイノリティに光があたり始めた今の世の中。それはとても良いことなのは言うまでもないです。でも、そんな多様性を謳う世界でも、全く目を向けられない存在もいる。それが『ウインド・リバー』で描かれる、ネイティブアメリカンの人たちでした。タブー視され、社会の片隅に隔絶されて生きる。その命の重みを「忘れるなよ」とばかりに突きつける、テイラー・シェリダンの忠告です、この映画は。主人公の職業も個人的には良かったポイントです。
7位『タクシー運転手 約束は海を越えて』
凄惨な暴力と差別の歴史を一切の濾過なくストレートに目に注ぎ込む『デトロイト』、テロ事件に偶発的に巻き込まれた実際の当事者をそのまま出演させて運命性まで映画化した『15時17分、パリ行き』など、事件性のある史実を扱った映画は今年も多かったです。しかし、その中でも、この『タクシー運転手 約束は海を越えて』は誰でもわかるエンタメにしてしまうという思い切りの良さが突出していました。それでいて史実の重さを軽んじることなく、むしろそのテーマの大切さを幅広い人に届けやすくしている…素晴らしいナビゲートです。SNS時代、全員がジャーナリストになりうる今だからこそ観てほしい映画ですね。
6位『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』
『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』はとてもいろんな切り口のある映画です。ジャーナリズムとしても、フェミニズムとしても、とても鋭い視座を与える作品でした。でも個人的には本作で感心したのは、やっぱりスピルバーグは映画好きなんだなということ。スピルバーグ監督は2018年は『レディ・プレイヤー1』も手がけ、こちらこそ映画ファン熱狂の作品として支持されているのが一般的だと思いますが、私は『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』でスピルバーグの映画愛を再確認しました。こういう社会派作品でもその愛を隠さないのが無邪気でいいですよね。スピルバーグの考えた最強にして究極のユニバースともいえる、ラストのサービスはテンションあがりました。
5位『ファントム・スレッド』
恋愛に障がいは付き物です。『恋は雨上がりのように』の“年齢”、『君の名前で僕を呼んで』の“ジェンダー”、『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』の“宗教”、『アリー スター誕生』の“キャリア”…映画でも色々な愛を阻害するモノが描かれてきました。でも、ぶっちゃけた話をすれば、恋愛してパートナーと添い遂げ続けること自体、普通ではないですからね。生物学的には繁殖したら終わりです。だから『娼年』のように性に生きることのほうが正しいとも言えます。つまり、結婚なんてものは、異常で、滑稽で、狂気で、偏愛なのです。そんな結婚のありのままの姿をユーモラスにあえて“美化”してみせた『ファントム・スレッド』はなんとも言えない“それだよね”感を与えてくれました。
4位『ビューティフル・デイ』
最近は映画でもジェンダーだ、フェミニズムだと、LGBTQや女性ばかりがフィーチャーされて、男性は肩身が狭いよ! そんな風にひっそりごねている人がいるなら、そんなことありませんよと言ってあげたい。『ビューティフル・デイ』のように“男性を応援する”映画もちゃんとあるのだから。『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』もそうでしたが、社会から押し付けられる“男らしさ”に苦しむ男性はたくさんいて、そんな彷徨う男を救うような映画は今後も作られ続けることでしょう。『ビューティフル・デイ』はその“救い”の過程が、映画的に一切の無駄がなくクールなのが最高です。「今日は良い天気よ(It’s a beautiful day)」は、私の中では2018年の映画名言のベストですね。
3位『ヘレディタリー 継承』
怖かったですよ? 怖いか、怖くないかで言えば、当然、怖いですよ。でも、それ以上に楽しかった。高揚感すらある。あれ…私…グラハム家の末裔なのかもしれない…。家系図を調べたら、凄い事実が判明するかもしれない。はい、妄想です。映画の良さの話をすると、本作はホラー映画というか、私の中ではもはや『2001年宇宙の旅』に近い感覚で鑑賞していました。冒頭のアッと驚く始まり方、自分の力ではどうすることもできない危機的な事態に翻弄される状況、常識を超えてある“別ステージ”に到達していくエンディング。本作は私の中では別格級のホラー映画になったのですけど、ひとつ心配が…。これ、2019年以降に、本作を超えるホラー映画が現れるのか? 自分の中で『ヘレディタリー 継承』を超えるかどうかがひとつの試金石になっていく気がする。アリ・アスター監督、凄いよ…頭がとれそうだよ…。
2位『ウィリー ナンバー1』
本作はかなりマイナーだと思いますが、2018年1月19日~2月19日の期間限定でオンラインで開催された「マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル(myFFF)」の公開作品です。私はドラマチックなこともない社会の片隅で健気に生きている人物を描いた映画が好きなのですが、本作はまさにそれ。50歳の男が家出をして、なんやかんやする…というそれだけの映画。でもとても空気感が良くて、キャラも好きで、全部愛せる。個人的には『スリー・ビルボード』の別ベクトルの作品のような位置づけです。あちらも名作でしたが、でもあそこまで行動力のある人はそうそういないじゃないですか。しょせんは映画の話です。でも、『ウィリー ナンバー1』の登場人物は私と同じ凡人。だから、何も解決できない。それでもクソな人間だらけの現実でも、人生のスタートはいつしてもよいのだというメッセージに背中を押されました。
1位『シェイプ・オブ・ウォーター』
毎度のことですが、1位に選ぶ作品は自分の趣味と想いを全て捧げられるような映画にしたいと思っています。そして、このギレルモ・デル・トロ監督が生み出した映画は「愛しい」の一言で表せる一作でした。モンスター偏愛が著しい本作ですが、でもこの作品はあらゆる愛を内包した映画だと思いますし、おそらく何十年、何百年経っても色あせないメッセージ性を持っているのではないでしょうか。本作を「マイノリティを描いた映画です」の言葉で表現はしたくはないですね。予想外だったのが、本作がアカデミー賞で作品賞を受賞したこと。前回の作品賞は黒人同性愛を描いた『ムーンライト』でしたから、そこから1年でいきなり怪物との愛を描いた映画が認められるとは…。本当にアカデミー賞も変わったんだなと印象付ける一作でもありました。この調子で、怪物しか出てこない映画が作品賞をとったりしないですかね…。
総評&ベスト10に惜しくもリストできなかった作品
悩みに悩み抜いて決めたベスト10。当然、惜しくも入れられなかった映画もいっぱいあります。
まず『万引き家族』、『ROMA ローマ』、『スリー・ビルボード』、『カメラを止めるな!』は、絶対に他にも好きな人は大勢いますし、すでに評価されまくっているので、あえてバッサリ自分のベスト10には入れないことにしました。
他に『ブラックパンサー』、『クレイジー・リッチ!』、『ラブレス』、『ザ・ライダー』、『軽い男じゃないのよ』、『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』、『ディザスター・アーティスト』などがベスト10候補だったのですが、泣く泣くこぼれてしまい…。邦画があまりランクインしませんでしたが、素晴らしい作品は数えきれないほどありましたし、あとアニメ映画。アニメ映画作品も個性が光るものばかりで、新鮮な体験をたくさんさせてもらいました。
結果的に今年も自分の趣味嗜好が全開のベスト10になりましたね。
ベスト10の次は、俳優や監督のベスト…と言いたいところですが、そんなものはやり尽くされていて面白くない。なので、まず通常の作品とは評価基準が異なってくるドキュメンタリー作品から年間ベスト(ベスト・ドキュメンタリー賞)を一作。そして、個人的に「動物」が好きなので、映画に登場した動物の中から「ベスト・アニマル賞」を決めたいと思います。人間だけでなく、動物だって魅力的に輝いています。また、ベストに入れられなかったけど、ベスト以上に心に強く残った作品におくる「メモリアル賞」、さらに、世間で過小評価されている目立っていない良作映画におくる「忘れてない?賞」を選定しました
ベスト・ドキュメンタリー賞:『チャナード・セゲディを生きる』
本作は厳密には2017年にNetflixで配信されたのですが、私が観たのが2018年だったし、まあいいかということでベストにしました。なによりもこの作品で描かれる「ヘイトを煽る人たちの心理」と「人は過去の過ちを謝罪し、許されることができるのか」、そして「憎悪を放つ側と受けた側の関係性を修復できるのか」というテーマはこの2018年にグサッと突き刺さるものでした。映画界でもまさにこの作品どおりな出来事が起こりました。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガン監督の降板騒動です。私もこの一件についてはいろいろ思うことがあって柄にもない記事を書いたりしてしまったものでした。このほかにも類似の問題は山ほど起こっています。単純な正義や道徳では答えを出せない、深い深い問いかけをこのドキュメンタリーはしていたと思います。
他にも素晴らしいドキュメンタリーはいっぱいあって、ドキュメンタリーだけでベスト10を作れるくらいです。次点で『シティ・オブ・ジョイ 世界を変える真実の声』でしょうかね。
ベスト・アニマル賞:『パディントン2』の“パディントン(クマ)”
気のせいかな、なんか2018年はクマが映画界で目立っていませんでしたか。そんな並み居る名俳優ならぬ“名クマ”たちをおさえての、トップに君臨するのはやっぱりパディントンです。正直、『パディントン2』なので続編ですよ。もう知っているし、驚くことはないはず。でも、このクマは1作目を上回る進化を遂げていて、このまま行くとイギリスの首相とかになってもおかしくないなとさえ思ったりも。今の時代は、お手本になる存在が必要です。パディントンこそ、全ての人類が見習うべきなのです。
メモリアル賞:『トレジャーハンター・クミコ』
本作も日本では2017年にビデオスルーになった作品ですが、私の鑑賞が2018年だったのでここに。本当は『バーフバリ 完全版2部作』をメモリアル賞にする気でいたのですが、ほら、あの方は信者が大勢いるじゃないですか。無論、私もマヒシュマティ王国に移住する老後計画をちゃんとたてているくらい大好きですよ。でも、やっぱりこの賞は他の人にあまり知られていない自分の心にこっそり閉まっておきたい映画を選びたい…(センチメンタルで気持ち悪い文章)。ということで、『トレジャーハンター・クミコ』を選びました。社会の片隅で健気に生きている人物を描いた映画に、シネフィル的な要素がプラスされているのが評価のポイント。
忘れてない?賞:『ザ・ライダー』
アメリカでは超高評価です。名だたる著名人が2018年のベスト10に入れています。でも、日本では残念ながらビデオスルーとなってしまい、全く目立つことなく…。もし劇場公開されていたら、絶対にベスト10に加える人が少なからずいたでしょう。本当に惜しいです。“クロエ・ジャオ”監督という新しい才能の輝きをぜひ大勢の人に観てほしいですね。
以上です。
2019年もたくさんの心震わす映画に出会えますように。