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『愛はステロイド』感想(ネタバレ)…ラブ・ライズ・ブリーディング

愛はステロイド

一緒に汗と血を流そう…映画『愛はステロイド』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Love Lies Bleeding
製作国:イギリス・アメリカ(2024年)
日本公開日:2025年8月29日
監督:ローズ・グラス
DV-家庭内暴力-描写 性描写 恋愛描写
愛はステロイド

あいはすてろいど
『愛はステロイド』のポスター

『愛はステロイド』物語 簡単紹介

トレーニングジムで報われない労働に汗を流すだけのルーは、自分の夢を叶えるためラスベガスへ向かおうとするボディビルダーのジャッキーと出会い、恋に落ちる。しかし、ルーは、街の裏社会を仕切って悪事に手を染める父親や、夫から酷い虐待を受けている姉など、家族にさまざまな問題を抱えていた。そしてジャッキーはルーに薦められたステロイドを使うようになり、何かが変わっていく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『愛はステロイド』の感想です。

『愛はステロイド』感想(ネタバレなし)

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愛のステロイド

「ステロイド(steroid)」は特定の有機化合物のことですが、天然に存在しており、とくにホルモンに作用することでも有名です。

例えば、性ホルモンもステロイドのホルモンですし、その性質を応用したのが「アナボリックステロイド」と呼ばれるもので、筋肉などのパフォーマンス向上薬となっています。この薬物を縮めて「ステロイド」と呼称することが多いのでわかりにくいですが、ステロイド自体は本来は前述したとおり有機化合物を指すものです。

アナボリックステロイドは性ホルモンのテストステロンと構造的に関連します。テストステロンは男性ホルモンとも呼ばれるため、まるで男性にしか存在しないと思われがちですが、女性にもしっかり存在し、女性の健康に欠かせません。

とは言え、アナボリックステロイド自体をむやみに濫用するのは推奨されず、医者など専門家の管理のもとで慎重に扱うのが基本。

今回紹介する映画は、医療的にはナンセンスですが、もうそんなのどうでもいい!という清々しい思いきりの良さでぶちかましてくれる一作です。

それが本作『愛はステロイド』

本作はなかなか強烈な邦題がついていますが、原題は「Love Lies Bleeding」。そしてタイトル以上に中身も凄まじく説明が大変な作品で…。

主人公はトレーニングジムで働いている若い女性で、ボディビルダーの女性と恋に落ちるという、サフィックなロマンスで始まります。それがあることからクライム・スリラーへと急転直下し、怪しげなフィルム・ノワールの空気も漂い…。そんな感じで多ジャンルに横断していきます。ちょっと漠然としすぎる紹介だけども、本当にそうなんです…。

とりあえず『テルマ&ルイーズ』よりも、どす黒く、ヘビーで、マッチョな映画と思ってもらえれば…。

このインパクト絶大な『愛はステロイド』を2024年に生み出した監督が、2019年に『セイント・モード/狂信』で鮮烈な長編映画監督デビューを果たした“ローズ・グラス”。今作でもそのストーリーテラーの奇才っぷりを見事に発揮しました。やはり只者じゃないクリエイターだ…。

『愛はステロイド』で主演するのは、クィアなコミュニティからも支持の高い“クリステン・スチュワート”。今作はクィア・キャリアに刻まれる一本になったでしょう。

共演は、『アントマン&ワスプ:クアントマニア』やドラマ『マンダロリアン』などに出演した“ケイティ・オブライアン”。今作ではステロイド漬けのボディビルダー役でムキムキなのですが、“ケイティ・オブライアン”本人もボディビル大会に出場経験があり、当人はステロイドを使いたくなくてボディビルをやめたそうで、不思議な縁で役が回ってきましたね。

他には、『REBEL MOON パート1 炎の子』“ジェナ・マローン”、ドラマ『ウエストワールド』“エド・ハリス”、ドラマ『ディキンスン 若き女性詩人の憂鬱』“アンナ・バリシニコフ”『彼女の面影』を監督した“デイヴ・フランコ”など。

好きな人はハマる特別な映画となりうるポテンシャルがある作品ですので、『愛はステロイド』が気になったらぜひ。ステロイドとは違ったパワーが注入されます。

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『愛はステロイド』を観る前のQ&A

✔『愛はステロイド』の見どころ
★多ジャンルをパワフルに横断する独特なストーリーテリング。
✔『愛はステロイド』の欠点
☆リアル寄りではなく、荒唐無稽な演出もあるので、観る人を選ぶ。

鑑賞の案内チェック

基本 生々しいドメスティック・バイオレンスの描写があります。
キッズ 1.0
性行為や激しい暴力の描写が多いです。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『愛はステロイド』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

1989年。ニューメキシコ州の田舎町。大勢が汗水を流すトレーニングジムが夜間も賑わっています。苦痛に耐え、ひたすらに筋力を鍛え、体力の限界を高めている人たちでいっぱいです。

そこで雑用係で働くルーは、詰まったトイレを掃除し、くたびれていました。しつこくつきまとう調子のいいデイジーにたかられながらも、この生活にしがみつくしか自分にはできません。帰宅し、猫に餌をやり、一服。溜め込んだ欲は自分で発散するだけ。

この町から出ることもできません。理由は家族です。

ルーの姉のベスは夫のJJと子どもと過ごしていますが、ベスは夫にこき使われ、虐げられていました。しかし、従順な妻に徹しており、そんな姉が心配で顔を出しに行くこともあるものの、それくらいしかできない状況でした。見捨てることはできません。

そしてルーの高齢の父とはできるかぎり距離をとっていました。頼りにしたくはないのです。

ところかわってホームレスのボディビルダーのジャッキーは、夜中にセックスワークでわずかに稼ぎつつ、なんとか生きることができていました。筋力トレーニングだけはどこでも欠かさず、夢のラスベガスを目指す闘志を燃やしています。

ジャッキーは仕事欲しさにセックスワークの客から教えてもらったある場所へ行きました。辺鄙な射撃場です。そこは長髪の老人が仕切っており、実はその男はルーの父親でした。彼は銃器の密売で荒稼ぎしており、裏では邪魔な人間を秘密の崖に落として処分したりもしていました。

そんなことも知らず、ルーはトレーニングジムでジャッキーが視界に入り、見惚れてしまいます

ジムを閉じた後、外でまたタバコを吸っているとジャッキーに声をかけられ、タバコを一本分け与え、ぎこちなく会話。ジム利用者の男が絡んできて、ジャッキーは思わずパンチし、相手に殴り返され、ルーはその場を撤収します。

ジム内で手当てをしてあげる、2人は少し打ち解けます。ルーはジャッキーにステロイドを勧め、最初は拒否したジャッキーでしたが、受け取ります。そして2人はその場で衝動的にキスするのでした。

家で体を交え、ジャッキーとルーは同棲を始めます。

愛は深まり、同時にジャッキーのステロイド依存もますます引き返せないものになっていき…。

この『愛はステロイド』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/08/30に更新されています。
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出会うべくして出会った納得感

ここから『愛はステロイド』のネタバレありの感想本文です。

『愛はステロイド』の英題の「Love Lies Bleeding」は、「アマランサス」という植物のことで、赤い花が滴り落ちる血のようであるため、そう呼ばれています。ヴィクトリア朝時代の花言葉で「絶望的な愛」を意味し、ノワールでロマンチックでもあるこの映画にふさわしいですね。

鬱屈した人生に沈んでいる主人公が、その暗さを照らすようなエネルギッシュな存在に出会い、一瞬にして惹かれていく…。その導入はよくあるロマンスの定番です。

この“クリステン・スチュワート”演じる主人公ルーは、不愛想で人付き合いが苦手で、あからさまに常に人生で損な役回りを常にやらされてきたタイプの人間。作中ではDV被害を受け続けるも自覚してくれない姉の身を案じるという精神的過労、さらに裏社会の父によって搾取されたトラウマがこびりつく過去など、本当にボロボロです。

ダメ押しで、デイジーという小賢しい女にまでストーカーされている状態が慢性化している姿まで冒頭で映し出し、もうこのルーは抵抗する気力さえ失っています

そんなルーが出会うジャッキーの眩しさ。確かにジャッキーもかなり恵まれない境遇にはあるのですが、それでもルーと決定的に違うのはそのパワーです。単に筋力があるというそのまんまの意味ではなく、「この状況でも食らいついて夢に手を伸ばしてやる!」というバイタリティ溢れるポジティブ思考ですかね。

一般的にこういう二者はどちらかが男で、どちらかが女、要するに「男女」という異性愛前提で展開することが多いです。それこそ『ショーガール』とかがそうですけど、そうやって男女が共依存的な関係を構築する中での、ひとつのジェンダーの力場がまたドラマを生みます。

今作は女性同士というサフィックな関係性なので、少し違ってきます。“ローズ・グラス”監督はこのクィアネスの映し出し方が巧みでした。

そもそもトレーニングジムという空間自体がクィアっぽい匂いが際立つのですが、一方でそんな露骨なクィアな交流をできる場でもありません。ただでさえ舞台は保守的な地域です。ルーもジャッキーも自分のセクシュアリティを抑え込んでいます。

しかし、あの序盤、男性がうざったく絡んでくる、とてもよくある光景にて、ジャッキーが何の遠慮なく1発ぶちかましてくれた瞬間、2人のその遠慮が一気に消え去り、感情がぐわっと溢れてくる…。その抑圧されて封じられていた感情の流れの描き方が自然で…。

これ、よくありがちな下手な描き方だと、女性2人の恋愛をエロティックに描こうとその単純なセクシャルなシーンにばかり作り手の意識が先走って、この2人がどういう感情の流れで体を交えるまでに至ったのかという、そこを描くのを忘れてしまいがちなのですが、本作はとにかくまずは感情を描くことに専念しているのが良かったです。

たぶん出会った初日にもうカップルができあがってしまった2人ですけど、観客として眺めているぶんには全く唐突に感じない…それこそ出会うべくして出会った理想の女2人だなという納得感がありました。

でもそこで「幸せになりました。めでたしめでたし」とはいかないのが『愛はステロイド』です。

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軽々と凌駕するジャンルの気持ちよさ

『愛はステロイド』において、ルーとジャッキーというサフィックな関係性ではありますが、同じ女性同士でも先ほども書いたように、2人はかなり人間性が異なっています。

その異なる女2人を繋げるのがステロイドです。当初の「ステロイドを与える」という行為は、一種のセックス・プレイの土台みたいな感じでもありました。とくに弱く脆い立場であるルーが、強いジャッキーにステロイドを与えて、主導権を握っているような構図になるあたりですね。ルーにしてみれば、ジャッキーのパワフルさをコントロールできる感覚…それ自体が興奮になります。

しかし、それはルーの想定外の事態を起こす…というところが本作のスリルです。しかも、一般の想定(ステロイドの過剰使用は健康に有害…程度の認識)を大幅に逸脱する、とんでもない事態が勃発し、極めて映画的にダイナミックな展開になります。

まずジャッキーが殺人マシーンと化してしまいます。ここからスラッシャー映画化していき、手を血で汚します(まあ、殺されるのが真っ先にアイツなので特段こちらの心は痛まないけど)。

さらにステロイドにどっぷりハマったジャッキーがラスベガスのステージ上で幻覚的に体感するある出来事といい、ジャンルはボディホラーへと転移。『サブスタンス』もあったので2024年は女性主体のボディホラーが豊作だった…。

そして終盤にもっとビッグな飛躍が…。「シー・ハルク」をノワール・スリラーでやってみせる大胆さが圧巻です。

『愛はステロイド』のラスボスとして“エド・ハリス”演じるルー・シニアもかなりの異様さを発揮しているのですが、それを軽々と凌駕するジャンルの気持ちよさ。巨人女というフェティシズムで消費されやすいものを、クィア・スリラーの壮大なカタルシスに利用する発想がお見事でした。

なお、この解放感のあるラストの終わり際に、ガラっと雰囲気を変えた「ちょっとした残忍な死」がオマケのようにくっついて閉幕となるのですけども、そのインモラルさも合わせて、変に硬くなりすぎないバランスで良かったです。

ジャンルのバランスとしては最近だと『クィア QUEER』に部分的に似ている感触もあるのですが、『愛はステロイド』は完全にフィクションなので自由度があり、それを上手に乗りこなしていました。何よりもポジティブさが突き抜けているのがスッキリするところ。

あらためて本作『愛はステロイド』は、いろいろなジャンルを混ざ合わせながらも方向性を見失わず、クィアネスを芯にして、新しい映画を確立させた一本として、今後とも語られ続ける作品になりそうですね。「この映画は『愛はステロイド』の系譜だね」とか、そんな感じで。

『愛はステロイド』
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
○(良い)
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関連作品紹介

クリステン・スチュワートが出演する映画の感想記事です。

・『スペンサー ダイアナの決意』

・『セバーグ 素顔の彼女』

・『アンダーウォーター』

作品ポスター・画像 (C)2023 CRACK IN THE EARTH LLC; CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED ラブライズブリーディング

以上、『愛はステロイド』の感想でした。

Love Lies Bleeding (2024) [Japanese Review] 『愛はステロイド』考察・評価レビュー
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